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2024.05.27 Mon UP

金属の顔とも呼ばれるフェルミ面の次元性を利用した巨大な横熱電変換
―室温・ゼロ磁場下で横熱電変換が可能で廃エネルギーの効率的な再利用に期待―

国立大学法人埼玉大学
東京理科大学
国立大学法人東北大学

発表のポイント

  • 希土類化合物LaPt2Bの単結晶育成に成功し、『金属の顔』とも呼ばれるフェルミ面の次元性を利用した巨大な横熱電変換を実証しました。
  • フェルミ面の次元性を利用した横熱電変換材料は、ゼロ磁場かつ室温でも動作することから、持続可能な社会の実現に向けた、高効率なエネルギーの再利用につながることが期待されます。

概要

持続可能な社会の実現のためにエネルギーの効率的な利用法が求められる中、熱を電気に直接変換する熱電変換技術に注目が集まっています。

埼玉大学大学院理工学研究科の佐藤芳樹助教(研究当時:東京理科大学創域理工学部先端物理学科助教)、東京理科大学大学院創域理工学研究科先端物理学専攻の眞子日佳里大学院生、大隅翔也大学院生、岡崎竜二准教授、東北大学金属材料研究所の青木大教授の研究グループは、希土類化合物LaPt2Bの単結晶育成に成功し、『金属の顔』とも呼ばれるフェルミ面の次元性を利用した巨大な横熱電変換を実証しました。

本研究で示されたフェルミ面の次元性を利用した横熱電変換は、これまで主流であった磁性体を用いた横熱電変換の手法と異なり、ゼロ磁場かつ室温で動作します。そのため、持続可能な社会の実現に向けた、高効率なエネルギーの再利用につながることが期待されます。

本研究成果は、2024年5月9日(現地時間)に科学誌Nature Communicationsに掲載されました。

研究の背景

持続可能な社会の実現のためにはエネルギーを効率的に利用することが必要不可欠ですが、発電所や工場では多くのエネルギーが排熱として捨てられています。この排熱をエネルギーとして利用するために注目されている技術が、熱を電気に直接変換できる熱電変換技術です。

本研究では、熱電変換技術の中でも熱流に対して直交方向に電流を取り出す横熱電変換に着目しました(図1)。横型の熱電変換は、従来の熱電変換において課題であった複雑な構造を持つ点や接合部で熱損失が生じるといった点を解決する技術ですが、一方で熱電性能が低いことが横熱電素子の実用化を阻んできました。

金属の顔とも呼ばれるフェルミ面の次元性を利用した巨大な横熱電変換―室温・ゼロ磁場下で横熱電変換が可能で廃エネルギーの効率的な再利用に期待―

図1. (左図)従来の熱電変換の概念図。(右図)本研究で着目した横熱電変換の概念図。

研究内容

本研究グループは、右手と左手の関係に例えられるキラルな結晶構造をもつ希土類化合物LaPt2Bの特徴的な電子状態に着目し、ゼロ磁場・室温で動作する巨大な横熱電変換を実証しました。LaPt2Bは特徴的な結晶構造を反映して、一次元的なフェルミ面(用語1)と二次元的なフェルミ面を併せ持ちます(図2)。これらの次元性の異なるフェルミ面がそれぞれホール的・電子的な性質を示し、ゼーベック係数(用語2)の符号が二つの主要な結晶軸で反転すること(軸性依存伝導極性(用語3))をLaPt2Bの単結晶試料を用いた熱電能測定と第一原理計算(用語4)によって明らかにしました。(図2)。

金属の顔とも呼ばれるフェルミ面の次元性を利用した巨大な横熱電変換―室温・ゼロ磁場下で横熱電変換が可能で廃エネルギーの効率的な再利用に期待―

図2. (左図)一次元的なフェルミ面と二次元的なフェルミ面。(右図)二つの主要な結晶軸方向に温度差を与えた時のゼーベック係数の温度依存性。

LaPt2Bのようにゼーベック係数の符号が主要な結晶軸間で異なる場合、熱流の方向(温度差方向)を二つの主要な結晶軸から45度程度傾けたとき、熱流方向と垂直に電場が生じることが理論的に提唱されており、これまでいくつかの系で実験的な検証が進められてきました。本研究グループは、LaPt2B単結晶の主要な結晶軸からそれぞれ45度傾けた方向に温度差を与え、実際に温度差と垂直方向に電場が生じることを実証しました(図3)。観測された横熱電能は室温で10 μV/Kに達し、この値は、現在主流な横熱電変換材料の一つである、異常ネルンスト効果を示すトポロジカル磁性体の示す横熱電能に匹敵する大きさです。

