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2026.06.05 Fri UP

炭素中心金(I)イオンクラスターの不斉合金化法の開発に成功!
~赤色から近赤外領域の光を発するキラル合金クラスター:光機能材料への応用に期待~

東京理科大学
自然科学研究機構 分子科学研究所
総合研究大学院大学
科学技術振興機構(JST)

研究の要旨とポイント

  • 炭素イオンの周りに6個の金(I)イオンが結合した金(I)イオンクラスター(*1)に銀塩を添加することで、銀(I)イオンの導入(合金化)と金(I)イオン数の減少(エッチング *2)を伴う、キラル(*3)な炭素中心金(I)-銀(I)合金クラスターのラセミ体(*4)が得られました。さらに、ホモキラル(*5)なカルボン酸を添加することで、不斉合金化(*6)に成功し、光学的に純粋な合金クラスターが形成されました。
  • 上記の合金クラスターは、赤色から近赤外領域において長寿命のリン光発光(*7)を示しました。ホモキラルな合金クラスターは、円二色性(*8)や円偏光発光(*9)を示し、それらの結合の性質や発光のメカニズムは理論計算によって明らかになりました。
  • 本研究は、異なる金属イオンの導入とエッチングによる不斉合金化に基づく、ホモキラルな合金クラスターの優れた合成法を提示するものであり、キラル発光ナノ材料の創出や光機能材料分野への応用への貢献が期待されます。

研究の概要

東京理科大学 研究推進機構 総合研究院の塩谷 光彦教授、Pei Xiao-Li助教、宇部 仁士講師、自然科学研究機構 分子科学研究所 計算科学研究センターの江原 正博教授(兼 総合研究大学院大学教授)、Zhao Pei特任助教、福州大学 化学学院(中国)のLei Zhen教授、Liu Wen-Ting大学院生の共同研究チームは、炭素中心の金(I)イオンと銀(I)イオンからなるキラルな合金クラスターの合成、およびホモキラルなカルボン酸を用いた不斉合金化を達成し、これらのクラスターの赤色から近赤外領域における発光特性を明らかにしました。

具体的には、トリフェニルホスフィン配位子で保護された高い構造対称性を持つ炭素中心6核金(I)イオンクラスター(CAuI6)にトリフルオロ酢酸銀を加えることで、銀(I)イオンの導入と金(I)イオンのエッチングを介して、双四角錐反柱多面体構造(*10)を有する炭素中心金(I)-銀(I)合金クラスター(CAuI4AgI6)のラセミ体が得られることを見出しました。さらに、ホモキラルなカルボン酸を添加することで、ホモキラルな合金クラスターを構築する不斉合金化に成功しました。これらの合金クラスターは、赤色から近赤外領域において、長寿命のリン光発光を示しました。ホモキラルな合金クラスターは、円二色性や円偏光発光を示し、それらの結合特性と発光機構は理論計算によって明らかにされました。

本研究は、異なる金属イオンの導入とエッチングによる不斉合金化に基づく、金属イオンクラスターの高効率かつ高選択的な合成法を提示するものであり、キラル発光ナノ材料の創出や光機能材料分野への貢献が期待されます。

本研究成果は、2026年6月5日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

研究結果の詳細

発光性金属イオンクラスターは、構造全体の安定化や物性に寄与する配位子や金属イオンの種類や組成により、金属イオンの配列が精密に制御され、構造に特異な物性や反応性が発現されます。本研究では、サブナノメートル(*11)サイズの金属イオンクラスターにおける単原子レベルでの合金化とキラリティー(*12)の制御という未開拓な領域に焦点を当てました。従来、金属クラスターにキラリティーを付与する主な方法は、外部からホモキラルな配位子を導入することでした。一方、キラリティーを示さない金属塩を添加して合金化することで、金属コア自体に固有のキラリティーを付与する方法はほとんど報告されていませんでした。そこで本研究では、合金化によってキラルな金属クラスターをラセミ体として合成することに加え、ホモキラルなカルボン酸を用いた不斉誘導により、ホモキラルな合金クラスターを高選択的に合成する方法の開発に取り組みました。

具体的には、トリフェニルホスフィン配位子で保護された高い構造対称性を持つ炭素中心金(I)イオンクラスター(CAuI6)にトリフルオロ酢酸銀を添加することで、6個の銀(I)イオンの導入と2個の金(I)イオンのエッチングを伴う合金化により、双四角錐反柱多面体構造を有する炭素中心金(I)-銀(I)合金クラスター(CAuI4AgI6)をラセミ体として合成しました。さらに、このラセミ体にホモキラルなカルボン酸を添加することで、合金クラスターを高ジアステレオ選択的に短工程で合成する、不斉合金化に成功しました。上記のラセミ体の単結晶X線構造解析の結果、4個の金(I)イオンと6個の銀(I)イオンが、炭素中心を有する双四角錐反柱構造の頂点に非対称に配置されていることが明らかとなりました。また、この構造は擬D2対称へと対称性が低下することで炭素中心キラリティーが生じることが確認されました。さらに、このラセミ体にホモキラルなカルボン酸を添加することで、同様の双四角錐反柱構造を有するホモキラルな炭素中心キラリティーを有する合金クラスターの単離にも成功しました(図1)。

