ニュース&イベント NEWS & EVENTS

2026.08.07 Fri UP

非相反な引力相互作用が、コロイド粒子集団の粗大化を止める
~大小の微粒子が引力の下で分裂と再編成を続けるアクティブクラスターを形成~

研究の要旨とポイント

  • 非相反相互作用は、非平衡系に特有の集団運動を生み出す要因として注目されていますが、多数の粒子からなる系で制御して観察できる実験例は限られていました。
  • 大小二種類のコロイド粒子に交流電場を加えることで、粒子集団が静的な凝集体へ粗大化せず、分裂と再編成を続けるアクティブクラスターを形成することを明らかにしました。
  • 実験と数理モデルにより、粒子サイズ依存の電気浸透流が大小粒子間の力の対称性を破り、クラスターの持続的な分裂・再編成を生むことを示しました。
  • この成果は、非相反相互作用が多数粒子系の集団運動に与える影響を実験的に検証する基盤となるとともに、外部電場で制御可能なコロイド集合体の設計指針を与えるものと期待されます。

研究の概要

東京理科大学大学院 先進工学研究科 物理工学専攻の原 正磨氏(2025年度 修士課程修了)、橘高 圭亮氏(2021年度 修士課程修了)、石川 寛明氏(2020年度 修士課程修了)、岡田 正純氏(2019年度 修士課程修了)、および同大学 先進工学部 物理工学科の吉井 究助教、住野 豊教授らの研究グループは、大小二種類のコロイド粒子に交流電場を加えて引力的かつ非相反的な相互作用を誘起すると、粒子集団が静的な凝集体へと粗大化(*1)せず、分裂と再編成を繰り返すアクティブクラスターを形成することを明らかにしました(図1)。

通常、コロイド粒子間に引力が働くと粒子が集合し、時間とともに大きな凝集体へと成長します。本研究では、半径1 µmと1.5 µmのポリスチレン粒子の混合水溶液に交流電場を印加すると、粒子集団が凝集しきらずにクラスターの分裂と再編成を長時間持続することを明らかにしました。この現象の鍵は「非相反相互作用(*2)」にあります。交流電場下で生じる電気浸透流(*3)が粒子サイズに強く依存するため、大小粒子間で作用・反作用の対称性が実効的に破れ、大小粒子のペアが自己推進します。この駆動力により、粒子集団全体ではクラスターの動的な再編が持続します。

さらに、粒子のブラウン運動を取り入れたエージェントベースモデル(*4)と連続体モデルによる解析を行いました。その結果、非相反相互作用による粒子ペアの自己推進と、粒子ペアの向きに由来する極性場の発散がクラスターの粗大化を阻害し、動き続ける集団状態を生むことを示しました。

本成果は、非相反相互作用が多数の粒子からなる集団運動を変化させるメカニズムを実験的に示すものです。また、コロイド粒子をベースとしたマイクロロボットや、外部場によって構造を変えられる微小材料の普遍的な設計指針につながることが期待されます。

本研究成果は、2026年8月6日に国際学術誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。

図1 本研究で観察されたアクティブクラスター

図1 本研究で観察されたアクティブクラスター

研究の背景

生物の群れや細胞内の構造形成のように、外部からエネルギーを取り込みながら自ら動き、秩序だった集団構造を作る系は、アクティブマター(*5)と呼ばれ、非平衡物理学の重要な研究対象です。近年、アクティブマターの研究では、非相反相互作用が注目されています。この相互作用は、通常の引力や斥力だけでは説明できない集団運動を生み出しますが、多数の粒子系における凝集や粗大化への影響を実験的に検証することは困難でした。そこで本研究グループは、顕微鏡で一つ一つの運動を観察できるコロイド粒子に着目しました。

コロイド粒子は、粒子間相互作用や集団運動を実験的に調べるための代表的なモデル系であり、交流電場を印加すると、粒子の周囲に電気浸透流を誘起することができます。本研究では、この流れがもたらす相互作用の強さが粒子サイズに依存する性質を利用し、大小二種類の粒子からなる系を構築しました。そして、作用・反作用の対称性が実効的に破れた場合に、引力のみが働く粒子集団の凝集過程がどのように変化するのかを調べました。

研究結果の詳細

ポリスチレン製のコロイド粒子(半径1 µmの小粒子および半径1.5 µmの大粒子)を水溶液中に分散させ、ITOガラス電極に挟んだ試料室内で交流電場を加えました。同じ大きさの粒子だけからなる単分散系と、大小二種類の粒子を混合した二分散系を比較しました。

