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2026.07.09 Thu UP

\銀河の“最深部”の動きをX線で追う!/
ブラックホール時空に振り回される物質たち
― 一般相対性理論が予言するガス円盤の歳差運動の兆候を掴む ―

大阪大学
東北大学
芝浦工業大学
東京理科大学

研究成果のポイント

  • 日本の X 線分光撮像衛星 XRISM(※1)と、NASA の X 線天文衛星 NuSTAR(※2)を用いて、ブラックホール近傍のガス円盤(※3)の構造が時間進化していく様子を明らかに。
  • 観測データを時間ごとに分けて解析することで、鉄の特性 X 線(※4)の形状が刻々と変化し、円盤の内側が徐々にブラックホールに近づいていること、円盤の傾きが約2.4日の周期で変化し続けていることがわかった。
  • 一般相対性理論が予言するブラックホールの自転が周囲の時空を引きずり、傾いた円盤を首振り運動するコマのように振り回す「レンズ・ティリング歳差(※5)」で説明できることがわかり、特性X線の時間変化から時空の引きずりによる歳差運動を、世界で初めて捉えた可能性を示した。

概要

大阪大学大学院理学研究科の川室太希助教、東北大学の山田智史助教と野田博文准教授、芝浦工業大学の井上芳幸教授(研究開始当時:大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻 准教授)、東京理科大学の小川翔司助教、福岡教育大学の水本岬希准教授らの研究グループは、日本主導で打ち上げた X 線分光撮像衛星 XRISM と、NASA の X 線天文衛星 NuSTAR を用いて、ブラックホール近傍のガス円盤の構造が時間進化していく様子を明らかにし、一般相対性理論の予言の一つ「レンズ・ティリング歳差」として説明できることを明らかにしました。

図1 : Resolve と過去の X 線天文衛星 「すざく」の X 線スペクトル (それぞれ、黒と灰色のクロスで表されている。)。エネルギー 6 keV あたりで、遠く比較的ゆっくりと動いているガスからの細い特性 X 線 (青線) に加え、ブラックホール近くの円盤からの広がった成分 (オレンジ線) が、Resolve によって綺麗に見分けられていることがわかる。右上では、ブラックホール近傍から出た X 線が円盤や遠方のガスに当たり、特性 X 線が出るパスを示している。
図1 : Resolve と過去の X 線天文衛星 「すざく」の X 線スペクトル (それぞれ、黒と灰色のクロスで表されている。)。エネルギー 6 keV あたりで、遠く比較的ゆっくりと動いているガスからの細い特性 X 線 (青線) に加え、ブラックホール近くの円盤からの広がった成分 (オレンジ線) が、Resolve によって綺麗に見分けられていることがわかる。右上では、ブラックホール近傍から出た X 線が円盤や遠方のガスに当たり、特性 X 線が出るパスを示している。

本研究では、りょうけん座方向にある銀河 NGC 4395 の中心にあるブラックホールを約5日間観測しました。ブラックホールそのものは光を出さないため、直接見ることはできません。しかし、ブラックホールへ落ち込むガスは非常に高温になり、X線を放ちます。さらにこの X 線が周囲を照らし、照らされた鉄原子から決まったエネルギーを持つ光 (特性 X 線) が放たれます。しかし、この鉄原子からの特性X線のエネルギーは、ブラックホールの強い重力やガスが高速で回転することによるドップラー効果の影響を受けて変化します。逆に考えると、その変化を高い精度で捉えることで、ブラックホール周辺の構造や運動、さらには時空をも調べることができます。

今回、研究グループは X 線天文衛星 XRISM に搭載の検出器 Resolve(※6)の非常に高いエネルギー分解能を活かし、NGC 4395 のブラックホール周りの鉄原子からの特性 X 線を詳しく調べました。その結果、遠方で比較的ゆっくり回転する物質から出る成分と、ブラックホールの近くで強い重力を受けながら高速回転する円盤状のガスから出た成分を精度よく分離することに成功しました (図 1)。さらに、観測データを時間ごとに分けて解析したところ、特性 X 線の形状が刻々と変化していることがわかりました (図 2)。ここから円盤の内側が徐々にブラックホールに近づいていること、さらには円盤の傾きが約2.4日の周期で変化し続けていることがわかりました(図 3)。

本研究は、一般相対性理論が予言する「時空の引きずり」により、ブラックホール近傍のガス円盤が歳差運動し揺れ動く様子を、円盤からの X 線放射の観測から世界で初めて捉えた可能性を示す成果です。また、ブラックホール近くの物質の動きの時間変化を調べることで、強い重力場における一般相対性理論の予言を検証する新しい道を開くものです。今後、同様の観測を他のブラックホールにも広げることで、ブラックホールがどのように物質を飲み込み、どのように成長してきたのかを理解する重要な手がかりになると期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「The Astrophysical Journal Letters」に、7月9日(木)午前1時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

