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2026.04.28 Tue UP

恒星フレアの鉄輝線はどう生じるのか?
―X線と紫外線の同時観測で起源を特定―

概要

京都大学 井上峻 理学研究科博士課程学生、千葉大学 岩切渉 助教、東京理科大学 木村智樹 准教授、京都大学 榎戸輝揚 准教授、コロラド大学 野津湧太 研究員、東京大学大学院新領域創成科学研究科 吉岡和夫 准教授らの研究グループは、NASAのX線望遠鏡「NICER」と、JAXAの紫外線望遠鏡「ひさき」による、おひつじ座UX星の多波長連携観測を実施し、恒星フレアの鉄Kα輝線の放射機構を光電離と特定することに成功しました。

太陽・恒星フレアが起きた際には、高エネルギー電子により遷移層・彩層の順にガスが加熱され、紫外線・連続X線が放射されます。また、フレアの際には「鉄Kα輝線」と呼ばれる特徴的なX線が観測されることがあります。この輝線は、光球と呼ばれる星表面のガス中に存在する鉄イオンのK殻電子 (主量子数n=1) が外的な要因ではじき出される (電離) と放射されます。電離の過程には、(1) フレアの高温プラズマから放射されたX線光子による光電離、(2) フレア開始時に加速された高エネルギー電子による衝突電離、の2つの説が提案されてきましたが、どちらが主要な機構なのかは、長年の謎でした。今回、本研究グループは、おひつじ座UX星で発生したフレアにおいて、紫外線のピークがX線のピークより約1.4時間早く現れていることを発見しました。さらに、鉄Kα輝線の強度ピークが、高エネルギー電子による遷移層の加熱に対応する紫外線の放射ではなく、高温プラズマからの連続X線の放射ピークと一致していることを明らかにしました。これは、鉄Kα輝線の放射機構という、日本の「ひのとり」衛星により太陽の鉄Kα輝線が初めて観測された1980年代以来の謎に対し、主要機構が光電離と結論づける決定的な証拠となります。さらに、この解明は、鉄Kα輝線を用いた巨大恒星フレアの発生場所や幾何構造の特定という新たな展開にも繋がります。

本成果は、2026年4月27日10時(BST)に国際学術誌 「The Astrophysical Journal」にオンライン掲載されました。

本研究の概要図

図1. 本研究の概要図。おひつじ座UX星で発生した恒星フレアを「NICER」と「ひさき」衛星で同時観測することで、X線・紫外線の時間変化を調べ、連続X線と鉄Kα輝線のピークの一致を捉えた

1.背景

太陽・恒星フレアは、星の表面で突発的に起こる爆発現象です。発生時には強いX線が放射され、太陽では地球圏に、恒星では周囲を公転する系外惑星の環境にさまざまな影響を及ぼします。特に、爆発が惑星の方向を向いて起きたかどうかで、惑星圏への影響は大きく変わります。近年、フレアに伴うX線が系外惑星の大気の流出を促す可能性について盛んに議論されてきましたが、個々のフレア現象についてフレアからの粒子や光の放出の方向(星表面でのフレアの発生位置)まで踏み込んだ検討はほとんど進んでいません。これは、太陽と異なり遠方の恒星では空間的に星を分解した撮像観測ができず、フレアがどの場所で起きたかを特定することが難しいためです。

鉄Kα輝線は、中性の鉄イオンのK殻電子 (主量子数 n=1 の軌道) が外的要因により電離され、空いたK殻へL殻 (主量子数 n=2 の軌道) の電子が遷移する際に放射されるX線の輝線で、中心エネルギーは6.4 keV(キロ電子ボルト:kiloelectronvolt)です。太陽・恒星フレアのX線観測では本輝線がしばしば検出されてきました。一方、フレア時のX線放射の主成分は、コロナ(※1)の領域に磁気リコネクションで形成される磁気ループを満たす数千万度 (数10 MK)の高温プラズマからの放射で、このプラズマの温度では鉄は電子が2つ(ヘリウム状)または1つ(水素状)だけ残された、激しく電離されたイオン状態になっています。したがって、中性か電離がほとんど進んでいない(低電離)鉄からの鉄Ka輝線は高温プラズマではなく、より低温の光球(※2)から放射されていると考えられてきました。ただし、この輝線がどのように作られるのかについては、長いあいだ決着がついていませんでした。考えられてきた仕組みは主に2つあります。一つは、フレアループから放たれたX線が星の表面に届き、鉄原子を電離する「光電離」です。もう一つは、フレアの初期に磁気リコネクションで加速された高エネルギー電子が星の表面に衝突し、鉄原子を電離する「衝突電離」です。もし光電離が主要因であれば、鉄Kα輝線の強さは、星の表面のどこでフレアが起き、観測者がどのような角度から観測しているかに依存します。そのため、空間分解できない恒星フレアの発生緯度の推定、さらには系外惑星への影響評価にも鉄Kα輝線は有用な道具となります。これまで、鉄Kα輝線の放射機構は日本の「ひのとり」衛星による太陽X線の分光観測が活発だった1980年代に盛んに議論されたものの決着に至らず (例:Tanaka et al. 1984, ApJ; Zarro et al. 1992, ApJ)、その後30年以上にわたり太陽での本輝線の観測が行われなかったこともあって、次第に研究コミュニティで注目されにくくなっていました。

