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木の温もりを感じるプレファブ・システム建築のモデルルームを公開しました
~高い耐震安全性を備え、デザイン性と生産性に優れた建築構造システムの実現~
研究の要旨
東京理科大学工学部建築学科・伊藤拓海教授、森健士郎助教、大学院生・魚住明彦、山下凌雅、森有悠は、(株)内藤ハウス(本社:山梨県韮崎市、代表取締役社長:内藤篤)と共同し、プレファブ・システム建築に対して、新たな付加価値(デザイン性、設計自由度)をもたらし、耐震性に優れた建築構造システムを開発しています。この構造システムは、鉄骨柱を合板ではさみ込んだハイブリッド耐力壁であり、プレファブ・システム建築に組み込みます。(株)内藤ハウスのシステム建築の特徴、すなわち、落とし込み工法による生産システムを継承し、生産性・施工性にも優れた構造システムです。五十嵐冬人建築設計事務所、(株)えびす建築研究所と協力して、意匠性、施工性、耐震性に優れた次世代型建物をデザインしました。このたび、日本の伝統文様である市松模様のデザインを木パネルで表現したモデルルームを設計・建設し、一般公開しました。
研究成果の概説
プレファブ・システム建築のメリットを活かし、木の意匠性を表現した建物を設計・建設し、モデルルームを一般公開しました(図1、表1)。
- モデルルームの設計・建設と一般公開、ならびに使用環境の整備
- 木と鉄骨による合成構造の具体的な工法と設計法の提案、ならびに生産体制の検討
表1 モデルルームの概要
工事名称 | モデルルーム |
---|---|
建設地 | 山梨県韮崎市 |
用途 | 展示場 |
建築面積 | 134.16m2 |
延べ面積 | 130.45m2 |
階数 | 地上1階 |
最高高さ | 4.235m |
構造種別 | 鉄骨造 |
骨組形式 | ハイブリッド耐力壁 (角形鋼管柱+構造用合板) |
基礎種別 | 布基礎 |
工事期間 | 2022年7月18日~10月13日 |
研究の背景と目的
プレファブ・システム建築*1,2は、短工期、低コスト、長寿命化を実現することができます。近年、事業サイクルは高速化し、持続可能性が重視され、その需要は高まっています。工程の省略化により、建設業界の技能者不足をカバーできます。しかし、軽量鉄骨工法*3とブレースによる構造であるため、耐震性の確保のために多くの壁を用いる必要があります。これにより、建物としての平面計画や、意匠性、開放性が制限されることがあります。また、プレファブ・システム建築は、仮設建築のイメージを抱かせることもあります。
木材を使った建築物は、鉄骨やコンクリートの建築物と比較して環境負荷が少なく、森林・国土の整備と保全、炭素循環によるCO2固定化などにより、地球環境にやさしい建物として期待されています。東京2020オリンピック・パラリンピックの施設建物や開会式・閉会式などの各種イベントにおいて、日本各地の木材を取り寄せて、積極的に利用されました。木造は、地産地消の建物にもなります。また、自然素材の木ならではの温もりや香り、感触、色合い、風合いなど、居心地の良い居住環境を提供します。少子高齢化や建物の長寿命化、地球環境・資源問題などを受け、日本の建物の新築着工数は減少していますが、その中で、木造住宅のニーズは年々増え続けています。一方、東日本大震災など近年の激甚自然災害において、木造建物は地震・津波等により甚大な被害を受け、構造安全性が十分でないこともあります。自然素材による材料特性のばらつきにより、構造が過剰となり、不均一性・異方性に配慮した設計・建設も必要となります。また、年々、大工数が減少し、高度な技術が継承できないことがあります。
そこで、プレファブ・システム建築と木造建築の高いニーズに対して、これらを掛け合わせることで、新たな付加価値を持った建築構造システムを開発しています。プレファブ・システム建築と合板のハイブリッド構造とすることで、それぞれのメリットを引き立て、デメリットを補完することができます。
