ニュース&イベント NEWS & EVENTS

2022.02.21 Mon UP

高い結晶性と電気伝導性を有する『ヘテロ金属配位ナノシート』の合成に成功
~新たな二次元電子材料、電池材料開発への貢献に期待~

研究の要旨とポイント

  • ベンゼンヘキサチオール(BHT)を原料とする配位ナノシートは、導入する金属の種類によって結晶構造が大きく変化するため、その構造と性質について注目されてきました。
  • 異なる2つの金属(NiとCu)を含む『ヘテロ金属配位ナノシート』をボトムアップ法により合成することに成功しました。
  • 新規構造相であるNiCu2BHTが高結晶化度を有し、従来よりも優れた電気伝導性を示すことを明らかにしました。
  • 本研究を発展させることで、高機能性の電子材料、電池材料開発への貢献が期待されます。

東京理科大学研究推進機構総合研究院の西原寛教授、福居直哉助教、豊田良順博士(研究当時、現:フローニンゲン大学 博士研究員)、ケンブリッジ大学のHenning Sirringhaus教授、京都工芸繊維大学の佐々木園教授らの研究グループは、金属イオンと有機配位子であるベンゼンヘキサチオール(BHT)を原料とした配位ナノシートに関して、NiとCuの2種類の異なる金属から成る『ヘテロ金属配位ナノシート(NixCu1-x/BHT)』(※1)の合成に成功しました。また、NiとCuの混合比を系統的に変化させることにより、新規構造相であるNiCu2BHTが優先して形成されることを発見しました。さらに、このNiCu2BHTについて、Ni3BHTやCu3BHTなどのホモ金属配位ナノシート(※2)よりも高い結晶化度、高い電気伝導性を示すことを実証しました。本研究をさらに発展させることで、優れた性能を有する電子材料、電池材料開発への貢献が期待されます。

配位ナノシートとは、金属錯体から構成される二次元物質です。金属錯体は金属イオンと有機配位子から成り、様々な原料を組み合わせてつくることができるので、その組み合わせと完成した配位ナノシートの特性との相関性について注目されてきました。今日までに様々な配位ナノシートが報告されていますが、従来のホモ金属配位ナノシートでは結晶性が低く、優れた電気伝導性を得られないことが課題でした。
そこで、本研究グループは新たに複数の異種金属を導入した混合系の配位ナノシートに焦点を当て、研究を進めてきました。様々な検討の結果、下層にBHTを含むジクロロメタン溶液、上層にNiとCuを含む水溶液を用いるボトムアップ型の合成法により、黒色のヘテロ金属配位ナノシートを得ることに成功しました。そして、合成したヘテロ金属配位ナノシートの結晶構造を種々の分析法により明らかにし、NiとCuの組成比が1 : 2であるNiCu2BHTが優先的に形成されること、ホモ金属配位ナノシートに比べて結晶性が大幅に向上していることを発見しました。さらに、結晶性の向上に伴い、電気伝導性が最大で1300S/cmまで向上したことを実証しました。
本研究で開発されたヘテロ金属配位ナノシートは、優れた機能性を有する電子材料や電池材料開発への貢献が期待でき、エレクトロニクス分野での幅広い応用の可能性が示唆されました。
本研究成果は、2022年1月18日に国際学術誌「Advanced Materials」にオンライン掲載されました。

高い結晶性と電気伝導性を有する『ヘテロ金属配位ナノシート』の合成に成功~新たな二次元電子材料、電池材料開発への貢献に期待~

研究の背景

有機配位子の1つであるBHTは、ベンゼン環に6つのチオール基が結合した単純な分子構造であるにも関わらず、金属イオンとの反応でπ共役系が広がった平面性の高い結晶構造を形成することができるため、優れた電気伝導性を示すことが知られています。また、導入する金属イオンの種類によって、多様な結晶構造を形成することも可能であり、結晶構造と物性の相関性を探る上で興味深い材料です。
一方で、BHTから成る配位ナノシートの多くはボトムアップ型の合成法により、結晶化度が低下し、期待される物性が得られないことが課題でした。そこで、本研究グループは、異なる複数の金属を導入するという従来と異なるアプローチ法を適用することにより、優れた結晶性を有する配位ナノシートの作製に挑戦しました。使用する金属としては、NiとCuを選択しました。その理由として、NiとCuはイオン半径の大きさがほとんど同じであり、結晶格子内での置換が期待されることが挙げられます。さらに、NiとCuの混合比を系統的に変化させることによって、含有金属の組成比が変化するか、結晶性に違いが現れるかなどについても、細かく検討しました。