まず、大小粒子のペアを観察すると、互いに引き合って静止するのではなく、ペア全体が一方向に自己推進しました(平均速度0.51 µm/s)。相互作用が相反的であればこうした運動は生じないため、これは非相反性の直接的な証拠といえます。

次に、多数粒子からなる集団の挙動を調べたところ、大粒子の単分散系では粒子が急速に集まり、結晶状の静的な凝集体を形成しました。一方、二分散系では粒子集団は一つの静的な凝集体へと粗大化せず、クラスターの分裂と再編成を少なくとも3,600秒にわたって繰り返すことが明らかとなりました。

さらに、粒子速度場の分散を集団の活動性の指標として評価しました。その結果、単分散系では交流電場を加え続けると速度場の分散が急速に低下し、凝集体の運動が失われていきました。一方、二分散系では分散が有限の値を保ち、凝集体が再配置を伴う運動を持続することが確認されました。

観察された現象の本質を調べるため、研究グループは粒子の熱揺らぎ、排除体積効果、電気浸透流による有効引力を取り入れたエージェントベースモデルを構築しました。このモデルは、単分散系では静的な凝集体が生じ、二分散系では自己推進する粒子ペアと持続的なクラスター運動が生じるという実験結果を再現しました。さらに、数理モデルによる解析からは、クラスターの分裂には、大小粒子ペアの自己推進に加えて、ペアの向きが重要であることも分かりました。大きい粒子が進行方向側、小さい粒子が後方側になる配置では、粒子対の自己推進方向がクラスター界面で外向きに広がりやすくなります。この外向きの極性が凝集体を不安定化し、クラスターの自律的な分裂を引き起こすことが示されました。

以上の結果から、引力的な相互作用だけが働く系であっても、非相反性が加わることで、通常なら進むはずの粗大化が阻害され、分裂と再編成を続ける動的な集団状態が維持されることが明らかになりました。これは、多数の粒子からなる非平衡系の集団運動を理解するための基礎的な知見となります。また、外部電場によって粒子間相互作用を制御できるため、混合・凝集・再構成を切り替えられるコロイド集合体の設計につながる可能性があります。さらに、コロイド粒子をベースとしたミクロなロボット集団の設計指針としての活用も期待されます。

本研究を主導した住野教授は、「生命を知りたい、生命らしさを物理学の言葉で記述したいという動機のもと、非平衡物理学の実験的研究に注力してきました」と、コメントしています。

※ 本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(JP16K13866、JP19H05403、JP21H01004、JP21H00409、JP26K07037、JP24KJ0110、学術変革領域研究(A) 動的物質科学「量子inspiredアクティブマターと機能デザイン」JP26H00387)、JSPSとポーランド科学アカデミー(PAN)による日・ポーランド共同研究事業「Spatio-temporal patterns of elements driven by self-generated, geometrically constrained flows」、およびJSPS研究拠点形成事業「Advanced core-to-core network for the physics of self-organizing active matter」(JPJSCCA20230002)の助成を受けて実施したものです。

用語

*1: 粗大化
小さな凝集体が時間とともに合体し、より大きな凝集体へ成長していく過程。

*2: 非相反相互作用
粒子Aが粒子Bに及ぼす影響と、粒子Bが粒子Aに及ぼす影響が、同じ大きさ・反対向きにならない相互作用。本研究では、大小粒子間の電気浸透流が粒子サイズに依存することで、作用・反作用の対称性が実効的に破れている。

*3: 電気浸透流
電場に起因した壁近傍での流れ。これは、壁面に形成された電気二重層中のイオンが電場によって駆動され、周囲の溶媒分子を粘性力で引きずることによって生じる。

*4: エージェントベースモデル
粒子一つ一つの運動や相互作用を設定し、多数の粒子集団のふるまいを数値的に調べるモデル。

*5: アクティブマター
外部からエネルギーを取り込み、自ら動く要素からなる物質系。

論文情報

雑誌名

Physical Review Letters

論文タイトル

Arrested coarsening in active colloidal suspensions driven by nonreciprocal electrohydrodynamic interactions

著者

Shoma Hara, Masazumi Okada, Keisuke Kittaka, Sho Tanami, Yuichi Iwasaki, Hiroaki Ishikawa, Kiwamu Yoshii, and Yutaka Sumino

DOI

10.1103/96ky-d1p9

東京理科大学について

東京理科大学
詳しくはこちら

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。