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植物を用いた免疫タンパク質の生産に成功
国立大学法人筑波大学
東京理科大学
植物において大量にタンパク質を発現させる手法を活用し、ヒトの免疫応答に不可欠なHLA分子(ヒト白血球型抗原)の生産に成功しました。これにより、HLA分子が持つ多種多様な対立遺伝子(アレル)に対応したタンパク質を短期間に生産できることが示されました。
ヒトの免疫応答に不可欠なHLA分子(ヒト白血球型抗原)は、アレルギーや自己免疫疾患の病態解析、移植医療の検査などに不可欠なタンパク質です。しかしながら、構造が複雑なため、従来の大腸菌や動物細胞を用いたタンパク質生産手法では生産が困難でした。
今回、これまでに本研究グループが開発した、植物の細胞内で大量にタンパク質を発現させる手法「つくばシステム」を用い、ベンサミアナタバコを宿主として、このHLA分子の生産に成功しました。これにより、主要な3アイソタイプ(抗体の構造による分類)を含む計13種類のHLA分子が発現し、得られたタンパク質は生体内(天然)と同じ機能を維持しており、対応するT細胞受容体と特異的に結合することが確認されました。
本成果は、多型(変異体)に富むHLA分子を、低コストで並行もしくはオンデマンド生産できる革新的な手法となる可能性を示しており、今後の免疫研究の発展に寄与すると期待されます。
研究代表者
- 筑波大学 生命環境系
- 三浦 謙治 教授
- 東京理科大学 先進工学部 生命システム工学科
- 白石 充典 教授
研究の背景
ヒトの免疫システムにおいてHLA分子(ヒト白血球型抗原)注1)は、体内に侵入した病原体などの断片(抗原ペプチド)を免疫の司令塔となるT細胞の一種であるCD4+ T細胞に提示し、適応免疫応答を始動させる極めて重要な役割を担っています。このHLA分子は、アレルギーや自己免疫疾患などの遺伝的リスクと深く関連していることが知られており、抗原特異的なT細胞の検出や、臓器移植時におけるドナー特異的抗HLA抗体の臨床検査など、幅広い医学生物学分野で需要が高まっています。
一般にタンパク質の生産には、遺伝子を組み込んだベクターを大腸菌に導入してタンパク質の発現を誘導する方法が用いられますが、HLA分子はα鎖とβ鎖からなるヘテロ二量体構造(異なる構造を持つ2つのサブユニットからなる複合体)をもつため、大腸菌を用いた方法では正しく複合体を形成させることが極めて困難です。また、動物培養細胞を用いた場合には、ヘテロ複合体が得られるものの、高コストである点や、ヒト病原体の混入リスクがあります。
本研究グループはこれまでに、植物の細胞内に目的遺伝子を導入してタンパク質を大量に発現させる方法(つくばシステム)を開発しており、今回、この方法において、タバコの近縁種であるベンサミアナタバコ 注2)を宿主として、HLA分子を生産する技術を確立しました(参考図A)。
研究内容と成果
本研究では、まず、非常に多様な多型をもつヒトHLAの中から、HLA-DR、-DQ、-DPの3つのアイソタイプ(抗体の構造による分類)に基づく13種類のタンパク質複合体を設計し、植物体内へ遺伝子を導入したところ、いずれの複合体もα鎖とβ鎖が正しく結合したヘテロ二量体が形成されていることを確認しました(参考図B~D)。
さらに、インフルエンザウイルスのペプチドをもつHLAに対して表面プラズモン共鳴解析 注3)により機能評価を行ったところ、本手法により得られたHLA分子は、対応するT細胞受容体(HA TCR1.7)と特異的に結合することが確認され(参考図E)、生体内と同等の機能を有することが示されました。
今後の展開
本研究成果は、植物を用いてHLA分子を生産した世界初の事例です。現在、商業的に流通しているHLA分子は極めて高価ですが、本手法を活用することで、生産コストを低減できると考えられます。
植物を用いたタンパク質生産は、設備投資が比較的軽微でスケールアップが容易なだけでなく、ヒト病原体が混入するリスクが低いというメリットがあります。さらに、HLA遺伝子は個人差(多型)が多いことで知られていますが、本手法を用いることで、多種多様なアレル 注4)に対応したタンパク質を短期間に並行して、あるいはオンデマンドで生産することに適しています。これにより、自己免疫疾患や感染症の研究、移植医療における迅速な検査薬の供給などに大きく貢献すると期待されます。
参考図
図 植物におけるHLA分子生産およびT細胞受容体との結合
(A)HLA分子を構成するDRα鎖およびDRβ鎖の模式図。DRα鎖には可溶性細胞外細胞(SED)、酸性ジッパー領域(特定のタンパク質同士を結びつけるための領域:AZ)、および精製用Hisタグ(タンパク質を選択的に精製するための目標となるペプチド)が含まれる。DRβ鎖にはN末端にペプチドを融合させており、SED、塩基性ジッパー領域(酸性ジッパー領域と結合する領域:BZ)、ビオチン化用のC末端Aviタグ(特定のアミノ基のみをビオチン化するための標識となるペプチド)が含まれる。
(B)~(D)ベンサミアナタバコ葉からの粗抽出液を用いた、免疫に関わる遺伝子DRA、DRB、DQA、DQB、DPA、DPBの発現解析。HLA-DR(DRA+DRB)、-DQ(DQA+DQB)、-DP(DPA+DPB)の3つのアイソタイプの発現が確認された。
(E)表面プラズモン共鳴解析により、HLA-DRとT細胞受容体HA TCR1.7との相互作用が確認された。
用語解説
注1)HLA分子(ヒト白血球型抗原)
ヒトの体内に侵入した病原体などの断片(抗原ペプチド)を細胞表面に提示し、免疫の司令塔であるT細胞に伝える役割をもつタンパク質。適切な免疫応答を始動させるために不可欠である。
注2)ベンサミアナタバコ
タバコ植物の仲間。病原菌感染を予防する植物免疫システムに欠陥があることから、病原菌感染の実験やタンパク質の一過的発現系(細胞に導入した外来遺伝子が一時的に機能してタンパク質を作り出す)に用いられる。
注3)表面プラスモン共鳴解析
分子表面に生じる電子の波(表面プラズモン)と光の共鳴現象を利用して、分子同士が結合する強さや結合・解離するスピードを、生体分子にラベルをつけずにリアルタイムで測定・評価する技術。
注4)アレル
染色体上で特定の遺伝子が存在する場所における遺伝子の変異体(多型)のこと。病原体から身を守るための多様な進化により生じたと考えられており、ヒトのHLA分子は、ヒトの遺伝子の中で最もアレルの種類が多い(多型性が高い)。
研究資金
本研究は、JSTプロジェクト(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラムJPMJOP1851、革新的GX技術創出事業JPMJGX23B0)および筑波大学と東京パワーテクノロジー株式会社との共同研究契約の一環として実施されました。
掲載論文
論文タイトル
Plant-based production of human major histocompatibility complex class II molecules. (植物を用いたヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子の生産)
著者名
A. Ramadan (筑波大学), H. Miyadera (筑波大学), K. Oka (筑波大学), K. Ishikawa (東京パワーテクノロジー), T. Kobayashi (東京パワーテクノロジー), M. Kobayashi (筑波大学), M. Shiroishi (東京理科大学), E. Noguchi (筑波大学), K. Miura (筑波大学)
掲載誌
Plant Biotechnology Journal
掲載日
2026年7月1日