  図1:銀(I)イオン導入および金(I)イオンのエッチングによる単原子レベルの不斉合金化

図1:銀(I)イオン導入および金(I)イオンのエッチングによる単原子レベルの不斉合金化

合金クラスターのCAuI4AgI6コア部分の結合の性質を理論計算により解析した結果、中心炭素イオンと金(I)イオン間の強い配位結合(C–Au(I))、中心炭素イオンと銀(I)イオン間の比較的弱い相互作用(C···Ag(I))、および金属イオン間の相互作用(Au(I)···Au(I)、Au(I)···Ag(I)、Ag(I)···Ag(I))からなる階層的な結合様式が見出されました。このような結合の非対称性は合金クラスター構造におけるCAuI4コアと銀(I)イオンの相乗安定化と非対称配置を可能にし、炭素中心キラリティーの発現に寄与しています。

これらの合金クラスターは、赤色から近赤外領域において長寿命のリン光発光を示し(図2)、従来の炭素中心金(I)イオンクラスター(CAuI6)と比較して長波長側へ大きくシフトした発光を示すことが明らかになりました。さらに、近赤外発光においては34%という比較的高い量子収率(*13)を示すことが確認されました。これは、近赤外領域で発光する金属クラスターとしては高い値であり、明るく効率的な発光特性を示すことから、光機能材料への応用が期待されます。また、円二色性および円偏光発光の測定により、ホモキラルな合金クラスターが明確なキラル光学特性を示すことが確認されました。さらに、従来のCAuI6イオンクラスターに見られる金属–配位子間電荷移動(*14)による発光とは異なり、CAuI4AgI6合金クラスターはコア部分に局在した励起に由来する発光を示すことが理論計算により明らかになりました。

図2:赤色から近赤外領域におけるリン光発光特性および理論計算に基づく分子軌道図

図2:赤色から近赤外領域におけるリン光発光特性および理論計算に基づく分子軌道図(HOMO:最高被占軌道、LUMO:最低空軌道)

以上のように、異なる金属イオンの導入とエッチングを組み合わせることで、キラリティーを有する合金クラスターを単原子レベルで精密に構築する新しい不斉合金化手法を実現しました。本手法は、サブナノメートルサイズの金属イオンクラスターにおける構造・機能制御のための有用な方法論を提供するものであり、キラル発光ナノ材料の設計可能性を大きく広げることにより、光機能材料分野への応用への貢献が期待されます。

※ 本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP22K14961, JP24K08443, JP24K17663, JP22H05133, JP21H05022)、文部科学省(MEXT)の科研費(JP16H06509)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR22B2)による助成を受けて実施したものです。

用語

*1 金(I)イオンクラスター
数個の金(I)イオンからなり、金(I)イオン間の相互作用により多面体をつくる分子。本研究で用いた金(I)イオンクラスターは、その構造の中心に炭素イオンを含む。

*2 エッチング
一般的には、化学薬品などの腐食作用を利用した表面加工技術であるが、本研究におけるエッチングは、金(I)イオンクラスター中の金(I)イオンを単原子レベルで除去する手法を指す。

*3 キラル
物体や現象がその鏡像と重ね合わすことができない状態を指す。

*4 ラセミ体
キラルな化合物において、一対の鏡像体の等量混合物である状態の物質。

*5 ホモキラル
キラルな化合物において、一方の鏡像体だけ存在している状態を指す。

*6 不斉合金化
ラセミ体を与える合金化反応に不斉要素を導入し、鏡像体の一方のみを優先的に合成すること。

*7 リン光発光
光を吸収して励起された分子や物質が、そのエネルギーを光として放出する現象の一種。電子のスピン状態の変化を伴う遷移に由来し、一般に長寿命の発光を示す。

*8 円二色性
右円偏光と左円偏光の吸収強度が異なる性質。

*9 円偏光発光
光学活性な物質に光を照射して生じた光励起状態から、右あるいは左回りに回転する円偏光のどちらかをより多く発する現象である。

*10 双四角錐反柱多面体構造
ジョンソン立体(No. 17)に分類される、上下に重ねられた二つの正方形が互いに回転した状態で頂点を結んで形成される10個の頂点を持つ多面体構造。

*11 サブナノメートル
サブは "~以下" という意味の接頭語であり、ナノ(10億分の1メートル)メートルより小さいことを指す。正確な定義はないが、一般には、0.1 nm以上1 nm未満の大きさの分子に用いられる。

*12 キラリティー
物質の構造が、その鏡像と重ね合わせることができない性質。ここでは、合金クラスター分子における金属の配置、配位子の構造、および金属コアの構造歪みなどが、キラリティーの発生の要因であり、これらの要因はキラル光学特性に関与している。

*13 量子収率
吸収された光子数に対して発光などの有効な過程に使われた光子数の割合(%)。

*14 金属–配位子間電荷移動
分子の光励起過程において金属中心の電子が配位子へ移動する現象。この電荷移動に由来する発光は、多くの金属錯体や金属クラスターで観測されている。

論文情報

雑誌名

Nature Communications

論文タイトル

Asymmetric alloying for heterogeneous metal-ion clusters of chiral-at-carbon CAuI4AgI6 polyhedra exhibiting red to near-infrared photoluminescence

著者

Xiao-Li Pei, Pei Zhao, Wen-Ting Liu, Hitoshi Ube, Zhen Lei, Masahiro Ehara & Mitsuhiko Shionoya

DOI

10.1038/s41467-026-72787-w

発表者

Pei Xiao-Li
東京理科大学 研究推進機構 総合研究院 助教
Zhao Pei
自然科学研究機構 分子科学研究所 計算科学研究センター 特任助教
Liu Wen-Ting
福州大学 化学学院 博士課程3年
宇部 仁士
東京理科大学 研究推進機構 総合研究院 講師
Lei Zhen
福州大学 化学学院 教授
江原 正博
自然科学研究機構 分子科学研究所 計算科学研究センター 教授
総合研究大学院大学 教授
塩谷 光彦
東京理科大学 研究推進機構 総合研究院 教授

東京理科大学について

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