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木の温もりを感じるプレハブ・システム建築の新工法とデザインを開発しました
~高い耐震安全性を備え、デザイン性と生産性に優れた建築構造システムの提案~
研究の要旨
東京理科大学工学部建築学科伊藤拓海教授、森健士郎助教、大学院生・片岡春香は、㈱内藤ハウス(本社:山梨県韮崎市、代表取締役社長:内藤 篤)と共同し、プレハブ・システム建築に対して、新たな付加価値(デザイン性、設計自由度)をもたらし、耐震性に優れた建築構造システムを開発しています。この構造システムは、鉄骨柱を合板ではさみ込んだハイブリッド耐力壁であり、プレハブ・システム建築に組み込みます。㈱内藤ハウスのシステム建築の特徴、すなわち、落とし込み工法による生産システムを継承し、生産性・施工性にも優れた構造システムです。耐震実験の結果より、高い耐震性を有していることを実証しました。さらに、五十嵐冬人建築設計事務所と協力して、意匠性、施工性、耐震性に優れた次世代型建物をデザインしました。
研究の背景
プレハブ・システム建築*1, 2は、短工期、低コスト、長寿命化を実現することができます。近年、事業サイクルは高速化し、持続可能性が重視されている中で、その需要は高まっています。また、工程の省略化により、建設業界の技能者不足をカバーできます。しかし、軽量鉄骨工法*3とブレースによる構造であるため、耐震性の確保のために多くの壁を用いる必要があります。これにより、建物としての平面計画や、意匠性、開放性が制限されることになります。また、プレハブ・システム建築は、仮設建築のイメージを抱かせることもあります。
木材を使った建築物は、鉄骨やコンクリートの建築物と比較して環境負荷が少なく、森林・国土の整備と保全、また炭素の固定化などにより、地球環境にやさしい建物として期待されています。特に、東京2020オリンピック・パラリンピックの施設建物や開会式・閉会式などの各種イベントにおいて、日本各地の木材を取り寄せて、積極的に利用されました。木造は、地産地消の建物でもあります。また、自然素材の木ならではの温もりや香り、感触、色合い、風合いなど、居心地の良い居住環境を提供します。少子高齢化や建物の長寿命化、地球環境問題や資源問題などを受けて、日本の建物の新築着工数は減少していますが、その中で、木造住宅のニーズは年々増え続けています。一方、東日本大震災において、木造建物は地震・津波による甚大な被害を受け、構造安全性が十分でないこともあります。自然素材による材料特性のばらつきにより、構造が過剰となり、不均一性・異方性に配慮した設計・建設が必要となります。また、年々、大工数が減少し、高度な技術が継承できないことがあります。
そこで、プレハブ・システム建築と木造建築の高いニーズに対して、これらを掛け合わせることで、新たな付加価値を持った建築構造システムを開発しています。プレハブ・システム建築と合板のハイブリッド構造とすることで、それぞれのメリットを引き立て、デメリットを補完することができます。
なお、東京都および(公財)東京都中小企業振興公社による研究開発助成「令和元年度次世代イノベーション創出プロジェクト2020助成事業」(助成期間:2020年度~2022年度)の支援対象プロジェクトに㈱内藤ハウスが採択され、技術・製品開発の支援をいただいています。(研究開発テーマ:意匠性を高める耐力壁を用いたシステム建築の開発)
この建築構造システムは、SDGs11「住み続けられるまちづくりを」、SDGs15「陸の豊かさも守ろう」に貢献します。
研究成果の概要
本研究は、内藤ハウスのプレハブ・システム建築に、鉄骨柱と合板によるハイブリッド耐力壁を組み込むための工法を開発しました(図1)。