本プロジェクトは、東京都および(公財)東京都中小企業振興公社による研究開発助成「令和元年度次世代イノベーション創出プロジェクト2020助成事業」(助成期間:2020年度~2022年度)の支援対象プロジェクトに(株)内藤ハウスが採択され、技術・製品開発の支援をいただいています。(研究開発テーマ:意匠性を高める耐力壁を用いたシステム建築の開発)
研究成果を利用し、利用法や促進を検討するため、日本の伝統文様である市松模様のデザインを木パネルで表現したモデルルームを設計・建設し、一般公開することとしました。
合わせて、生産性・施工性に関わる施工試験と、耐震性の解明と構造計算法の確立に関わる実験研究を行いました。これらの成果に基づき、木と鉄骨による新しいハイブリッド構造システムとしての展開を進めています。これにより、高い安全性と信頼性の構造システムとして、利用することができます。
なお、この建築構造システムは、SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」、SDGs11「住み続けられるまちづくりを」、SDGs15「陸の豊かさも守ろう」、SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」に貢献します。
研究成果の概要
本研究では、内藤ハウスのプレファブ・システム建築に、鉄骨柱と合板によるハイブリッド耐力壁を組み込むための工法を開発し、建物のデザインを提示しました(2021年1月18日プレスリリース)。このうち、意匠性や市場性を考慮して、市松模様のデザインを優先的に展開することとしました。実用化にあたり、施工性や生産性を考慮し、構法と生産システムを具体化し、モデルルームを設計・建設しました(図1、表1)。
-
研究概要
ハイブリッド耐力壁を実用化・製品化し、実建物に実装するための供給体制や設計法・施工法の整備・確立に向けて、以下の研究課題を実施しました。- 実大スケールの耐震実験:耐震性の解明と構造計算法の確立
- 接合工法の開発と構造性能の確認実験:ハイブリッド耐力壁の合板と鋼管柱の具体的な接合工法の確立と成立性検証実験
- モデルルームの設計・建設と施工試験:実建物にハイブリッド耐力壁を実装するための具体的な方法や、設計法・施工法の確立、加工・生産体制の検証など
-
実大スケールの耐震実験
ハイブリッド耐力壁の成立性や耐震性の解明、構造計算法の確立を目的として、実物大スケールの耐力壁(幅2,500mm、高さ3,450mm)の構造実験を実施しました(図2)。実験結果(表2)より、合板による補剛効果が確認され、十分な耐震性を有していることが確認されました。さらに、実験結果に基づき、構造計算法に資する力学モデルを構築し(図3)、有効性や適用性の検討を進めています。
実験準備を通じて、実大スケールのモックアップ試験により、プレファブ化のための材料供給と製作・加工方法、運搬、建方を実証することができ、課題を抽出することができました(図2)。
表2 耐震実験結果の概要
試験体ID 水平剛性*4 基準水平耐力 許容水平耐力
(壁倍率)鉄骨柱のみ 0.50 kN/mm 8.8 kN 12.9 kN
(2.63倍相当)合成壁1 0.44 kN/mm 6.2 kN 10.8 kN
(2.20倍相当)合成壁2 0.69 kN/mm 11.9 kN 17.7 kN
(3.61倍相当)プレファブ1 0.31 kN/mm 5.3 kN 8.9 kN
(1.81倍相当)プレファブ2 0.58 kN/mm 9.9 kN 16.5 kN
(3.36倍相当)基準水平耐力:建築基準法の耐震基準の目安となる変形1/200rad時の水平耐力とする
許容水平耐力:耐震壁などの耐震基準の目安となる水平耐力とする(壁倍率*5相当)
合成壁1:柱梁は中ボルト(強度区分4.8)による接合
合成壁2:柱梁は高力ボルト(F10T)による接合
鉄骨柱のみ:柱梁は高力ボルト(F10T)による接合
プレファブ1, 2:従来のプレファブ・システム建築による参考値
(1:ターンバックルブレースM12、2:ターンバックルブレースM16) -
合板と鋼管柱の接合工法の開発と構造性能に関する要素実験
ハイブリッド耐力壁の合板と鋼管柱を接合するための方法について、意匠性や収まり、プレファブ化のための加工性、運搬性、ならびに建築物の耐震性を考慮し、接合工法を考案しました(図4)。