2.研究手法・成果

<研究手法>

1. 本研究グループは、おひつじ座UX星(英名: UX Ari)を対象に、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載されたNASAのX線望遠鏡「NICER」と、JAXAの紫外線望遠鏡「ひさき」(図2)を用いて、2018年11月に数日間にわたるX線・紫外線の同時観測を行いました。ひさき衛星は、もともと太陽系内の惑星観測を主な目的として開発された衛星ですが、本研究のように遠方の恒星の観測にも活用できます。

今回の研究で使用された望遠鏡

図2. 今回の研究で使用された望遠鏡

2. 観測によって得られたデータを解析することで、X線・紫外線の明るさがフレアのあいだにどのように時間変化するのか、スペクトルがどのような形状をしているのかを調べました。

<成果>

1. 我々が「NICER」と「ひさき」を用いておひつじ座UX星を観測中だった2018年11月16日07時50分(日本時間)ごろ、この星で最大級の太陽フレアの1万倍以上の規模のスーパーフレア(※3)が発生しました。「NICER」と「ひさき」は、それぞれ星からのX線と紫外線が急激に強まる様子を捉え、その増光はその後、半日ほど続きました(図3)。

フレア中の紫外線・連続X 線・鉄Kα輝線の明るさの時間変動

図3. フレア中の紫外線・連続X 線・鉄Kα輝線の明るさの時間変動

2. このスーパーフレアでは、紫外線のピークがX線のピークより約1.4時間早く現れていたことが分かりました。これは、太陽フレアでよく知られている「ニューパート効果(Neupert effect)」と呼ばれる現象に対応しています。太陽フレアの標準的なモデルでは、まず、磁気リコネクションで発生した星に向かって叩き込まれる高エネルギー電子が遷移層(※4)を加熱して紫外線が放射され、その後、加熱された彩層(※5)のプラズマがコロナへと上昇して、連続X線を放射すると考えられています。つまり、紫外線は高エネルギー電子を、連続X線は高温プラズマからの放射を代表していると言えます。今回の観測は、遠方の恒星でも太陽とよく似た仕組みでフレアが起きていることを示しています。

3. さらに、「NICER」が取得したX線スペクトルからは鉄Kα輝線が検出されました。この鉄Kα輝線の明るさの時間変化を調べたところ、そのピークは、高エネルギー電子に由来する紫外線ではなく、少し遅れて現れる高温プラズマに対応する熱的な連続X線のピーク時刻と一致していました。これは、鉄Kα輝線が、フレアで生じた高温プラズマからのX線光子による星表面の鉄原子の電離、つまり「光電離」によって生じていることを強く支持する結果です。このことを時間変化の観測から明確に示したのは、恒星フレアでは今回が初めてです。

3.波及効果、今後の予定

今回の発見によって、鉄Kα輝線が主に光電離によって生じることが明らかになりました。これにより今後は、鉄Kα輝線を手がかりとして、空間分解できない恒星フレアが星の表面のどこで起きたのかを推定できるようになります。実際に本研究グループは、3次元輻射輸送計算(※6)コード「SKIRT」を用いたシミュレーションと観測データを比較することで、今回のフレアが星のどのあたりで発生したのかを大まかに推定することができました。ただし、現在の観測装置では鉄Kα輝線の明るさを測る精度がまだ十分ではなく、フレアの発生位置の推定に大きな不確かさが残ることも分かりました。そこで今後は、今回の観測に用いたNICERよりもエネルギー分解能が高く、鉄Kα輝線の強さをより正確に測定できるXRISM衛星(※7)を用いて、恒星フレアの鉄Kα輝線をさらに高精度で観測し、フレアの発生位置や構造をより詳しく調べていきたいと考えています。

