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2026.05.19 Tue UP

光だけで固まり、熱で元に戻る―10回以上再利用可能な“完全再生型”3Dプリンティング樹脂を開発

本研究のポイント

  • 光で固まり、熱で液体に戻る“完全再生型”光造形材料
  • 10回以上の再利用でも性能劣化がほとんどない
  • 光開始剤ゼロで硬化する新しいフォトレジン
  • 二光子光造形でサブミクロン解像度(〜0.6 µm)を達成
  • 一般的な青色(405 nm)光造形にも対応

研究の概要

東京理科大学の向井理助教および横浜国立大学大学院工学研究院/先端科学高等研究院/総合学術高等研究院の丸尾昭二教授の研究グループは、3Dプリント技術の中でも特に高精細な造形が可能な「光造形」に用いる新しい材料を実証しました。光造形は非常に細かな形を作れる反面、従来の樹脂は一度固まると溶かして再利用することがほぼできず、材料の無駄や廃棄が問題でした。今回開発した材料は、光を当てると固まり、加熱すると再び液体になる仕組みを持ち、10回以上繰り返してリサイクルできることを実証しています。髪の毛より細かい立体も作れるため、精密部品や医療用デバイスに応用でき、環境にも優しい光造形技術として期待されています。
本研究成果は、2026年2月21日付で国際科学雑誌「ACS Omega」掲載され、ACS Editors' Choiceに選出されました。

研究成果

本研究では、高精細3Dプリント技術である光造形に向けた新しい材料を実証しました。従来の光造形樹脂は、一度固まると再び溶かして使うことが難しく、再利用を可能にするためには化学薬品の追加や特殊処理が必要で、材料の劣化も問題でした。今回用いた材料は、アントラセン分子の光による可逆反応を利用することで、光で固まり、加熱で液体に戻る特性を持ちます。本材料は、光開始剤や再生用添加剤を一切必要とせず、光と熱のみで硬化と再液化を繰り返すことができる点に大きな特長があります。実際に10回以上の造形と再生を繰り返しても、材料の硬さや弾性率は先行文献と比較して大きく損なわれず、構造材料として十分な強度を有していることが確認されました。

実験手法

これまでにも光造形で使う樹脂を再利用しようとする研究は進められてきましたが、実際の運用を考えると、大きな壁が残されていました。従来の再利用型樹脂の多くは、固まった樹脂をもう一度使える状態に戻す際に、外部からエチレングリコールやチオール化合物などの“補助となる化学薬品”を加え、化学反応を通して樹脂の架橋構造を切断する必要がありました。この方法は一見すると再生可能に見えますが、実際には再生のたびに樹脂の化学組成が変化し、色が濃くなる、透明性が失われる、強度が低下するなどの劣化が避けられず、初期の性能を維持できないという問題が依然として残っていることが報告されています。特に、再生のたびに新しい樹脂を加えざるを得ない材料では、粘度が増して扱いにくくなり、事実上“完全な再利用”とは言えませんでした。

こうした従来材料の限界を踏まえ、本研究では光造形樹脂の硬化メカニズムそのものを見直し、従来一般的に用いられてきた連鎖重合に基づく硬化方式から離れるという発想転換を行いました。従来の連鎖重合型樹脂は、光で反応が始まると高速で架橋が進行し、強固で不可逆なネットワークが形成されます。この強固さは造形には有利な一方、一度固まると元に戻せないという性質につながり、再生可能材料としては根本的な制約となっていました。さらに、連鎖重合では光開始剤が不可欠で、開始剤の分解産物が再利用時の劣化の原因になることも知られています。 そこで本研究では、反応の仕組みそのものを「可逆的なもの」にするため、アントラセンが光を受けて二つの分子同士が結合する“光二量化反応”に着目しました。この反応は、光を当てるとアントラセン部分が互いに結びついて固まり、逆に熱を加えると二量体が解離して元の分子へ戻るという、可逆な反応として古くから知られています。この反応は、追加の薬品を必要とせず、光と熱だけで繰り返し行えるため、従来の再生可能樹脂で問題となっていた「添加剤による化学組成の変化」や「再利用のたびに進行する劣化」を避けることができます。 本研究で用いた材料は、産業技術総合研究所の秋山らが可逆的な接着材料として報告した“可逆的光硬化性アントラセン材料”を基礎にしつつ、光造形に適した流動性・光反応性・強度を持つように適応させました。この材料は光照射で安定した架橋構造を形成しながらも、加熱すれば元の液体状態に戻るため、硬化・再液化を繰り返すことが可能です (図1)。

