新たな価値創出へのあくなき挑戦

東京理科大学は2031年に創立150周年を迎えます。創立150周年、さらにはその先に向けて本学の伝統をつなげていくためには、これまで積み上げてきた「教育」「研究」「社会価値の創造」を一体不可分と捉え、科学と技術に「新たな領域」をつくり、「新たな価値」を創出することに挑戦することが必要不可欠であると考えています。

2022年に産学連携機構を学長直下の組織として新設したことは、その挑戦への私の決意の一つです。本学の「教育」「研究」から生み出される人材と科学技術は、社会に実装され貢献することで初めて実を結び、「社会価値」となり、社会の変革を促します。そのような「社会価値の創造」は大学の社会的責務であり、産学連携機構はその責務を牽引する役割を担っています。

更に、建学の精神「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」からも伺えるように、本学独自のアントレプレナーシップは、本学に受け継がれる伝統の一つです。昨今スタートアップに対する支援や創業の機運が高まっていますが、本学の大学発スタートアップ育成の歴史は長く、その実績は国内の大学でもトップクラスを誇っています。本学がグループ会社と築くスタートアップエコシステム「TUSIDE」も大学と一体となって実績をあげており、その力を以て、更なる飛躍を期待しています。

東京理科大学は、皆様の「社会価値の創造」を通した「社会の変革」への挑戦を、熱く応援いたします。

やってみなはれ！～理科大の総合力～

私は、理科大の薬学部を卒業した者です。当時は神楽坂に通い、学生運動も盛んな時代でした。卒業後、米国ボストンにある大学院修士を卒業して帰国し、国内の製薬会社に就職しましたが、米国生活が懐かしく、思い立って、ソルトレイクシティにある設立間もない小さな大学発ベンチャーの事業開発担当に身を置きました。それから、起業家精神が芽生えた次第です。製品開発、最大手企業との交渉や契約締結、ナスダックへの株式上場、工場建設、販売や大手企業に株式売却やストックオプションの行使など約10年の間に多くのことに携わりました。その経験を活かして、国内でナノキャリア（現NANO MRNA）を起業して経営しました。また、知財とビジネスにかかわる国際協会の役員や会長職を経てイノベーションなど知財に関わるアイデアや成功、係争や和解などについて触れる機会を得ました。

今でも多くの起業家と接することがありますが、「やってみなはれ！」と先ずは発言します。そうは言っても、ビジネス教育が育まれ、起業家が多くて豊富な人材や資金の支援環境にある米国とは違い、日本の環境は貧弱です。ですから、団体戦であるチーム力を活用すれば何とか戦えると考えています。つまり、理科大におかれては理工薬の連携と卒業生が一丸となってチームを形成してスタートアップを支え、優れた企業戦略と成長を見届ける組織の設立が必要です。これまでに、多くの方は成功を目的に出口戦略を述べていますが、成功は適切な始まりとプロセスによって決まります。私は事業の失敗を恐れない、自由な発想を実装できる入口戦略を支える環境整備こそが、国や大学で行える機会創出であろうと考えます。そして、起業に関わる誰しもが「やった！」とこぶしを上げる日を迎えて欲しいものです。