多くの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールが存在すると考えられています。しかし、そのような巨大ブラックホールが、現在の大きさまでどのように成長してきたのかは、まだ十分にはわかっていません。その謎を解くためには、ブラックホールのすぐ近くで物質がどのように回転し、どのように飲み込まれていくのかを調べる必要があります。

ところが、ブラックホールの近傍は単に物質が落ち込む場所ではありません。特にブラックホールのすぐ近くでは、物質の運動は一般相対性理論が予言する強い重力や時空の効果に大きく左右されます。つまり、ブラックホールが物質を飲み込み成長する仕組みを理解するためには、一般相対性理論の効果も含めて、ブラックホール近傍の物質の動きを調べることが重要です。

その調査の鍵は、鉄原子から出るエネルギーの決まった X 線信号で、特性 X 線と呼ばれます。ブラックホールは非常に強い重力を持つ天体で、周りにあるガスがブラックホールへ落ち込む途中で高温になり、強い X 線を放ち、周りの物質がその X 線に照らされることで鉄原子からの特性 X 線が出てきます (図 1)。そして、救急車の音が近づいてくるときと遠ざかるときで高くなったり低くなったり変化するのと同様の効果 (ドップラー効果) が働き、重力や物質の動きのためにそのエネルギーが変化します。

このことから、特性 X 線のエネルギーの変化を正確に計測することでブラックホール周りの物質の運動を調べることができます。特に、特性 X 線の低いエネルギー側に広がった成分は、ブラックホールのすぐ近くを高速で回転するガス円盤から出た光が、強い重力やドップラー効果によってゆがめられたものと考えられます (図 1)。このような成分を詳細に調べることができれば、ブラックホールのごく近くにある円盤の構造を探ることができます。しかし、ブラックホールから比較的遠い場所にある物質からも特性 X 線が出るため、ブラックホール近くからの信号と混ざってしまい、ゆがんだ特性 X 線を詳しく測ることは簡単ではありませんでした。

この点で重要な役割を果たすのが、2023年に日本主導で打ち上げられたX線分光撮像衛星XRISMです。XRISMに搭載された検出器Resolveは、X線のエネルギーを非常に細かく測ることができます。そのため、遠くのゆっくりと動く物質から出る細い特性X線と、ブラックホール近くの円盤から出る広がった特性X線を分けて調べることができます。これにより、これまで見分けることが難しかったブラックホール近傍の円盤構造を、より詳しく調べられるようになりました。

図2:鉄の特性 X 線の形の約半日毎の時間変化。
図2:鉄の特性 X 線の形の約半日毎の時間変化。

ブラックホール近くの円盤からの広がった成分 (オレンジ線) が観測期間中に刻々と変化している。オレンジ破線は、最初の約半日で観測された特性 X 線の形を比較のために表示している。青色線は、遠くのゆっくりと動く構造からの特性 X 線。赤破線は、ブラックホール近傍からの X 線放射が、周りと相互作用せずに直接我々にやってくる成分。

以上のような状況でなお、ブラックホール近傍の円盤が時間とともにどのように変化するのかは、よく理解されていません。というのも、多くの銀河中心ブラックホールは太陽の約100万倍以上の質量を持ち、周囲の円盤構造が変化するには長い時間がかかります。そのため、数日程度の観測でブラックホール近傍の円盤の時間進化を追うことは困難でした。

図3:鉄の特性 X 線から推測した円盤に対する見込み角の時間変化。赤い線は、フィットされた約 2.4 日周期のサイン関数を示す。
図3:鉄の特性 X 線から推測した円盤に対する見込み角の時間変化。赤い線は、フィットされた約 2.4 日周期のサイン関数を示す。

そこで本研究では、銀河NGC 4395に着目しました。NGC 4395の中心ブラックホールは、ほかの銀河中心のブラックホールと比較して質量が小さく、太陽の約1万〜10万倍程度と見積もられています。数日間の観測でもブラックホール近傍の動きを追える可能性があります。

図4:ブラックホール近くの円盤の時間変化の模式図。
図4:ブラックホール近くの円盤の時間変化の模式図。

ブラックホール周囲にはガス円盤が存在し、特性 X 線を放つ。回転などにより、遠のく領域からの X 線はより低エネルギーになり、逆に近づく領域からの X 線はより高エネルギーになる。ブラックホールの自転軸 (黒矢印) の周りを円盤の回転軸 (紫矢印) が回ることで、円盤の見え方が変わる。その結果、特性 X 線が広くなったり狭くなったりと変化する。

研究の内容

研究グループは、2024年11月に XRISM と更に NASA の X 線天文衛星 NuSTAR を連携させ、NGC 4395 を約5日間にわたって観測しました。NuSTAR は XRISM よりも高いエネルギーの X 線まで観測できます。両者を組み合わせることで、ブラックホール周辺から届く X 線の全体像をより正確に調べることができます。

