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2026.10.19 Mon UP

水路網の設定が洪水時における流域の水収支に与える影響を解明
~数値解析における水路網の適切な設定範囲を提示~

研究の要旨とポイント

  • 洪水時の流域全体の水動態を正確に把握することが重要な課題となっていますが、数値解析において、水路網をどこまで設定すべきかについては十分に検討されていませんでした。
  • 2023年9月に千葉県一宮川流域で発生した大規模氾濫を対象に、RRI-RFモデル(降雨流出氾濫モデルと河川流モデルを融合したモデル)を用いた数値解析により、水路網の設定が河川の水位や流量、流域全体の水収支に与える影響を明らかにしました。
  • 水路網の設定範囲の指標として上流集水面積の閾値(Amin)を提案し、対象流域では 0.1 ~ 0.2 km2が適切であることを示しました。
  • 今後、さまざまな流域や洪水条件での検証を重ねることで、気候変動下における流域治水の効果を定量的に評価するための基礎的な知見となることが期待されます。

研究の概要

東京理科大学大学院 創域理工学研究科 社会基盤工学専攻の大塚 竜太朗氏(2024年度 修士課程修了)、同大学 創域理工学部 社会基盤工学科の二瓶 泰雄教授、大埜 健吾氏(2026年度 修士課程2年)の研究グループは、千葉県一宮川流域全体を対象に、降雨流出氾濫モデル(RRIモデル、*1)と河川流モデル(RFモデル、*2)を融合したRRI-RFモデルによる数値解析を行い、水路網の設定が河川の水位、流量および流域全体の水収支に与える影響を解明しました。

世界各地で豪雨による洪水災害が激甚化・頻発化しており、流域全体の水動態を詳細に把握することが急務となっています。数値モデルの構築において水路網は重要な要素ですが、大規模洪水時の水路網の構成が、河川水位、流量、流域の水収支に及ぼす影響については、十分に検討されていませんでした。そこで本研究では、2023年9月に一宮川流域で発生した大規模洪水を対象に、上流集水面積の閾値Amin(*3)を変えて複数の水路網を設定し、降雨流出・河川流・氾濫流シミュレーションを実施しました。

その結果、水路網が発達していると、洪水の上昇期に河川への流出が促進され、水位と流量の上昇が早まることを明らかにしました。また、水路は流域内の排水を促進して浸水深を低減する一方、河川内の流量や下流端の累積流出量を増加させるなど、流域全体の水収支に大きな影響を与えることを示しました。Aminは、本流域・本洪水では0.1 ~ 0.2 km2が適切であり、特に谷地形の流域では、主要な水路を取り込むことが解析精度の向上に寄与することもわかりました。

今後、さまざまな流域や洪水条件で検証を進めることで、流域治水や気候変動下の洪水対策の効果を、定量的に評価する手法への発展が期待されます。

本研究成果は、2026年9月30日に国際学術誌「Journal of Hydrology: Regional Studies」にオンライン掲載されました。

図 本研究の概要

図 本研究の概要

研究の背景

豪雨による洪水災害は世界各地で深刻化し、大規模な被害が相次いで報告されています。近年の気候変動により、そのリスクは一層高まると予想されており、人口増加や都市化の進展に伴う経済的損失や人的被害もさらに拡大していくおそれがあります。こうした被害を防ぐには、流域における水動態を解明し、効果的な治水・洪水対策を講じることが不可欠です。

数値シミュレーションで流域の水動態を再現する際、水路網の設定は流出過程に大きく影響します。そのため、従来は排水密度(*4)に着目した研究が多く行われてきました。しかし、農村地域は山間部の奥深くまで広がっており、上流集水面積がどの程度の水路まで反映して設定すべきかについては、これまで検討されてきませんでした。また、水路の設定が、上流から下流への水位・流量の時空間変化や流域全体の水収支に及ぼす影響についても、十分に明らかにされていませんでした。

そこで本研究では、農村地域が山間部まで広がる千葉県一宮川流域を対象に、RRI-RFモデルを用いた数値解析を行いました。大規模洪水時における水路網の設定が、河川の水位、流量および流域全体の水収支に与える影響を調べるとともに、水路網の適切な設定範囲とその決定に関わる要因を検討しました。

研究結果の詳細

本研究における特筆すべき成果は、以下の2点です。

  • 水路網が流域全体の水動態に与える影響の解明

    水路の有無は河川の水位と流量の時系列変化に大きく影響することが明らかとなりました。水路網の設定範囲を上流まで拡張すると、斜面に滞留する水量が減少し、水路および河川内の水量及び下流端の累積流出量が増加しました。また、河川水位、流量、氾濫面積、氾濫量にも明確な違いが生じ、水路網が洪水時の流域全体の水収支や水理特性に大きく影響することを示しました。

  • 上流集水面積の閾値(Amin)を用いた水路網の設定範囲の評価

    Aminを変化させ、水路網、河川水位、氾濫計算の再現性の観点から精度を比較しました。その結果、対象とした一宮川流域の洪水では、主要な水路の再現にはAmin = 0.1 km2、河川水位の再現性も考慮するとAmin= 0.1 ~ 0.2 km2が適切であることがわかり、Aminが水路網の設定を評価する指標として有効であることを示しました。さらに、従来の指標である排水密度は、土地利用より水路網の密な流域と疎な流域がある場合の水収支の評価には適していません。これに対し、Aminを指標とすることで、地形的特徴や水収支の特性をより適切に反映できる可能性が示唆されました。一方、この範囲は対象流域と洪水に固有のものであるため、他流域への適用可能性については、条件を変更した検証が必要です。

    本研究を主導した二瓶教授は「一般的な広域の洪水解析では、主に河川を明示的にモデル化し、それより上流の小規模な水路の影響は、流出パラメータなどによって間接的に表現されることが多いです。しかし、水路は雨水を河川へ排水する重要な役割を持っています。そこで、水路網をモデル内に直接反映することで、パラメータ調整への依存を抑えながら、より実現象に近い流域内の水の動きを再現できると考え、本研究に取り組みました。本研究で示したAminによる水路網の設定方法は、流域全体の降雨流出、河川流、氾濫を一体的に評価するモデルの高度化に活用できます。今後、他の流域や異なる洪水条件で検証を進めることで、流域治水や気候変動下の洪水対策の効果を、より定量的に評価する手法へと発展することが期待されます」と、コメントしています。

※ 本研究は、公益財団法人 河川財団の助成を受けて実施したものです。

用語

*1
降雨流出氾濫(RRI: Rainfall-Runoff-Inundation)モデル
降雨から河川への流出と、河川からの氾濫を一体的に計算する分布型水文モデル。斜面や河川、氾濫原での水の流れなど流域全体で予測できる。
*2
河川流(RF: River Flow)モデル
河川内の水の流れ(水位・流量)を詳細に計算するモデル。
*3
上流集水面積
河川や水路上のある地点より上流側で、降った雨がその地点に集まる範囲の面積。値が小さいほど、水路網の上流端に近い細い水路であることを示す。
*4
排水密度
流域内の河川・水路の長さの合計を流域面積で割った値。水路網の発達度合いを表す指標。

論文情報

雑誌名

Journal of Hydrology: Regional Studies

論文タイトル

Impact of drainage channel network on hydrologic and hydraulic responses over the entire basin

著者

Ryutaro Otsuka, Kengo Ohno, Yasuo Nihei

DOI

10.1016/j.ejrh.2026.104031

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