金属の顔とも呼ばれるフェルミ面の次元性を利用した巨大な横熱電変換―室温・ゼロ磁場下で横熱電変換が可能で廃エネルギーの効率的な再利用に期待―

図3. (左図)横熱電能の測定系。(右図)横熱電能の温度依存性。

試料に温度差を与えた時に生じる電流の大きさの指標となるペルチェ伝導度(用語5)は、既知の横熱電変換材料と比較して、非常に大きな値を示します(図4左)。この大きなペルチェ伝導度は、LaPt2Bが金属の大きなフェルミ面に起因する高い電気伝導度と、次元性の異なるフェルミ面に起因する理想的な軸性依存伝導極性を示すためです。また、熱電材料の性能の評価に用いられる無次元性能指数(用語6)も広い温度範囲で高い値を示し(図4右)、本研究結果から、フェルミ面の次元性を利用した横熱電変換は、高性能な横熱電変換素子を開発する上で有望な手法であることが示されました。

金属の顔とも呼ばれるフェルミ面の次元性を利用した巨大な横熱電変換―室温・ゼロ磁場下で横熱電変換が可能で廃エネルギーの効率的な再利用に期待―

図4. (左図)ペルチェ伝導度の温度依存性の比較。(右図)無次元性能指数の温度依存性の比較。

今後の展開

本研究で示されたフェルミ面の次元性を利用した横熱電変換は、これまで主流であった磁性体を用いた横熱電変換の手法と異なり、ゼロ磁場かつ室温で動作します。そのため、持続可能な社会の実現に向けた、高効率なエネルギーの再利用につながることが期待されます。現在のところ、フェルミ面の次元性を利用した横熱電変換材料はほとんど報告されていませんが、本研究の成果を受けて、フェルミ面の次元性に着目した横熱電変換材料の開発が加速するものと期待されます。

研究支援

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成 研究活動スタート支援(22K20360)、基盤研究B(22H01166)、東京理科大学次世代研究者支援、中部電気利用基礎研究振興財団(REFEC, No. R-04102)、東北大学金属材料研究所GIMRT(202205-IRKAC-0049, 202212-IRKMA-0005)の支援を受けて実施されました。

用語説明

用語1:フェルミ面
固体中の電子が取り得るエネルギーと波数の関係はエネルギーバンド構造と呼ばれます。バンドの途中までしか電子に占有されない物質は金属となりますが、このとき、電子によって占有された状態と占有されていない状態の境界(フェルミ準位)を逆格子空間上で表現したものがフェルミ面です。フェルミ面上の伝導電子が金属の様々な特性を決定しており、物質ごとにフェルミ面の形状が異なるため、しばしば「金属の顔」と呼ばれます。

用語2:ゼーベック係数
物質に印加された温度勾配 Tと熱電効果によって発生する電場Eの変換係数であり、E = S Tと表されます。

用語3:軸依存性伝導極性
異なる結晶軸方向に対して熱電能やホール係数などの極性が反転する現象です。

用語4:第一原理計算
量子系の状態を記述するシュレーディンガー方程式に基づき、計算機を用いて物質中の電子の運動を計算する手法です。

用語5:ペルチェ伝導度
物質に温度差を付けた際に流れる電流の大きさを表す物理量であり、電気伝導度とゼーベック係数の積で表されます。

用語6:無次元性能指数
熱電変換材料のエネルギー変換性能を表す無次元の指標であり、温度、ゼーベック係数、電気伝導度、熱伝導率から評価されます。ゼーベック係数が大きい場合、電気を通しやすい場合、熱を流しにくい場合に性能指数は高くなります。

論文情報

掲載誌

Nature Communications

題名

Large transverse thermoelectric effect induced by the mixed-dimensionality of Fermi surfaces

著者

Hikari Manako, Shoya Ohsumi, Yoshiki J. Sato*, Ryuji Okazaki, and Dai Aoki

DOI

10.1038/s41467-024-48217-0

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