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2026.08.24 Mon UP

アトピー性皮膚炎を発端に症状が全身に拡大する「アトピーマーチ」のメカニズムを解明
~IL-13と特定の樹状細胞の相互作用が高親和性IgE抗体産生を駆動する~

東京理科大学
京都大学

研究の要旨とポイント

  • 小児時にアトピー性皮膚炎を発端に食物アレルギーやアナフィラキシーなど全身性アレルギーへと進展する「アトピーマーチ」のメカニズムは長らく不明でした。
  • アトピーマーチにおいて、2型サイトカイン「IL-13」が特定の樹状細胞(2型古典的樹状細胞:cDC2)に作用して抗原提示能を著しく向上させ、アレルゲンに高親和性のIgE抗体の産生を誘導することで、全身性アナフィラキシーへ至ることを発見しました。
  • 本成果は、アトピー性皮膚炎における抗IL-13抗体医薬の高い臨床的有効性のメカニズム的根拠を提供するもので、本研究で示唆されたcDC2の所属リンパ節への遊走に関わる経路を標的とした新たな治療戦略の開発も期待されます。

本研究成果は、2026年7月9日に米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)』に掲載されました。また、2026年7月23日には、本研究成果を含むアトピーマーチにおけるIL-13シグナルとcDC2の役割についての総説論文が国際学術誌『Barrier Immunity』に掲載されました。

研究の概要

東京理科大学の久保 允人名誉教授(京都大学免疫モニタリングセンター(KIC)特任教授)、同大学生命医科学研究所の本村 泰隆准教授、慶應義塾大学医学部内科学教室(リウマチ・膠原病)の佐々木 貴紀助教(研究当時:東京理科大学 助教、Harvard Medical School, Brigham and Women's Hospital Research Fellow)、理化学研究所 生命医科学研究センター、米国Benaroya Research Institute、アラバマ大学、アイカーン医科大学マウントサイナイ、ワシントン大学セントルイス校の国際共同研究グループは、アトピー性皮膚炎などの局所的な皮膚の炎症が、食物アレルギーや喘息、さらには致死的な全身性アナフィラキシーへと進行する「アトピーマーチ」の根底にある細胞・分子メカニズムを解明しました。

本研究グループはまずマウスモデルを用いた実験を行い、アトピーマーチにおいては、2型サイトカイン「IL-13」がB細胞やT細胞ではなく、特定の樹状細胞(IL-13受容体およびフラクタルカイン受容体発現陽性2型古典的樹状細胞:cDC2)に作用して抗原提示能を著しく向上(ライセンス化)させ、アレルゲンに高親和性のIgE抗体の産生を誘導することで、全身性アナフィラキシーへ至ることを発見しました。

次に、ヒトのアトピー性皮膚炎患者の皮膚やアレルギー患者の末梢血でも、IL-13受容体発現陽性cDC2の増加と血中アレルゲン特異的IgE値との相関が確認されました。また、血液中をパトロールするcDC2は、フラクタルカイン受容体(CX3CR1)に依存して二次リンパ組織へアレルゲンを運搬します。この受容体の阻害薬はアレルゲン特異的IgE抗体の上昇を抑制しました。

本成果は、アトピー性皮膚炎における抗IL-13抗体医薬の高い臨床的有効性のメカニズム的根拠を提供するものです。また、フラクタルカイン受容体の阻害薬がアトピーマーチに有効である発見は、新たなアレルギー疾患治療戦略の開発に大きく貢献することが期待されます 。

 図1. 本研究で示唆されたアトピーマーチの根底にあるメカニズム
図1. 本研究で示唆されたアトピーマーチの根底にあるメカニズム。
皮膚感作によって記憶Th2細胞が作られ、二次抗原刺激(アレルゲンの再暴露)の際に記憶Th2細胞がIL-13を放出してcDC2をライセンス化し、ライセンス化されたcDC2がTFH13細胞への分化を誘導して胚中心反応と高親和性IgE抗体産生を駆動する。

研究の背景

アトピー性皮膚炎、喘息、食物アレルギーなどのアレルギー疾患は世界的に増加しており、重大な社会問題となっています。特に、アトピー性皮膚炎による皮膚バリアの破綻を起点として、同じアレルゲンが再暴露されると症状が全身へと拡大していく「アトピーマーチ」と呼ばれる経過をたどることが知られています。これまでの研究で、皮膚から侵入したアレルゲンは皮膚の樹状細胞に取り込まれて所属リンパ節へと運ばれ、ナイーブT細胞を2型ヘルパーT細胞(Th2細胞)や濾胞性ヘルパーT細胞(TFH細胞)へと分化させることで、IL-4やIL-13といった2型サイトカインの産生を誘導することがわかっていました(図1)。しかし、局所の皮膚の炎症がどのようにして全身を巻き込む重篤なアレルギー反応へと変換されるのか、その全体像は明らかになっていませんでした。

