ニュース&イベント NEWS & EVENTS

2026.10.22 Thu UP

グラフェン一次元ナノ構造体を高密度・高配向で実現
エネルギー・デバイス・機械応用が期待されるグラフェンナノスクロール(GNS)

九州大学
科学技術振興機構
東京理科大学
大阪大学
東京工芸大学

ポイント

  • 優れた電気的・力学的性質をもつグラフェン(※1)を筒状に巻いた形状のグラフェンナノスクロール(GNS)が、エネルギー・デバイス・機械応用の観点から近年注目を集めている。
  • 本研究では、グラフェンの引っ張りによる歪み(ひずみ)を利用してGNSを高密度に向きを揃えて作製する新たな作製法の開発に成功するとともに、GNSの物性に大きな影響を与える巻き方(カイラリティ(※2))の制御も実現した。
  • GNSはナノチューブとは違って端が閉じていないことから、ガス貯蔵などのエネルギー応用から高電流配線・メモリといったデバイス応用まで幅広い分野への波及効果が期待される。

概要

炭素からなるカーボンナノチューブ(CNT)やシート状のグラフェンはともに多くの優れた特性を示すことが知られています。グラフェンを筒状に巻いた「グラフェンナノスクロール(GNS)」は、CNTと同じく一次元構造をもちますが、CNTとは違って緩くロールしており、その層間に分子やガスなどを貯蔵することも可能で、CNTよりも電流を多く流すこともできることから注目を集めています。また、巻き方(カイラリティ)によって物性が変化することから、学術的にも興味深い対象です。

これまで基板上でGNSを高密度に並べて作製する方法はなく、液滴の浸透力を使って数本程度のGNSを作って、電気特性や巻き方による物性の違いを調べていました。一方、溶液中で作る方法では、グラフェンシートの巻き方が十分ではない上、複数のGNSが絡み合った構造をとってしまいます。このように、GNSを作る手法は十分ではなく、新たな作製手法の開発が求められていました。

九州大学大学院総合理工学研究院の吾郷浩樹主幹教授、パブロ・ソリス-フェルナンデス特任准教授、光原昌寿教授、同大学院工学研究院の髙橋厚史教授、東京理科大学の山本貴博教授、大阪大学産業科学研究所の末永和知教授、スン・ハイミン特任講師、産業技術総合研究所の林永昌主任研究員、東京工芸大学の松本里香教授らの研究グループは、グラフェンに引っ張り歪みを与えることで、きれいに配列したGNSを高密度に作製する方法を見いだし、GNSが電気配線やメモリとして動作すること、また分子を層間に貯蔵できることを明らかにしました。さらに、歪みを与える方向でカイラリティも制御できることを実証しました。今回の発見はカイラリティを制御した一次元グラフェン構造という学術的に興味深い新規ナノ材料を提供するだけでなく、エネルギー変換やバッテリー、配線やメモリ材料、強化材料など幅広い応用に役立つことが期待されます。

本研究成果は英国の科学誌「Nature Communications」に2026年10月21日(水)午後6時(日本時間)に掲載されました。

高密度に合成したGNSの顕微鏡写真とGNSのモデル図
高密度に合成したGNSの顕微鏡写真とGNSのモデル図

研究者からひとこと:

グラフェンの皺(リンクル)をなくすために、テープに密着させたグラフェンを機械的に引っ張ったところ、思いがけず巻いた構造のナノスクロールができることが分かりました。それからは収率を上げるため様々な検討を行いました。まさに、セレンディピティ(偶然の発見)で得られた成果といえるでしょう。(吾郷浩樹)

研究の背景と経緯

炭素材料は、スマートフォンのリチウムイオン電池の電極から航空機の機体まで幅広く私たちの生活に使われています。2000年代は一次元のナノ炭素材料であるカーボンナノチューブ(CNT)が興味を集め、最近では二次元シートのグラフェンが学術的に大きく注目されるとともに、光センサー(※3)やバイオセンサー、フレキシブルデバイス、電池の電極などの応用研究が活発に進められています。このグラフェンを筒状に巻いたものが「グラフェンナノスクロール(GNS)」です。CNTとは違って、GNSは巻物のように、端が開放されたオープンな一次元構造を有しています。