ハイブリッド耐力壁が地震等水平力を受けた際の力学状態に基づき、構造性能に関する実験を実施しました(図5)。実験結果ならびに接合工法の加工・生産性やコストなどを勘案し、製品化のための工法を決定しました。
-
モデルルームの設計・建設と施工試験
実建物にハイブリッド耐力壁を実装するための具体的な方法や、設計法・施工法の確立、加工・生産体制の検証などのため、モデルルームを設計・建設しました(表1、図6)。ハイブリッド耐力壁はプレファブ化し、工場で製作して現場に運搬しました(図7)。なお、鉄骨建方は、通常のプレファブ・システム建築の体制によって、実施することができました。また、作業能率測定指針に基づき、工事の様子を記録し、生産性の分析を進めています。
以上の施工試験より、実建物にハイブリッド耐力壁を実装するために必要な項目、すなわち、構法・工法と設計法の確立と有効性、部材の供給と施工・生産体制の整備、コスト試算に関して、課題の抽出と今後の課題を整理することができました。
(a) 定点写真
図7 ハイブリッド耐力壁のプレファブ化と工場での製作の様子
なお、このモデルルームは、(株)内藤ハウス本社(山梨県韮崎市)に常設しており、見学が可能です。
今後の展望
- 「令和元年度次世代イノベーション創出プロジェクト2020助成事業」(助成期間:2020年度~2022年度)の終了後、引き続き、工法の開発・確立、耐震性の検証と設計法の確立、施工性・生産性の検証を進めます。
- 一般公開中のモデルルームを運用・管理し、使用性や耐久性などの検証を進めます。
- 木と鉄骨による新しいハイブリッド構造システムとして、高い安全性と信頼性の構造システムとして利用することができます。
- 保有水平耐力計算*7による構造設計法を確立します。これにより、設計自由度の高いプレファブ・システム建築を実現します。
参考
- 東京都、令和元年度次世代イノベーション創出プロジェクト2020助成事業(ウェブサイト):https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/02/06/12.html, 2020年2月6日
- 前回プレスリリース:https://www.tus.ac.jp/today/archive/20220117_8221.html
- HP:https://www.naitohouse.co.jp/news/220217
用語
1・・・システム建築:建物の部材の形状や寸法などを標準化し、建築生産プロセスをシステム化した建築物。
2・・・プレファブ建築:工場で柱、梁、床、壁などによる構造体を作り、建築現場では構造体を組み立てることで建設される建築物。
3・・・軽量鉄骨:板厚が小さな鉄骨(厚さ6mm未満)による柱や梁などの部材、また、これらの部材を使用した構造物を軽量鉄骨造と呼ぶ。
4・・・水平剛性:地震等水平荷重に対する変形のしにくさ。設計荷重に対して建物の変形制限が定められている。
5・・・壁倍率:建築基準法で定められている耐力壁の強さ。
6・・・落とし込み工法:壁やパネルなどの部材を溝に落とし込む工法。
7・・・保有水平耐力計算:建築物の用途や規模、構造により、構造計算方法が異なる。そのうち、大地震時に建築物が崩壊・倒壊しないことを確認するための方法が、保有水平耐力計算である。
本研究内容に関するお問合せ先
<研究開発に関すること>
東京理科大学 工学部 建築学科 教授 伊藤拓海
Tel: 03-3609-7367(FAX共用)
e-mail:t-ito【@】rs.tus.ac.jp
(株)内藤ハウス 商品開発室
Tel:03-3263-1785 FAX:03-3263-1733
e-mail:info【@】naitohouse.co.jp
<報道に関すること>
東京理科大学 経営企画部広報課
Tel:03-5228-8107 FAX:03-3260-5823
e-mail:koho【@】admin.tus.ac.jp
<モデルルームの見学・商品に関すること>
(株)内藤ハウス 各事務所
https://www.naitohouse.co.jp/company
【@】は@にご変更ください。
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