図1. 再利用可能な光造形樹脂として用いた材料の光と熱による硬化と液化の可逆的な変換メカニズムの模式図

図1.再利用可能な光造形樹脂として用いた材料の光と熱による硬化と液化の可逆的な変換メカニズムの模式図

実際に、この材料が実際に高精度の光造形プロセスに耐えうるかを検証するため、二光子光造形による 3D 造形実証を行いました。二光子光造形は、フェムト秒レーザーを一点に強く集光させることで、一般的な光造形よりもはるかに小さな領域にだけ反応を起こすことができ、サブミクロン(1 µm 未満)の非常に細かな三次元構造を作り出せる技術です。 実験では、独自開発した二光子造形装置を用い、材料にレーザーを走査しながら照射することで、理論上の最小線幅に近い0.6 µm の細線構造を形成できることを確認しました(図2B)。また、単純なラインパターンだけでなく、蝶型の平面構造物(図2A)や微細なニードルアレイ(図2C)、複雑な形状を持つウサギ(図2D)など、多様な三次元造形も実証しました。これらの結果は、本材料が単なる概念実証に留まらず、実際の高精細 3D プリントに必要な反応性・硬化安定性・形状再現性を十分に備えていることを示しています。

図2. 再利用可能な光造形樹脂として用いた微細造形物の例(A)蝶の平面構造物(B)微細構造の評価に用いた橋掛け構造物(C)マイクロニードルモデル(D)ウサギモデル

図2. 再利用可能な光造形樹脂として用いた微細造形物の例(A)蝶の平面構造物(B)微細構造の評価に用いた橋掛け構造物(C)マイクロニードルモデル(D)ウサギモデル

本研究ではさらに、この材料が持つ最大の特長である「光で固まり、熱で元に戻る」という可逆性が実際の造形物の再利用プロセスとして機能するかどうかを検証しました。具体的には、一度造形した構造体を加熱し、材料を再び液体状態へと完全に戻した上で、その同じ材料を使って別の形状に再造形する一連のサイクル実験を行いました。実験ではまず、二光子光造形によって立方体などの三次元モデルを作製し、未硬化樹脂を除去した後、その造形物を150℃で加熱して完全に融解させました。融解後の材料を回収し、再び樹脂として利用して円盤状の新たな造形物を作製したところ、形状の再現性は良好で、造形プロセスに必要な流動性や光応答性も維持されていることが確認されました(図3)。この「固化→溶融→再造形」のサイクルを複数回繰り返しても、造形物の表面性状や形状安定性に大きな変化は認められませんでした。また、従来の再生可能樹脂で問題となっていた「強度劣化」や「脆さの増加」もほとんどないことをナノインデンターによる機械的特性評価で確認しました。さらに、10 回以上の書き換え実験(“文字を描いては溶かして消す”というサイクル)でも、材料が高い再現性で硬化・溶融を繰り返し、光造形材料としての性能を保ち続けることも実証しました。
参照:論文中 Supporting Information中の動画

図1. 材料の「固化→溶融→再造形」の各ステップの写真

図3.材料の「固化→溶融→再造形」の各ステップの写真

社会的な背景

3Dプリンティングは、製品開発の初期段階で素早く試作品を作るラピッドプロトタイピングとして広く利用されてきました。近年では、試作だけでなく、最終製品そのものを製造するラピッドマニュファクチャリングへの応用も進んでいます。とりわけ、微細で高精度な立体構造を作ることができる光造形は、微小光学部品、医療用デバイス、マイクロマシンなど、先端技術分野で不可欠な製造プロセスとなっています。しかし、光造形には材料の再利用がほとんどできないことが大きな課題となる可能性があります。従来の光造形樹脂は、一度固めると強い架橋構造が形成され、再び溶かして使うことが困難でした。とりわけ、トライ&エラーを繰り返す研究開発では大量の未使用樹脂や廃棄物が生じ、材料コストの増大や環境負荷が深刻な課題となる可能性があります。加えて、既存の再利用可能樹脂は、再利用に添加剤の追加が必要、再利用するたびに色や強度が低下する、高精細造形に必要な強度を満たさないなどの課題が存在しました。本研究では、従来の光造形樹脂が逆反応の困難な連鎖重合に基づく硬化を利用していたのに対して、可逆反応であるアントラセンの光二量化に用いることで光を当てると固まり、加熱すると再び液体になる仕組みを持ち、10回以上繰り返してリサイクルしても材料の硬さや弾性率は先行文献と比較して大きく損なわれず、構造材料として十分な強度を有していることが確認されました。

今後の展開

本材料は、試作段階で大量に廃棄されてきた光造形樹脂の使用量を大幅に削減できる可能性があり、持続可能なものづくりへの貢献が期待されます。今後は、材料特性のさらなる向上を通じて、産業界、医療分野、精密機器分野などへの幅広い応用が期待されます。

本研究への支援

本研究はJST 戦略的創造研究推進事業 CREST (課題番号JPMJCR1905)、JSPS科研費(課題番号JP22K18938)による支援を受けて行われました。

論文情報

論文タイトル

Initiator-Free Recyclable Anthracene-Based Photocurable Resin Enabling Sustainable 3D Printing via Single- and Two-Photon Stereolithography

著者

Masaru Mukai*, Wakana Miyadai, Seina Matsubara, Tomomi Aoki, Shoji Maruo*

雑誌名

ACS Omega

DOI

10.1021/acsomega.5c09643

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