このユニークな構造のおかげで、GNSは層間、および中心部にイオンや分子などを取り込むことができ、エネルギー変換やバッテリーなどへの応用が期待できます。一方、多層CNTは閉じた筒状構造をもつため、層間を広げることができず、分子やイオンを層間に入れることはできません。さらに、GNSはグラフェンシート1枚からなり、全体にわたって電流を流すことができることから、非常に高い電流密度が得られ、銅に代わる配線材料として有望です。その他にも、スクロールという特異構造やその巻き方(カイラリティ)に依存した興味深い電子物性が理論的に提案され、サイエンスの対象としても興味深いものです。

GNSは、以前から仮想的な構造モデルとして考えられていましたが、制御されたナノスクロールの構造をグラフェンで作るのはとても困難でした。最近になって、グラフェンの分散液を攪拌(かくはん)することでスクロール状に巻いた構造を誘起する方法が報告されるようになりました。しかし、液中では不完全に巻いたGNSが束になってスパゲティ状の不規則な構造をもちます。一方、基板上でグラフェンの膜からGNSを合成する検討も行われていますが、グラフェンのごく一部しかスクロール化できておらず、方向制御、そして密度という面においてクオリティが低いものでした。

研究の内容と成果

本研究では、グラフェンに引っ張り歪みを加えて、その歪みを解放することで、高効率にGNSを作製する方法を見いだしました。その作製プロセスを図1に示します。まず銅触媒の上に一枚のグラフェンのシートを合成します。次に、紫外線で粘着力が変化する機能性テープ(UVテープ(※4))をグラフェンに貼り付けた後に銅から剥がし、グラフェンが張り付いたUVテープを機械的な引張装置にセットします。10%程度までテープを延伸した後、加熱や溶媒によって粘着剤を低下させると、自己組織的にグラフェンが巻き始めGNSの形状を取るようになることが分かりました。最後にこのGNSをシリコン基板に移して種々の解析を行いました。

図1
図1 本研究で開発した高密度・高配向GNSの作製方法。紫外線で粘着力が変化するUVテープを用い、引っ張り歪みを利用して、効果的にナノスクロール構造を作ることができる。

これまでGNSの合成には、グラフェンとシリコン基板の間にエタノールなどの液体を浸透させて、グラフェンを巻く方法が使われていましたが、その収率は非常に低い上、巻く方向にも規則性はありませんでした。例えば、図2(a)のような低密度のGNSが得られる程度でした。それに対し、本研究の引っ張り歪みを利用する方法は、図2(b)に示すように極めて高い密度でGNSが得られます。さらに引っ張る方向によってグラフェンが巻く方向が決まるので、ナノスクロールの向きも揃っています。図2(c)に示すナノスクロールの断面写真から、実際に筒状のロールした構造であることも確認できています。

図2
図2 (a) 低密度で向きが揃っていないGNSの光学顕微鏡写真。矢印がGNSを示す。(b) 本研究で得られた配向GNS。非常に高い密度で方向の揃ったGNSが得られていることが分かる。(c) 1本のGNSの断面の電子顕微鏡写真。

従来のGNSの合成法と本研究の比較を図3に示します。GNSの長さ・密度ともに世界最高の値が得られていることが分かります。また、これまでは基板の限られた場所でGNSが得られていましたが、本研究では基板の広い範囲でGNSを作ることができます。上記の結果は、本研究の歪み印加やUVテープの利用の有効性を示すものといえます。

図3
図3 従来の基板上に作られたGNSと本研究のGNSの、長さと密度の比較

本方法のもう一つの利点は、GNSの巻く方向を引っ張りの方向で制御できることです(この巻き方はカイラリティと呼ばれます)。図4(a)は六角形の単結晶グラフェンに引っ張り歪みを与えずにシリコン基板に移した顕微鏡像です。この六角形グラフェンの各辺はジグザグエッジと呼ばれる構造になっていることが知られています。この辺に対して平行に引っ張ることで、ジグザグエッジが円周上に配置されるジグザグ型のGNSが得られます(図4(b))。また、引っ張る方向を変えるだけで、アームチェアGNS(図4(c))やカイラルGNS(図4(d))も作ることができます。これまでは液滴の浸透方向でカイラリティが決まっていたため、生成されるGNS構造をほとんど制御できていませんでしたが、本研究では高密度化とともに、カイラリティ制御までできるようになった点で画期的であるといえます。