研究グループは、鉄の特性 X 線のエネルギー分布を詳しく調べたところ、遠方の比較的ゆっくりと動く物質から出たと考えられる線に加えて、低エネルギー側に広がった成分を見つけました (図1)。この広がった成分は、ブラックホールの近くを円盤状に高速回転するガスから出た光が、強い重力や高速運動の影響を受けてゆがんだものとしてよく説明されます。さらに、研究グループは特性 X 線の形が時間とともに変化していることを突き止めました (図2)。そして、円盤の内側がブラックホールに近づいている様子、さらに円盤の見かけの傾きが時間とともに変化していることがわかりました。

また、特に興味深いこととして、円盤の見かけの傾きには約2.4日の周期的な変化の兆候が見られました (図 3)。このような変化は、ブラックホールの自転が時空をも回転させその結果、傾いた円盤が振り回されコマのように首振り運動をする「レンズ・ティリング歳差」で説明できることがわかりました (図 4)。一般相対性理論の効果による歳差運動によって円盤が揺れ動く兆候を、円盤からの鉄の特性X線の時間変化から世界で初めて捉えた可能性を示す成果です。

本研究成果の意義

巨大ブラックホールの起源を理解するには、ブラックホールのすぐ近くで物質がどのように回転し、どのように内側へ運ばれていくかを知る必要があります。本研究は、XRISMの高精度X線分光により、鉄の特性X線のゆがみを手がかりとして、ブラックホール近傍のガス円盤の構造が時間進化していく様子を明らかにしました。特に、一般相対性理論が予言する「時空の引きずり」によって、ブラックホール近傍のガス円盤が歳差運動し、揺れ動く兆候を、円盤からのX線放射の変化として捉えた可能性があります。これは、ブラックホールが物質を飲み込み成長する現場を、一般相対性理論の効果も含めて理解するための重要な一歩です。

今後、XRISM や将来の X 線天文衛星によって、さまざまなブラックホールで同様の観測を行うことで、このような歳差運動がブラックホール近傍で普遍的に起こる現象なのかを明らかにすることは重要です。そして、円盤内のガスがどのようにブラックホールへ流れ込み、その過程に歳差運動がどのような影響を及ぼしているのかについての理解が進むと期待されます。またさらには、こうした研究は、より長い時間スケールにわたるブラックホールの質量成長を理解するうえでも重要です。歳差運動を引き起こすブラックホールの自転そのものは、過去にどのように物質を取り込んできたかによって変化すると考えられているため、歳差運動から自転速度を測定していくことでブラックホール成長の歴史までも理解が進むと期待されます。

※ 本研究は、科学研究費助成事業の一環として行われました (科研費番号 23K13153, 24K00673, 23K13154, 23K20239, 24K00672, 25H00660, 22K18277, 23KF0254, 26H00604, 24K17104, 21K13958, そして山田科学振興財団)。

用語

※1 XRISM (クリズム)
日本が中心となって開発した X 線分光撮像衛星。宇宙から届く X 線のエネルギーを精密に測ることで、高温ガスやブラックホール周辺の物理状態を調べることができる。

※2 NuSTAR (ニュースター)
NASA の X 線天文衛星。比較的高いエネルギーの X 線を観測できる。XRISMと組み合わせることで、ブラックホール周辺から出るX線の全体像をより正確に調べられる。

※3 ガス円盤
ブラックホールなどの重い天体の周りを回りながら落ち込んでいくガスが作る円盤。ガスは高温になり、紫外線や X 線などを放つ。

※4 鉄の特性 X 線
鉄原子から放たれる特徴的な X 線。ブラックホール近くで放たれると、強い重力や高速運動の影響で形がゆがむため、ブラックホール近傍の構造を調べる手がかりになる。

※5 レンズ・ティリング歳差
Lense-Thirring歳差のドイツ語の発音を参考。回転するブラックホールの周りで、傾いた円盤などがブラックホールの自転に引きずられて首振り運動をする現象。一般相対性理論から予言される効果の一つ。

※6 Resolve
XRISMに搭載された X 線分光装置。X 線のエネルギーを非常に細かく測ることができるため、特性 X 線のような細い構造や、わずかな形の変化を調べるのに適している。

論文情報

雑誌名

The Astrophysical Journal Letters

論文タイトル

XRISM Time-resolved Fe Kα Spectroscopy of NGC 4395: Time Variable Inner-disk Emission

著者

Taiki Kawamuro, Satoshi Yamada, Hirofumi Noda, Yoshiyuki Inoue, Shoji Ogawa, and Misaki Mizumoto

DOI

10.3847/2041-8213/ae796e

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