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2024.11.26 Tue UP

金属材料WSi₂の横型熱電変換を実証
~次世代センサ技術の進展に大きく貢献~

東京理科大学
埼玉大学

研究の要旨とポイント

  • 横型熱電変換は、温度や熱流を計測可能なセンサの新たな基幹技術として注目されていますが、この特性を有する物質の報告例は少なく、新たな材料が模索されています。
  • 本研究では、金属材料WSi2が横方向の熱電効果を示すことを実証し、実験と計算的手法を駆使して、そのメカニズムを解明しました。
  • 本研究をさらに発展させることにより、次世代センサの設計や新たな横型熱電変換材料の発見につながることが期待されます。

研究の概要

東京理科大学大学院 創域理工学研究科 先端物理学専攻の大隅 翔也大学院生(2024年度 修士課程1年)、東京理科大学 創域理工学部 先端物理学科の岡崎 竜二准教授、埼玉大学大学院 理工学研究科 物質科学部門の佐藤 芳樹助教(研究当時: 東京理科大学 創域理工学部 先端物理学科 助教)の共同研究グループは、金属材料であるWSi2単結晶の横型熱電変換を実証しました。また、実験と計算手法により、そのメカニズムを明らかにしました。

横型熱電変換は、物質の温度差と直交する方向に電位差が発生する現象であり、従来とは異なる新たな熱電変換素子への応用が期待されています。しかしながら、そのような特性を示す材料はほとんどなく、得られる熱電性能も低いことが課題となっています。

本研究グループは、WSi2単結晶を作製し、結晶軸から 45°回転させた方向に温度差を適用することで横型熱電変換を実証しました。得られた熱電性能は室温で6μV/Kで、この値は現在、横型熱電変換材料の主流となっているトポロジカル磁性体に匹敵します。したがって、本研究成果はWSi2が横型熱電変換における有望な候補材料であることを示唆しています。

本研究成果は、2024年11月13日に国際学術誌「PRX Energy」(オープンアクセス誌)にオンライン掲載されました。

金属材料WSi2の横型熱電変換を実証~次世代センサ技術の進展に大きく貢献~

図1縦型熱電素子と横型熱電素子の比較
(左)従来型の縦型熱電素子 (右)本研究対象の横型熱電素子

金属材料WSi2の横型熱電変換を実証~次世代センサ技術の進展に大きく貢献~

図2横型熱電メカニズムの比較
(左) ネルンスト効果の模式図(外部磁場必要) (右) 軸依存伝導極性の模式図(外部磁場不必要)

研究の背景

熱電変換とは、熱エネルギーを電気エネルギーに、あるいは電気エネルギーを熱エネルギーに変換する技術です。熱電素子の温度勾配を利用して電力を発生させる現象をゼーベック効果、熱電素子に電流を流すと、一方の面で吸熱、他方の面で発熱が起こる現象をペルチェ効果といいます。ペルチェ効果については、冷却装置などに応用されて広く普及していますが、ゼーベック効果については、変換効率が低く、現時点ではまだ広く使用されていません。

従来のゼーベック効果を利用した熱電変換は縦型が主流であり、材料の温度勾配に平行な方向に電流が発生します(図1左)。優れた熱電性能を示す材料は数多く発見されていますが、素子化した際のエネルギー変換効率、耐久性、コスト面での課題が依然として残っています。一方、横型の熱電変換は、温度勾配に直交する方向に電力を発生させることができるため、素子構造の複雑性や接合部での熱損失といった課題の解決が期待されています(図1右)。これまでに、物質のネルンスト効果(*1)を利用した横型熱電変換の研究が進められてきましたが(図2左)、ネルンスト効果を利用するためには、素子に外部磁場を加える必要がありました。そのため、外部磁場なしで作動する、軸依存伝導極性(*2)をもつ物質を活用した横型熱電変換技術(図2右)が近年注目されています。しかしながら、このような特性を持つ材料は非常に少なく、得られる熱電性能も低いため、新たな材料の探索と熱電性能の向上を目指した研究が推進されています。

本研究グループは、過去に、希土類化合物LaPt2B単結晶を作製し、横型熱電効果を示すことを実証しています(※1)。今回は、横型熱電変換が期待される金属材料WSi2に焦点を当て、その特性の評価を行いました。