なお、CNTではカイラリティに依存して、電子構造が半導体的になったり金属的になったりすること、また多層CNTでは各層のカイラリティに規則性がないことが知られています。しかし、GNSでは同じ方向にグラフェンシートが巻き続けるため、1本のGNS内で基本的に同じカイラリティをとることになります。このカイラリティには角度に加えて、右巻きや左巻きの自由度があり、今後、興味深い研究対象となります。

図4
図4 (a) スクロール化する前のグラフェンの単結晶グレインの光学顕微鏡像。六員環の向きを分かりやすくするため、グラフェンのモデル図を重ねている。(b-d) 引っ張り方向で六員環の向きを制御して合成したGNS。矢印はテープを引っ張った方向、点線は元のグラフェンの形状を示す。(b) ジグザグGNS、(c) アームチェアGNS、(d) カイラルGNS。

GNSには多くの特長があります。その一つは高い電流を流すことができる点です。多層CNTは最外層のナノチューブしか電流が流れませんが、GNSは大きな一枚のグラフェンシートから構成されるため、GNS全体で電流が流れる、つまり非常に高い電流密度を得ることができるとされています。実際、図5(a)に示すように、1本の細いGNSで1 mAを超える電流が得られています。また、GNSの層間には水や酸素などのガスが存在できるため、デバイス動作時に電荷を一時的にトラップする(蓄える)ことで、図5(b)のようにメモリとして動作させることができます。GNSの層間に分子をインターカレーション(※5)することで、電気伝導性をさらに向上することにも成功しています(図5(c))。なお、電池への応用として期待がもたれるアルカリ金属もGNSの内部にインターカレーションできることも確認しています。

図5
図5 (a) 1本のGNSの電流特性。電圧を上げてどこまで電流を流すことができるかを調べている。このGNSでは14 Vで約1.4 mAの電流が得られている。挿入図は過電流で焼き切れたGNSを示す(矢印が切れた箇所)。(b) 1本のGNSを用いたメモリ動作。電圧によってONとOFFの状態を切り替えることができる。W、R、Eはwrite, read, eraseを表す。(c) 金属塩化物のインターカレーションによる電気特性の変化。電流値が3~4倍向上する。

二次元物質は、金属的なグラフェンに限らず、半導体性の遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)(※6)や絶縁性の六方晶窒化ホウ素、さらには超伝導体や磁性体など豊富な種類があります。このような種々の二次元物質をグラフェンと組み合わせてナノスクロールを作れば、ユニークな機能やさらに優れた特性をもった材料になり得ます。そこで、グラフェンの上に、単層のTMDフィルムを載せて、一緒に巻くことも試みました。多くの検討の結果、図6(a)のモデル図に示すように、グラフェンとTMDを一緒に巻くコ・スクロール(MoS2共巻きスクロール)やTMDナノリボンをグラフェンで巻いたコアシェル・ナノスクロール(MoS2内包スクロール)の実現に成功しました。図6(b)に示す顕微鏡写真や断面測定などから、GNSがTMDとともにスクロール化していることを確認しています。TMDは可視域に吸収を持つ半導体であることから、光に対する応答も期待できます。TMD-グラフェンのコ・スクロールからなるトランジスタに対して可視光を照射したところ、明瞭な光応答が見られ、光センサーとしての可能性を示す結果が得られました(図6(c))。なお、TMDを含まないGNSではこのような光応答は見られなかったことから、TMDによってグラフェンに新たな機能を付与できたといえます。

図6
図6 (a) グラフェンとMoS2を組み合わせて合成したヘテロナノスクロールの構造。(b) MoS2-グラフェンの共巻きスクロールの顕微鏡写真。(c) ヘテロナノスクロール・トランジスタの光応答。TMDと一緒にグラフェンを巻くことで、明瞭な光応答が見られることを実証した。

