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2022.07.22 Fri UP

ユニークな酸化還元特性と整流作用を示すヘテロ積層体のワンポット合成法を開発
~液液界面反応を利用して複数の異なる層を段階的に積層~

研究の要旨とポイント

  • 金属イオンを含む水溶液と配位子を含むジクロロメタン溶液の界面を利用したヘテロ積層膜の合成および2段階の工程から成るワンポット合成法の確立に成功しました。
  • ヘテロ積層膜の成長方向を明らかにし、得られた構造体が特徴的な酸化還元特性、電気伝導性を示すことを実証しました。
  • 本研究をさらに発展させることで、薄膜状で優れた機能を有する電子・電池材料、触媒材料への応用が期待されます。

東京理科大学研究推進機構総合研究院の西原寛教授、米田丈氏(研究当時、現カールスルーエ工科大学博士課程在籍)、髙田健司助教、前田啓明助教、福居直哉助教らの研究グループは、テルピリジンを配位子とする鉄錯体(Fe-tpy)とコバルト錯体(Co-tpy)から成るヘテロ積層膜(※1)を、水とジクロロメタン界面で容易に作製できる手法の開発に成功しました。また、ヘテロ積層膜の第2層がすでに形成された第1層の下層(ジクロロメタン側)に成長するという興味深い現象を発見しました。さらに、作製したヘテロ積層体の酸化還元特性や電気伝導性を評価し、第2層が基板と第1層間の電荷移動を媒介する機能を持つこと、Co-tpy層からFe-tpy層方向への安定した整流作用を示すことを見出しました。本研究成果により、分子二次元材料における構造や機能の多様性が拡大され、電子、電池、触媒分野における材料開発の促進が期待されます。

ヘテロ積層体は、電界効果トランジスタや太陽電池、発光ダイオードなどのさまざまな電子デバイスに応用されています。そのため、新たなヘテロ積層体をより簡便で効率よく合成する手法が模索されてきました。そこで、本研究グループは2段階という少ない工程をワンポットで行える合成法の確立を目的とし、研究を推進してきました。

第1段階の反応では、下層にテルピリジン配位子を含むジクロロメタン溶液、上層に金属イオン(Fe2+またはCo2+)を含む水溶液を積層して接触させ、これらの界面に単一の金属錯体から構成された二次元配位ナノシートを作製しました。第2段階の反応では、上層を第1段階と異なる金属イオンの水溶液に入れ替えて静置することにより、第1層の表面に新たな金属錯体層を形成し、ヘテロ積層膜を得ました。さらに、溶媒を除去して、容器の底に設置したシリコンウェハーやFTO(フッ素ドープ酸化スズ)などの基板とヘテロ積層膜を接触させることで、ヘテロ積層体を作製しました。このヘテロ積層体を分析すると、基板と接触していない第1層と基板間の電荷移動を第2層が仲介するという特異的な酸化還元特性を持つことやダイオードのような整流作用を示すことが明らかになりました。本研究をさらに発展させることで、薄膜形状を活かした新たな電子材料開発が期待されます。

本研究成果は、2022年6月13日に国際学術誌「Chemistry-A European Journal」にオンライン掲載されました。また、掲載誌のカバーピクチャー(図1)にも選出されており、世界中から高い注目を集めています。

ユニークな酸化還元特性と整流作用を示すヘテロ積層体のワンポット合成法を開発~液液界面反応を利用して複数の異なる層を段階的に積層~

図1 ヘテロ積層膜の成長イメージ
(Chemistry-A European Journalの表紙に掲載)

研究の背景

本研究グループは、今までに金属錯体を用いた二次元配位ナノシートに関する研究を数多く行ってきました。例えば、ベンゼンヘキサチオール(BHT)を配位子とした錯体において、単一もしくは複数の金属種を導入した二次元配位ナノシートを作製し、その構造と物性との相関性を明らかにしてきました(*1、*2)。特に、異なる金属種を組み合わせたヘテロ構造体はユニークな物性を示すため、その点に注目して研究を継続してきました。

今回、本研究グループはビス(テルピリジン)鉄(II)錯体(Fe-tpy)とビス(テルピリジン)コバルト(II)錯体(Co-tpy)を組み合わせたヘテロ積層体を設計しました。これらの錯体を選択した理由としては、解離速度定数が小さく、金属交換反応が起きにくいので、膜を段階的に構築するのに適していることが挙げられます。以上の背景を踏まえ、本研究では、ヘテロ構造体を段階的にかつ簡便に合成する方法の開発に挑戦しました。また、作製したヘテロ積層体において、酸化還元特性、電気的特性の観点から解析し、物性評価を行いました。

(過去のプレスリリース)

*1: 「高い安定性を長期間維持する有機―無機複合ナノシートのボトムアップ合成法を開発~電源のいらない受光センサーなど、オプトエレクトロニクス分野への応用に期待~」
URL: https://www.tus.ac.jp/today/archive/20210715_5103.html

