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ブラックホールの「爆風」、30万光年先まで到達―想定の100倍超のエネルギーを発見―
国立大学法人東北大学
国立大学法人金沢大学
東京都公立大学法人東京都立大学
国立大学法人大阪大学
学校法人東京理科大学
学校法人立教学院立教大学
発表のポイント
- ブラックホールから噴き出す風が、銀河を超えて約30万光年先までエネルギーを運んでいることを世界で初めて観測しました。
- その威力は従来の推定の100倍以上に達し、これまでの想定を大きく覆す発見でした。
- ブラックホールは物質を吸い込むだけでなく、「爆風」で銀河の外側の広大な宇宙空間に影響を及ぼしていることが明らかになりました。
概要
銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在することが知られています。ブラックホールの活動による影響が、どれほどの威力で、どこまで広大な環境に及ぶのかは、銀河とその中心のブラックホールがともに成長する仕組みを理解する上で大変重要な問題であり、宇宙物理学における長年の課題でした。
東北大学、金沢大学、東京都立大学、大阪大学、東京理科大学、立教大学などの研究チームは、日本が主導して開発したX線天文衛星XRISM(クリズム)(注1)を用いて、銀河の集団の中心にある急成長中の超巨大ブラックホールとその周辺の高温ガスに着目し、その運動の精密な測定に成功しました。
その結果、ブラックホールから風のように高速で噴き出す高温ガスが、自身の銀河(半径約3万光年)を大きく超え、約30万光年先にまで広がるガスの運動を激しくかき乱していることを発見しました。その威力は従来の推定の100倍以上に達し、これまで銀河の内部に限られると考えられていた影響が、銀河の外側の広い領域にまで及ぶことが世界で初めて明らかになりました。
本研究成果は、科学誌 Nature Astronomy に2026年7月28日(英国時間)付で掲載されました。
なお、本論文執筆にあたっては、創域理工学部 先端物理学科 小川翔司助教が、データの解析を行い、論文の議論に参加したため共著者となっております。
詳細な説明
研究の背景
宇宙には無数の銀河が存在し、その多くの中心には太陽の100万倍以上の質量を持つ超巨大ブラックホールが潜んでいます(図1)。ブラックホールは周囲の物質を吸い込みながら、一部を高速のガスとして噴き出すことが知られており、この「ブラックホールの風」は銀河やその周囲のガスに影響を与える重要な現象と考えられています。
これまでの観測では、「ブラックホールの風」の影響は銀河内部にとどまると考えられてきました。一方で、「風」が、銀河よりも遥かに広大な規模の銀河団(銀河の集団)にまで影響を及ぼす可能性があることは理論的に指摘されていました。しかしながら銀河の外側の高温ガスは観測が難しく、十分に調べられておらず、「風」の影響がどこまで広がっているのかは観測的には未解明でした。
今回の取り組み
今回、東北大学学際科学フロンティア研究所の山田智史助教、金沢大学理工研究域先端宇宙理工学研究センターの上田周太朗特任准教授、東北大学大学院理学研究科の野田博文准教授、東京都立大学大学院理学研究科の藤田裕教授らの研究チームは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導して開発した最新のX線天文衛星XRISMを用いて、りゅう座の方向、地球から約34億光年離れたH1821+643銀河団を観測し、中心部に位置する急成長中のブラックホール周辺にあるガスの様子を調べました。銀河団を満たす高温ガスはX線を放射しており、ブラックホールから噴き出す風の影響をX線で直接調べる初めての試みでした。鉄イオンの輝線(注2)を解析することで、ガスの運動構造を精密に測定することができました(図2)。
その結果、ブラックホール周辺の高温ガスは静的ではなく、乱流や大規模な流れとして広範囲で激しくかき乱されていることが明らかになりました。この運動は銀河の大きさ(半径約3万光年)を超えて広がり、約30万光年先にまで及んでいることが確認されました。さらに、このエネルギー量(約1054ジュール)は、従来の推定の100倍以上に達しました。その規模は星が一生の終わりに大爆発する超新星爆発(注3)の数十億回分以上に相当します。驚異的な威力を持つ「爆風」により、ブラックホールは銀河を超えて広い宇宙環境にまで影響を与えていることが世界で初めて明らかになりました(図3)。
今後の展開
本成果により、ブラックホールは物質を吸い込むだけでなく、銀河を超えて広い領域へ大規模なエネルギーを運び、周囲の環境に影響を与えていることが明らかになりました。ブラックホールは、宇宙空間のガスの流れや運動を駆動する重要な存在として、その役割の理解は更新されつつあります。
今回の成果は、日本が主導して開発したX線天文衛星XRISMによる高精度観測によって得られました。今後は次世代の天文衛星などにより、ブラックホールが周囲の環境に及ぼす影響がさらに明らかになっていくと期待されます。本研究を主導した山田助教は「こうした研究の進展により、宇宙における物質や元素の循環の理解が進み、星や生命を形づくる材料がどのように宇宙へ広がっていったのかという起源の解明にもつながると期待しています」と今後の展望を語ります。
ブラックホールは銀河の半径に比べて約1億倍以上も小さいが、銀河の中心で重要な役割を担っている。(クレジット:東北大学)
謝辞
本研究は、JSPS 科学研究費助成事業(22K20391, 23K13154, 26K17187, 25K23398, 26K00741, 19K21884, 20H01947,20H01941, 23K20239, 24K00672, 25H00660, 22H00158, 23H04899, 25H00672)、JSPS地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS: JPJS00420230006)、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)、東京大学国際高等研究所(UTIAS)、京都大学教育研究振興財団の支援を受けて行われました。本論文は東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業によりOpen Accessとなっています。
用語説明
注1.XRISM(クリズム)
X線分光撮像衛星XRISM(クリズム、X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission)は、2023年に鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられたX線天文台。JAXAが主導し、米国航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)と進めている国際共同プロジェクトで、星や銀河、そしてその間を吹き渡る高温ガス(プラズマ)を観測し、それらが作る宇宙の大規模構造の成り立ちや、天体間を行き交う元素とエネルギーの流れなどを、これまでにない詳しさで明らかにすることを目的としている。
注2.鉄イオンの輝線
宇宙の高温ガスの中では、鉄原子が電子を失った状態で存在し、特定のエネルギーのX線で光る性質がある。ガスが高速で動いていると、そのエネルギーがわずかにずれたり広がったりする。この広がりを調べることで、ガスの運動の激しさを知ることができる。
注3.超新星爆発
大きな質量の星が寿命の最後に起こす爆発現象で、宇宙でも特に強いエネルギー放出の一つ。
論文情報
タイトル
Vigorous turbulence driven by quasar-mode feedback in a cluster core
著者
Satoshi Yamada*, Shutaro Ueda*, Hirofumi Noda*, Yutaka Fujita*, Misaki Mizumoto, Kentaro Nagamine, Claudio Ricci, Shoji Ogawa, Taiki Kawamuro, Shinya Yamada, Yuichi Terashima, Yoshihiro Ueda
*責任著者:東北大学学際科学フロンティア研究所 助教 山田智史
金沢大学理工研究域先端宇宙理工学研究センター 特任准教授 上田周太朗
東北大学大学院理学研究科 准教授 野田博文
東京都立大学大学院理学研究科 教授 藤田裕
掲載誌
Nature Astronomy
