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外国人労働者への意識、社会保障制度の理解で変化
~医療保険制度加入に対する認識が、高所得層への選好を高めることを実証~
研究の要旨とポイント
- 日本国内の再分配政策が、国民の外国人労働者に対する選好に与える影響を調べました。
- 日本在住の約2,000人を対象としたオンライン調査実験により、外国人労働者も医療保険制度に加入していることを知ると、高所得の外国人労働者への選好が高まることが分かりました。
- 一方でこの傾向は、外国人労働者の増加が自分や家族の雇用を脅かすと感じていない人々に限って現れることも分かりました。
- 本研究は、外国人労働者受け入れ政策を考える際、人手不足への対応だけでなく、社会保障制度への理解や雇用不安も含めて検討する必要があることを示しています。
研究の概要
東京理科大学 教養教育研究院の松本 朋子准教授と一橋大学 経済学部の岸下 大輝准教授らの研究グループは、約2,000人を対象としたオンライン調査により、日本の医療保険制度に外国人労働者が含まれているという認識が、人々の「受け入れたい外国人労働者のタイプ」に影響を与えることを明らかにしました。
日本では、少子高齢化に伴う人手不足を背景に、外国人労働者の受け入れが重要な政策課題となっています。一方、外国人労働者の受け入れをめぐっては、雇用や社会保障制度への影響が議論されてきました。しかし、外国人労働者も日本の医療保険制度に加入しているという認識が、受け入れたい外国人労働者の所得層の選好にどのように影響するかについては、十分に明らかにされていませんでした。
本研究では、日本在住の約2,000人を対象にオンライン調査を実施しました。回答者の一部に、外国人労働者も日本の医療保険制度に加入していること、また、所得が高い人ほど保険料を多く負担することを説明しました。その上で、年齢、所得、業種、出身地域などが異なる外国人労働者のタイプを示し、どのタイプをどの程度受け入れたいかを尋ねました。
その結果、外国人労働者が医療保険制度に加入していることを知ると、高所得の外国人労働者への選好が高まり、低所得の外国人労働者への選好が低下することが明らかとなりました。これは、外国人労働者が単に人手不足を補う存在としてだけでなく、社会保障制度の担い手としても認識されることで、受け入れたい人材像が変化する可能性を示しています。
一方、この効果は、外国人労働者の増加が自分や家族の雇用を脅かすとは感じていない人々においてのみ見られました。つまり、外国人労働者の受け入れに対する意識は、社会保障制度への理解だけでなく、雇用不安とも密接に関係していることが示されました。
本研究の成果は、外国人労働者の受け入れ政策を考える際に、人手不足への対応だけでなく、社会保障制度への理解や雇用不安についても議論する必要があることを示しています。今後、日本で外国人労働者の必要性がさらに高まる中で、受け入れ制度の設計や社会的合意の形成を検討する上で、重要な知見を提供するものです。
本研究成果は2026年6月1日に国際学術誌「Public Choice」にオンライン掲載されました。
研究の背景
日本では少子高齢化が進み、介護、建設、農業、サービス業など、さまざまな分野で人手不足が課題となっています。その中で、外国人労働者は日本社会を支える重要な存在になりつつあります。実際、日本の外国人労働者数は近年増加しており、外国人労働者をどのように受け入れるかは、今後さらに重要な政策課題になると考えられます。
一方で、外国人労働者の受け入れをめぐっては、雇用や社会保障制度への影響がしばしば議論されます。特に、医療保険や年金などの社会保障制度は、国民の生活を支える重要な制度であるため、外国人労働者がこうした制度にどのように関わるのかは、受け入れ政策を考える上で無視できない論点です。
これまでの研究では、移民が福祉制度の負担になるのではないかという懸念が、移民受け入れへの支持や移民のタイプに対する選好に影響する可能性が示されてきました。しかし、既存研究には主に二つの課題がありました。一つ目は、福祉制度に関する懸念が本当に移民のタイプへの選好を変えているのか、その因果関係が十分に検証されていなかったことです。二つ目は、先行研究の多くが「低所得の移民が福祉制度の負担になるのではないか」という懸念に注目してきたことで、移民の福祉制度への貢献という観点、すなわち高所得の移民への選好が見落とされてきたことです。
そこで本研究では、国内の再分配政策(*1)、とりわけ医療保険制度への理解が、人々の外国人労働者に対する選好にどのような影響を及ぼすのかを調べました。本研究は、外国人労働者の受け入れに対する意識が、文化的な要因や雇用不安だけでなく、医療保険を含む社会保障制度への理解によっても変化する可能性に着目したものです。これにより、今後の外国人労働者の受け入れ政策を検討する際に、雇用政策と社会保障制度を切り離さずに議論する必要性を示すことを目指しました。