2型炎症を特徴づけるサイトカインであるIL-13はアレルギー病態に重要であり、IL-13を標的とした抗体医薬(トラロキヌマブやレブリキズマブなど)がアトピー性皮膚炎に著効を示すことが知られています。しかし、「アトピーマーチ」の過程でIL-13がどの細胞に作用し、どのようにして全身性のアナフィラキシーを引き起こすのか、その詳細な標的とメカニズムは未解明のままでした。

そこで研究グループは、皮膚アレルゲン感作(cutaneous allergen sensitization: CAS)モデルマウスを確立し、皮膚炎症から全身性の高親和性IgE抗体産生・アナフィラキシー応答に至る過程で、IL-13が作用する標的細胞を同定することを試みました。

 図2. アトピーマーチの概要。
図2. アトピーマーチの概要。

研究結果の詳細

研究グループは、皮膚刺激剤MC903とモデル抗原オボアルブミン(OVA)を用いて皮膚感作を行った後、皮膚とは遠位の部位である腹腔内に、4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルアセチル・ハプテン(NP)で修飾したOVA(NP-OVA)を投与するCASモデルを構築しました。このモデルでは、皮膚感作を経たマウスのみが、NPに対して高親和性のIgE抗体を強く産生し、全身性のアナフィラキシーを引き起こします。予想通り、この反応はIL-13シグナルが欠損した状態で完全に消失することがわかりました。

そこで、IL-13が作用する標的細胞を同定する目的で、T細胞、B細胞、樹状細胞(DC)それぞれにおいて特異的にIL-13受容体(Il13ra1)を欠損させたマウスを作製して解析しました。T細胞・B細胞特異的にIL-13シグナルを欠損させたマウスではIgE応答にほとんど変化がみられなかったのに対し、DCにおいてIL-13シグナルを欠損させたマウスでは、高親和性IgE抗体の産生とアナフィラキシー応答が劇的に抑制されることが判明しました。

また、単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq)解析で詳細に分類したところ、IL-13受容体を高発現するのは、ケモカイン受容体CX3CR1と分子CD301b(Mgl2)を高発現する、2型古典的樹状細胞(cDC2)の特定のサブセットであることを突き止めました。NP-OVAを腹腔内に投与して二次抗原曝露を行うと、メモリーTh2細胞から産生されるIL-13がこのcDC2に作用し、MHCクラスIIや共刺激分子(CD80、CD86、ICOSLなど)の発現が著しく上昇し、極めて高い抗原提示能を獲得します(cDC2のライセンス化)。

このCX3CR1陽性cDC2は末梢血中を循環し、CX3CR1依存的な仕組みで脾臓などのリンパ組織へ移動することも明らかになりました。実際に、CX3CR1の働きを阻害する薬剤を投与すると、樹状細胞のリンパ組織への集積と、その後のIgE抗体産生の両方が抑えられました。このCX3CR1陽性cDC2にIL-13が作用すると、抗原提示に必要なMHCクラスII分子や、T細胞を活性化する共刺激分子(CD86、ICOSLなど)、さらにTh2細胞への分化を促すCD301bやCD301a(Clec10a)といった分子の発現が大きく増加し、樹状細胞としての機能が「覚醒」することが確認されました。このように機能を強化(ライセンス化)されたcDC2は、Th2細胞から病原性の高いIL-13産生濾胞性ヘルパーT細胞(TFH13細胞)への分化を強力に誘導しました。

さらに解析を進めたところ、この一連の反応には、皮膚感作の際に最初に作られる記憶Th2細胞が、二次的な抗原刺激を受けた際にIL-13を産生し、これがcDC2をライセンス化するための供給源となっていることも示されました。

すなわち、①皮膚感作によって記憶Th2細胞が作られる、②アレルゲンの再暴露の際に記憶Th2細胞がIL-13を放出してcDC2をライセンス化する、③ライセンス化されたcDC2がTFH13細胞への分化を誘導して胚中心反応と高親和性IgE抗体産生を駆動する、という3段階のカスケードによって、皮膚感作から全身性アナフィラキシーへの道筋が形成されることが明らかになりました。