今後の展開

GNSはユニークな構造をもつナノカーボン材料であり、その直径やカイラリティ依存性など、これまで実験的にはほとんど研究されておらず、今後さらなる研究の進展が期待されます。また、共同研究を含め、応用研究も進めていきます。例えば、イオン貯蔵によるキャパシタ応用、電気的に構造変化するMEMSデバイス応用、高い電気伝導性をもつ配線応用、非常に長いGNSによる機械応用などが考えられます。さらに、半導体の二次元物質である遷移金属ダイカルコゲナイドのナノスクロールでは超伝導や光起電力効果を示すことが報告されていることから、他の二次元物質のナノスクロール創製にも展開していきます。

本研究は、原子レベルの薄さしかなく、扱いが難しい二次元物質を、機能性テープを用いて構造制御する可能性を示した成果といえます。今後はこの独自の手法をさらに発展させ、半導体集積デバイスをはじめとする先進的な研究を推進していきたいと考えています。

用語解説

(※1)グラフェン
炭素原子からなる二次元の超薄膜材料。厚みが原子1個分しかないのにもかかわらず、グラフェン中を流れる電子のスピードは非常に速く、高い表面積や光透過性なども有する。このことから、光センサーやバイオセンサー、高速トランジスタ、透明電極などへの応用研究が活発に行われている。

(※2)カイラリティ
物質のらせん性を示し、カーボンナノチューブやGNSでは巻く角度によって異なるカイラリティを持つ。巻き方によって右巻きと左巻きも存在し、カイラリティをもつ物質は物性的に興味深い研究対象となっている。

(※3)光センサー
光を照射することで電荷分離が物質中で起こり、それに伴って物質の電流特性が変化するのを利用して、光を検知するセンサーのこと。この動作には光を効率的に吸収する物質が必要である。

(※4)UVテープ
粘着テープの一種で、紫外線(UV光)を照射すると粘着剤内で高分子の重合反応が起こり、粘着力が大きく低下する。このテープを利用して、二次元物質を清浄、かつ簡便に転写するのに用いることができる(詳細は九州大学プレスリリース 2024年2月13日で報告している(Nature Electronics 7, 119 (2024))。

(※5)インターカレーション
物質の間にイオンや分子などを挿入することを指す。特に、黒鉛のグラフェン層間にインターカレーションできることが広く知られている。インターカレーション時には、層間の距離が広がって分子やイオンが収まる。多層CNTでは閉じた構造のため層間を広げることができないのに対し、GNSはオープンな構造をもつためインターカレーションを行うことが可能である。

(※6)遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)
モリブデンやタングステンなどの遷移金属と、硫黄やセレンなどのカルコゲン(第16族元素)から構成される、厚さが約1 nmの二次元材料。1~2 eVのバンドギャップをもつ半導体で、100 cm2/Vsを超えるキャリア移動度を示すことから、ポストシリコン材料として期待を集めている。

謝辞

本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 学術変革領域研究(A)「2.5次元物質科学:社会変革に向けた物質科学のパラダイムシフト(領域代表:吾郷浩樹)」(JP21H05232、JP21H05233、JP21H05235)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金(JP24H00407、JP25K08435、25K01748、JP26K08435、JP26K22696、JP26H00004)、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR20B1)、JST 次世代エッジAI半導体研究開発事業(JPMJES2531)、ERCシナジー助成金(MORE-TEM 951215)の支援を受けたものです。本研究における測定の一部は、九州大学中央分析センター、および大阪大学超高圧電子顕微鏡センターにて実施しました。また、本研究で用いたUVテープは日東電工株式会社から提供を受けました。

論文情報

掲載誌

Nature Communications

タイトル

Strain-engineered fabrication of high-density aligned graphene-based nanoscrolls via UV-tunable adhesive tapes

著者名

Maki Nakatani, Akari Sudo, Pablo Solís-Fernández, Haiming Sun, Satoru Fukamachi, Tomoki Maezawa, Tatsuya Ikuta, Takako Matsunaga, Aika Uchida, Masatoshi Mitsuhara, Yung-Chang Lin, Koji Takahashi, Rika Matsumoto, Kazu Suenaga, Takahiro Yamamoto & Hiroki Ago*

DOI

10.1038/s41467-026-78264-8

東京理科大学について

東京理科大学
詳しくはこちら

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。