具体的な研究開発項目は、1) ハイブリッド耐力壁の耐震性の検証、2) プレハブ・システム建築における必要壁構面数との比較、3) 生産性と施工性の検証、さらに、4) 新デザインを開発します。
1) 耐震実験により、鉄骨と合板の合成効果により、高い耐震性が確認されました(表1)。すなわち、鉄骨柱単体と比較して、合板でサンドイッチすることで、効果的な耐震機構が発現します(図2)。これにより、鉄骨柱と合板による相乗効果*5が得られます。耐震強度の目安として、構成や組み合わせにより、壁倍率*6は7.9~14.6倍となりました。(ただし、低減係数は1.0)
システム | プレハブ (現状) |
鉄骨柱 (参考) |
はさみ込み | 落とし込み | |
---|---|---|---|---|---|
外合板 | 内合板 | ||||
基準強度 | 11.2kN ~20.7kN |
(降伏)34.9kN ~36.5kN |
12.6kN ~15.4kN |
20.0kN ~24.3kN |
16.3kN ~19.3kN |
壁倍率 | - | - | 6.4~6.6倍 | 12.0~14.6倍 | 7.9~9.4倍 |
最大耐力 | - | 87.6kN ~90.2kN |
70.0kN ~72.2kN |
70.4kN ~107.8kN |
86.7kN ~101.2kN |
注意:プレハブ建築は㈱内藤ハウスの仕様の構造計算の結果、その他は実験結果

2) 内藤ハウスの従来のプレハブ・システム建築の標準プランに対し、このハイブリッド耐力壁を使用した場合、壁構面数を60~80%に削減することができます。そのため、自由な平面プランとなり、多くの開口を設けることで、開放性のある建物になります。
3) 施工試験により、ハイブリッド耐力壁の設置にあたり、鉄骨柱の工数が占める割合が多いことが明らかとなりました。そこで、この部分をプレハブ化することで、従来の落とし込み工法と同等の生産性が見込まれます。
4) 以上より、落とし込み工法による新工法と建物デザインを考案しました(図3)。



図3 ハイブリッド耐力壁を使った建物デザイン
今後の展望
・「令和元年度次世代イノベーション創出プロジェクト2020助成事業」(助成期間:2020年度~2022年度)による研究開発を継続し、工法の開発・確立、耐震性の検証、耐震設計法の確立、施工性・生産性の検証を進めます。
・㈱内藤ハウスのプレハブ・システム建築にハイブリッド耐力壁を組み込んだモデル建物を設計し、2022年度秋にモデルルームを建設する予定です。
・2022年度以降、建材・住設EXPOへの出展を予定しています。
・新デザイン3案を商品化して体制(販売、設計、建設)を整え、2023年度以降の発売を目指します。
参考
東京都、令和元年度次世代イノベーション創出プロジェクト2020助成事業(ウェブサイト):https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/02/06/12.html, 2020年2月6日
用語
1・・・システム建築:建物の部材の形状や寸法などを標準化し、建築生産プロセスをシステム化した建築物。
2・・・プレハブ建築:工場で柱、梁、床、壁などによる構造体を作り、建築現場では構造体を組み立てることで建設される建築物。
3・・・軽量鉄骨:板厚が小さな鉄骨(厚さ6mm以下)による柱や梁などの部材、また、これらの部材を使用した構造物を軽量鉄骨造と呼ぶ。
4・・・落とし込み工法:壁やパネルなどの部材を溝に落とし込む工法。
5・・・相乗効果:複数の構造要素が組み合わさることで、単体の性能の足し合わせよりも大きな性能が得られること。単体の足し合わせの場合は相加効果。
6・・・壁倍率:壁の強度の基準値。例えば、1.5cm x 9.0cmの木材筋交いは1.0倍、4.5cm x 9.0cmの木造筋交いは2.0倍、9.0cm x 9.0cmの木造筋交いは3.0倍、構造用合板(ビス止め)は2.5倍、など。
本研究内容に関するお問合せ先
<研究開発に関すること>
東京理科大学 工学部 建築学科 教授 伊藤拓海
Tel:03-3609-7367(FAX共用)
e-mail:t-ito【@】rs.tus.ac.jp
㈱内藤ハウス 商品開発室
Tel:03-3263-1785 FAX:03-3263-1733
e-mail:info【@】naitohouse.co.jp
<報道に関すること>
東京理科大学 広報部 広報課
Tel:03-5228-8107 FAX:03-3260-5823
e-mail:koho【@】admin.tus.ac.jp
【@】は@にご変更ください。
伊藤研究室
研究室のページ:https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/tito-lab/
伊藤教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?&kin=nav&diu=5d63
森助教のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?7074
東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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