加えて、ヒトのアトピー性皮膚炎患者の皮膚や、花粉症・食物アレルギー患者の末梢血の公開データを解析したところ、マウスと同様に、CX3CR1やCD301b(CLEC10A)、IL-13受容体(IL13RA1)を発現するcDC2集団の増加が、疾患の病態活動性や血中アレルゲン特異的IgE値と相関することが確認されました。これにより、今回マウスで見いだされた仕組みが、ヒトのアレルギー疾患にも共通する可能性が明らかになりました。

今後の展開

本研究により、皮膚の局所的な炎症が全身性のアレルギーへと拡大する「アトピーマーチ」において、IL-13と特定の樹状細胞(cDC2)からなる「IL-13-cDC2軸」が必須の役割を果たしていることが証明されました。この発見は、IL-13を標的とした既存の生物学的製剤がなぜアトピーマーチを阻止できるのかという作用機序を細胞・分子レベルで裏付けるものです。今後、この「IL-13-cDC2軸」や、血中cDC2の所属リンパ節への遊走に関わる「CX3CR1-CX3CL1経路」を標的とすることで、アトピーマーチの進行を根本から断ち切る、より精密で効果的なアレルギー免疫療法の開発につながることが期待されます。

※ 本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST: 19gm1310002)、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(基盤研究(C)、25K10403)、MOST-RIKEN共同研究プログラムおよび公益財団法人小林財団の助成、ならびにPaul G. Allen Family FoundationのPaul G. Allen Frontiers GroupによるAllen Discovery Centerプログラム、Doris Duke Charitable Foundation、LEO Pharma、米国国立関節炎・筋骨格・皮膚疾患研究所(NIAMS: AR077007、AR080392)、米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID: AI167933、AI167047)の助成を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名

Proceedings of the National Academy of Sciences

論文タイトル

IL-13 signaling in cDC2 is required for systemic anaphylactic responses

著者

Yasuyo Harada, Takanori Sasaki, Kazushige Obata-Ninomiya, Takahiro Matsuyama, Satoshi Ueha, Shigeyuki Shichino, Takashi Watanabe, Shuhei Ogawa, Sewon Ki, Yoshie Suzuki, Naoto Ito, Yasutaka Motomura, Hideki Ueno, Steven F. Ziegler, Hiromasa Inoue, Peter Burrows, Brian Kim, Kenneth Murphy, and Masato Kubo

DOI

10.1073/pnas.2608478123

関連論文

雑誌名

Barrier Immunity

論文タイトル

A Role of the IL-13 Signal and Type 2 Conventional Dendritic Cell in the Atopic March

著者

Masato Kubo

DOI

10.1002/dni2.70014

発表者

原田 康代
東京理科大学 生命医科学研究所 免疫アレルギー部門 本村研究室 <筆頭著者>
佐々木 貴紀
慶應義塾大学 医学部 内科学教室(リウマチ・膠原病) 助教
(研究当時:東京理科大学 助教、Harvard Medical School, Brigham and Women's Hospital Research Fellow)
二宮(小畑)一茂
千葉大学大学院 医学研究院 免疫発生学 特任准教授
松山 崇弘
鹿児島大学 医歯学域医学系 医歯学総合研究科 特任助教
上羽 悟史
東京理科大学 研究推進機構 生命医科学研究所 教授
七野 成之
東京理科大学 創域情報学部 情報理工学科 准教授
渡辺 貴志
理化学研究所 生命医科学研究センター 技師
小川 修平
東京理科大学 研究推進機構 生命医科学研究所 講師
Ki Sewon
理化学研究所 生命医科学研究センター テクニカルスタッフ
鈴木 芳枝
理化学研究所 生命医科学研究センター テクニカルスタッフ
伊藤 直人
東京理科大学 研究推進機構 生命医科学研究所 助教
本村 泰隆
東京理科大学 生命医科学研究所 免疫アレルギー部門 准教授
上野 英樹
京都大学 大学院医学研究科 免疫細胞生物学 教授
Steven F. Ziegler
Benaroya Research Institute, Center for Fundamental Immunology
井上 博雅
鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科 呼吸器内科学 教授
Peter Burrows
Department of Microbiology, University of Alabama at Birmingham
Brian S. Kim
Marc and Jennifer Lipschultz Precision Immunology Institute, Friedman Brain Institute, Icahn School of Medicine at Mount Sinai
Kenneth M. Murphy
Department of Pathology and Immunology, Washington University in St. Louis, School of Medicine
久保 允人
東京理科大学 研究推進機構 生命医科学研究所 教授(2025年3月まで)、東京理科大学 名誉教授、京都大学免疫モニタリングセンター(KIC)特任教授 <責任著者>

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