研究結果の詳細

最初に、ホモ金属配位ナノシートNi3BHT とCu3BHTを合成し、これらの結晶構造の分析を行いました。その結果、2つの結晶構造が類似していることが明らかとなりました。これにより、NiとCuを混合した場合、互いに置換することによって、NiとCuが共存する結晶構造が得られる可能性が示唆されました。この結果を踏まえて、本研究チームはヘテロ金属配位ナノシート(NixCu1-x/BHT)の合成に取り組みました。具体的には、酢酸ニッケル水溶液、酢酸銅水溶液を別々に調製した後、それらを様々な体積比で混合することで、NiとCuが混在する水溶液を調製しました。そして、BHTを溶解させたジクロロメタン溶液を下層に、2種の金属を混合した水溶液を上層にして静置するボトムアップ合成法により、2層の界面にヘテロ金属配位ナノシートを生成させることに成功しました。
次に、各種構造解析により、得られたNixCu1-x/BHTの結晶構造を明らかにしていきました。その結果、Ni0.4Cu0.6BHTの組成比で混合したヘテロ金属配位ナノシートが最も高い結晶性を有することが示唆されました。また、各種元素分析により、実際の金属の組成比がNi : Cu = 1 : 2であり、化学量論的にNiCu2BHTと表すことができると結論付けました。一方で、NiまたはCuの添加量が少ない場合、格子内でのお互いの置換が行われないため、ヘテロ金属配位ナノシートが形成されにくくなることがわかりました。
さらに、NixCu1-x/BHTの電気伝導性について調査しました。その結果、サンプル間での値のばらつきは大きいものの、高結晶化度を有するNiCu2BHT において1300S/cmという高い電気伝導性を示すことが明らかとなりました。また、NiCu2BHTの活性化エネルギーの値から、金属に近いふるまいを示すことも判明しました。サンプル間での値のばらつきの原因は、シート表面のひび割れ、構造欠陥、表面粗さなどが影響している可能性が示唆されました。Niが多い場合、表面のひび割れなどが顕著に見られ、優れた伝導性は得られませんでしたが、Cuが多い場合は比較的滑らかな表面が形成されやすいこともわかりました。
最後に、材料の電気特性に対する理解をより深めるために、ゼーベック係数(※3)の測定を行いました。すべてのヘテロ金属配位ナノシートにおいて、正のゼーベック係数が得られたため、主に正孔がキャリアとなるp型であることがわかりました。過去の研究から、Cu3BHTは電子がキャリアとなるn型であることが報告されているので、金属の構成比によりp型とn型の転換点があることが示唆されました。
本研究の成果について、東京理科大学の西原教授は「導電性の配位ナノシートにおいては、高結晶化度がその鍵を握っています。本研究で、ヘテロ金属配位ナノシートがその鍵を開ける新しいアプローチであることを示すことができたので、今後様々な応用展開につながることが期待されます」と話しています。

※本研究は以下の助成金を受けて実施したものです。

・科学技術振興機構 CREST; JST-CREST JPMJCR15F2

・日本学術振興会 科研費特別推進研究; JSPS KAKENHI Grant Number 19H05460

・日本学術振興会 拠点形成プログラム; EPSRC-JSPS core-to-core program (EP/S030662/1, JPJSCCA20190005)

・ホワイトロック財団; White Rock Foundation

用語

※1 ヘテロ金属配位ナノシート: 複数の異なる金属元素を含有する配位ナノシートのこと。

※2 ホモ金属配位ナノシート: 単一の金属元素を含有する配位ナノシートのこと。

※3 ゼーベック係数(Seebeck coefficient): 物質に温度差をつけると、正孔や電子などのキャリア濃度にも差が生じ、試料の両端で電位差が生じる。これをゼーベック効果といい、その係数をゼーベック係数という。

論文情報

雑誌名

Advanced Materials

論文タイトル

Heterometallic Benzenehexathiolato Coordination Nanosheets: Periodic Structure Improves Crystallinity and Electrical Conductivity

著者

Ryojun Toyoda, Naoya Fukui, Dionisius H. L. Tjhe, Ekaterina Selezneva, Hiroaki Maeda, Cédric Bourgès, Choon Meng Tan, Kenji Takada, Yuanhui Sun, Ian Jacobs, Kazuhide Kamiya, Hiroyasu Masunaga, Takao Mori, Sono Sasaki, Henning Sirringhaus, Hiroshi Nishihara

DOI

10.1002/adma.202106204

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
詳しくはこちら

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。