※1:東京理科大学プレスリリース(2024年5月27日)
「金属の顔とも呼ばれるフェルミ面の次元性を利用した巨大な横熱電変換 ―室温・ゼロ磁場下で横熱電変換が可能で廃エネルギーの効率的な再利用に期待―」

研究結果の詳細

空間群I4/mmmの正方晶構造を持つWSi2単結晶を用いて、室温以下の温度域でゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導率を測定しました。その結果、面内方向のゼーベック係数は正、面外方向のゼーベック係数は負という軸依存伝導極性を示すことがわかりました。

金属材料WSi2の横型熱電変換を実証~次世代センサ技術の進展に大きく貢献~

図3 WSi2のフェルミ面

また、熱電性能測定と第一原理計算(*3)の結果、c軸方向には円筒形の正孔フェルミ面(*4)が伸びて、ab軸方向の伝導を支配しており、c軸に直交する方向には大きな面積の電子フェルミ面が広がり、c軸方向の伝導に寄与していることがわかりました(図3)。このことから、WSi2が一次元的な電子フェルミ面と二次元的な正孔フェルミ面を併せ持つことで、軸依存伝導極性を示すことが明らかとなりました。

金属材料WSi2の横型熱電変換を実証~次世代センサ技術の進展に大きく貢献~

図4(左) 熱流と平行方向および直交方向の温度差
図4(右) 熱流と平行方向および直交方向の電位差

金属材料WSi2の横型熱電変換を実証~次世代センサ技術の進展に大きく貢献~

図5 無次元性能指数の比較

さらに、WSi2の結晶軸から45°回転した方向に温度勾配をかけた際の熱電性能を評価しました(図4)。その結果、横方向のゼーベック係数は室温で6μV/Kに達し、ゼロ磁場および広い温度範囲で優れた性能を示すことが確認されました。また、無次元性能指数(*5)は100 K以上で約0.001となり(図5)、従来の熱電材料よりも低いものの、得られた成果は横型熱電材料の深い理解につながるものと考えられます。

本研究の結果は、軸依存伝導極性材料の探索を加速し、横型熱電変換の実現を促進するための指針となることが期待されます。

本研究に中心となって取り組んだ東京理科大学の大隅 翔也大学院生は、「2023年に先行研究として、アメリカのオハイオ州立大学の研究グループがWSi2の横型熱電の可能性について報告していましたが、その実証には至っておりませんでした。今回、その実証実験が必要であると感じ、本研究に取り組みました。本研究成果をもとに、新たなセンサの開発や新規横型熱電物質の発見につなげていければと考えています」と、成果についてコメントしています。

研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(22K20360, 22H01166, 24K06945)、中部電気利用基礎研究振興財団(REFEC, R-04102)の助成を受けて実施されたものです。

用語

*1 ネルンスト効果
物質に加えた温度勾配および磁場(もしくは磁化)に対して直交方向に電圧が生じる現象。

*2 軸依存伝導極性
異なる結晶軸の向きに対してゼーベック係数やホール係数などの極性が反転する現象。

*3 第一原理計算
量子力学に基づき、コンピュータを使って物質の電子状態を計算し、性質を調べる手法。

*4 フェルミ面
物質中の電子が存在できるエネルギーの上限(フェルミエネルギー)を示した波数空間上の曲面。電気伝導性や磁気的性質などを理解する際に用いられる。

*5 無次元性能指数
熱電材料の性能を表す指標で、ゼーベック係数、電気伝導度、熱伝導率および温度から評価される。ゼーベック係数や電気伝導率が大きい場合、もしくは熱伝導率が小さい場合に性能指数は大きくなる。

論文情報

雑誌名

PRX Energy

論文タイトル

Transverse thermoelectric conversion in the mixed-dimensional semimetal WSi2

著者

Shoya Ohsumi, Yoshiki J. Saito, and Ryuji Okazaki

DOI

10.1103/PRXEnergy.3.043007

発表者・研究者等情報

東京理科大学大学院 創域理工学研究科 先端物理学専攻
大隅 翔也 大学院生(2024年度 修士課程1年)

東京理科大学 創域理工学部 先端物理学科
岡崎 竜二 准教授

埼玉大学大学院 理工学研究科 物質科学部門
佐藤 芳樹 助教

東京理科大学について

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