*2: 「高い結晶性と電気伝導性を有する『ヘテロ金属配位ナノシート』の合成に成功~新たな二次元電子材料、電池材料開発への貢献に期待~」
URL: https://www.tus.ac.jp/today/archive/20220221_3876.html

研究結果の詳細

まず、以下の2段階合成法により、目的のヘテロ積層体(Fe/Co-tpy, Co/Fe-tpy)を作製しました。

<第1段階>:
トリス(テルピリジン)配位子を含むジクロロメタン溶液を下層に、金属イオン(Fe2+またはCo2+)を含む水溶液を上層に積層して接触させ、その界面に単一金属種から成るビス(テルピリジン)金属錯体の二次元配位ナノシート(第1層)を作製しました。

<第2段階>:
上層を純水と交換した後、第1段階と異なる金属イオン(Fe2+またはCo2+)を含む水溶液を上層に加えて静置することで、第1層の表面に新たな層(第2層)を積層し、ヘテロ積層膜を得ました。さらに溶媒を除去して、容器の底に設置したシリコンウェハーやFTOなどの基板と接触させることでヘテロ積層体を作製しました。

本手法は、水と有機溶媒を接触させることで形成される界面と各溶媒に対する化合物の溶解度を利用した化学反応であり、工程が少なく、非常に簡便であることが特徴です。

次に、走査型透過電子顕微鏡(STEM-EDSなど、※2)を用いた表面分析法により、得られたヘテロ積層膜の構造を明らかにしました。その結果、第2層は第1層に対して、金属イオンが豊富に存在する水溶液側ではなく、ジクロロメタン溶液側で成長することがわかりました。これは、金属イオンが水とジクロロメタン界面にある第1層を通過してから錯形成することを意味しており、イオン性錯体の高い親水性が影響していると推測されています。

さらに、ヘテロ積層体の酸化還元特性について、サイクリックボルタンメトリー(※3)を用いて、評価しました。その結果、Fe/Co-tpyにおいては、下層のCo-tpyの酸化還元ピークは単一の配位ナノシートの場合とほとんど一致していましたが、上層のFe-tpyの[Fe(tpy)2]3+/2+に対応する酸化還元ピークが消失することがわかりました。一方で、[Fe(tpy)2]2+/+に対応する酸化還元ピークは確認できたため、下層のCo-tpyが導電性になる電位では、FTO基板と上層Fe-tpyの電荷移動が媒介されたことが示唆されました。また、Co/Fe-tpyでも同様の結果が得られました。

最後に、これらの整流作用の詳細を明らかにするために、ヘテロ積層膜をGa/In合金電極とITO電極で挟み込むことで、積層方向についての電気伝導性を測定しました。その結果、Fe/Co-tpyでは正の電圧で約1.8Vより大きく、Co/Fe-tpyでは負の電圧で約-1.2Vより小さくすると、電流が流れることがわかりました。これは、ヘテロ積層膜がダイオードのような整流作用を有することを示しており、Co-tpyからFe-tpyの方向にのみ電流が流れることを実証しました。

本研究の成果について、研究を主導した西原教授は「優れた酸化還元特性、エレクトロクロミック特性、電子物性を示すヘテロ積層体は、極薄の電子部品や表示素子などに応用される可能性があります。これらはウェアラブルデバイスの実現に必要であり、未来の私たちの生活がより豊かになることが期待されます」と話しています。

※本研究は以下の助成を受けて実施されました。

・科学技術振興機構 CREST; JST-CREST JPMJCR15F2

・日本学術振興会 科研費特別推進研究; JSPS KAKENHI Grant Number 19H05460

・ホワイトロック財団; White Rock Foundation

用語

※1 ヘテロ積層膜: 複数の異なる化合物がそれぞれ二次元的な層構造を形成し、それが垂直方向に積層することによって得られる薄膜。本研究では、鉄錯体層、コバルト錯体層による二層膜(ヘテロ積層膜)の下層にシリコンウェハーやFTO(フッ素ドープ酸化スズ)などの基板を設置した構造(ヘテロ積層体)を採用している。

※2 走査型透過電子顕微鏡(STEM): 薄膜試料を透過した電子を検出して、その内部構造に関する情報を得る装置。細く絞った電子ビームで試料を走査するのが特徴。

※3 サイクリックボルタンメトリー: 電極電位を正または負の方向に掃引し、流れる電流を測定する電気化学分析法。物質の酸化還元特性や反応速度などに関する情報を得ることができる。

論文情報

雑誌名

Chemistry-A European Journal

論文タイトル

Chemically Laminated 2D Bis(terpyridine)metal Polymer Films: Formation Mechanism at the Liquid-Liquid Interface and Redox Rectification

著者

Joe Komeda, Kenji Takada, Hiroaki Maeda, Naoya Fukui, Takuya Tsuji, and Hiroshi Nishihara

DOI

10.1002/chem.202201316

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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