研究結果の詳細
本研究では、日本在住の約2,000人を対象に、回答者をAとBの二つのグループに無作為に分けるオンライン調査実験を実施しました。Aグループには、日本が少子高齢化による人手不足に直面しており、外国人労働者がその解消に役割を果たしていることのみを、Bグループには、それに加えて、外国人労働者も日本の医療保険制度に加入していること、所得が高い人ほど保険料を多く負担することを説明しました。その後、回答者に、年齢、所得、業種、出身地域、出身国の政治体制、出身国の経済水準が異なる外国人労働者のタイプを提示し、日本が100人の外国人労働者を受け入れる場合に、それぞれのタイプを何人受け入れたいかを尋ねるコンジョイント調査実験(*2)を行いました。
まず、外国人労働者が日本の医療保険制度に加入していることを正しく理解している人の割合を確認したところ、Aグループでは50.7%、Bグループでは80.9%でした。この結果から、情報提示によって、外国人労働者と医療保険制度の関係に関する理解が大きく高まったことが確認されました。
次に、外国人労働者のタイプに対する選好を分析しました。その結果、Aグループでは、高所得の外国人労働者よりも低所得の外国人労働者を受け入れたいと考える傾向が見られました。これは、日本では人手不足が深刻化しており、現場の労働力を補う存在として、低所得層の外国人労働者が求められている可能性を示しています。一方、Bグループでは、高所得の外国人労働者への選好が高まり、低所得の外国人労働者への選好が低下しました。これは、外国人労働者が人手不足を補う労働力としてだけでなく、社会保障制度の担い手としても認識されることで、受け入れたい所得層に関する考え方が変化する可能性を示しています。
ただし、この効果はすべての回答者に同じように見られたわけではありません。外国人労働者の増加により自分や家族の雇用が脅かされるかもしれないと感じている回答者では、医療保険制度に関する情報を提示しても、高所得の外国人労働者への選好が高まる傾向は見られませんでした。一方、こうした雇用不安を抱えていない回答者では、高所得の外国人労働者への選好が高まり、低所得の外国人労働者への選好が低下しました。
この結果は、外国人労働者の受け入れに対する意識が、社会保障制度への理解のみによって決まるわけではないことを示しています。社会保障制度への貢献という観点は重要ですが、自分や家族の雇用が脅かされるという不安がある場合には、その不安がより強く働き、医療保険制度への貢献に関する情報の効果が弱まる可能性があります。したがって、外国人労働者の受け入れに対する意識を理解するには、社会保障制度への認識と雇用不安を合わせて考えていく必要があります。
今後、日本で外国人労働者の受け入れ制度を見直していく際には、人手不足への対応、社会保障制度の持続可能性、国内労働者の雇用不安を切り離さずに議論することが求められます。本研究は、こうした政策議論を進める上で、再分配政策が外国人労働者への選好に与える影響を実証的に示した基礎的な知見を提供するものです。
本研究を主導した松本准教授は、「欧米に比べればはるかに少ないものの、日本では近年外国人労働者が増えており、有権者の関心も高まっています。私が研究している再分配政策がこの社会変動にどのように関係しているかを探りたいと考え、本研究に取り組みました。外国人労働者受け入れ政策を今後見直していく上でも、参考になる結果が得られたと考えています」と、本研究成果について述べています。
※ 本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI、課題番号:22K13339、22K13368、26K16320、26K00300)の助成を受けて実施したものです。
用語
*1 再分配政策
税金や社会保険料などを通じて集めた財源を、医療、年金、失業給付、生活支援などの形で社会全体に配分し直す政策。本研究では、所得が高い人ほど多く保険料を負担する医療保険制度を、再分配的な制度の一例として扱っている。
*2 コンジョイント調査実験
複数の特徴を組み合わせた仮想的な選択肢を回答者に示し、どの特徴が選好に影響するかを調べる調査手法。本研究では、年齢、所得、業種、出身地域などが異なる外国人労働者のタイプを提示し、回答者がどのタイプをどの程度受け入れたいと考えるかを分析した。
論文情報
雑誌名
Public Choice
論文タイトル
Welfare State and Natives’ Preferences for Immigrants’ Types
著者
Daiki Kishishita and Tomoko Matsumoto