さらに本研究は、紫外線観測の新たな可能性を示した成果でもあります。ひさき衛星はもともと惑星観測を主目的として開発された衛星であり、本研究ではひさき衛星による恒星フレアの観測成果を初めて得ることができました。今後、紫外線は恒星フレアの研究をはじめとして、天文学においてますます重要な波長になっていくと期待されます。こうしたことからも、X線と紫外線のように異なる波長を組み合わせた多波長観測は、天体現象の全体像を理解するための重要な手法になっていくと考えられます。

4.研究プロジェクトについて

本研究は下記メンバーによって構成される研究グループによって実施しました。 井上峻 (京都大学大学院理学研究科 博士課程学生 兼:同日本学術振興会特別研究員)、岩切渉 (千葉大学ハドロン宇宙国際研究センター 助教)、木村智樹 (東京理科大学理学部第一部 准教授)、榎戸輝揚 (京都大学大学院理学研究科 准教授)、野津湧太(コロラド大学ボルダー校 大気宇宙物理学研究所 研究員)、内田裕之(京都大学大学院理学研究科 助教)、濱口健二(NASAゴダード宇宙飛行センター 研究員)、鳥海森(JAXA宇宙科学研究所 准教授)、山﨑敦(JAXA宇宙科学研究所 准教授)、土屋史紀(東北大学大学院理学研究科 教授)、村上豪(JAXA宇宙科学研究所 助教)、吉岡和夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科 准教授)、Arzoumanian Zaven(NASA ゴダード宇宙飛行センター研究員)、Gendreau Keith(NASA ゴダード宇宙飛行センター研究員)。

本研究はJSPS科研費24KJ1483・24K00673の助成を受けたものです。

用語解説

1 コロナ:X線を放射している高温(100万度)の外層大気。フレアループはコロナ中に位置する。

2 光球:肉眼で見える星表面の大気層。彩層、コロナよりも下層に位置する。温度は、おひつじ座UX星の場合は4500 K程度。

3 スーパーフレア:太陽での最大級のフレア(10^32erg(エルグ))の10倍以上のエネルギー規模のフレア。

4 遷移:コロナのすぐ下層にある紫外線を放射している大気層。1万度から100万度にかけての急激な温度勾配を持つ。

5 彩層:光球と遷移層の間にある1万度の大気。フレアが起きると、彩層のプラズマが加熱され、コロナ中へと上昇して磁気ループを満たす。

6 輻射輸送計算:光と物質の相互作用を数値的に明らかにする計算。

7 XRISM衛星:JAXA、NASA、ESAにより共同開発され、2023年に打ち上げられた新しいX線天文衛星。鉄輝線付近で過去最高のエネルギー分解能を持つマイクロカロリメータResolveが搭載されている。

研究者のコメント

鉄Kα輝線の放射機構という太陽・恒星フレアの長年の未解決問題が、その主な観測対象が太陽でも恒星でもない「ひさき」衛星とNICERの連携によって解かれた点は、特筆に値すると思います。本研究成果が、XRISM衛星やLAPYUTA衛星といった今後のX線・紫外線衛星での恒星フレア・系外惑星の研究に繋がることを期待しています。(井上峻

「この星、面白いはずなのでちょっとやってみません?」というお願いに対して呼応してくれた「ひさき」チームとNICERチームに感謝です。紫外線とX線の明るさの時間変化を比べてみて期待通りにばっちりピーク時刻がずれているのを最初に確認した時の感動はひとしおで、こういうのを経験してしまうとなかなか研究者は辞められません。(岩切渉

本来は惑星の大気やオーロラを観測する専用の宇宙望遠鏡として打ち上げた「ひさき」衛星ですが、NICERとの同時観測で、X線観測と相補的に恒星フレアの時空間発展を捉えることができました。惑星の研究者として思いもしない成果に驚いています。「ひさき」の後継機である「LAPYUTA」衛星でもこのようなシナジーを目指していきたいです。(木村智樹

論文タイトルと著者

タイトル

Origin of the Stellar Fe Kα Line Clarified with Far-ultraviolet and X-Ray Observations of a Superflare on the RS Canum Venaticorum–type Star UX Arietis
(RS CVn型星UX Arietisにおけるスーパーフレアの遠紫外線・X線観測が明らかにした恒星Fe Kα輝線の起源)

著者名

Shun Inoue, Wataru Buz Iwakiri, Tomoki Kimura, Teruaki Enoto, Yuta Notsu, Hiroyuki Uchida, Kenji Hamaguchi, Shin Toriumi, Atsushi Yamazaki, Fuminori Tsuchiya, Go Murakami, Kazuo Yoshioka, Zaven Arzoumanian, Keith Gendreau

掲載誌

The Astrophysical Journal

DOI

10.3847/1538-4357/ae2be0

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