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2024.02.09 Fri UP

整流特性を示す新たな面内ヘテロ接合素子の簡便合成に成功
~電力変換装置や超大規模集積回路の開発・高性能化に寄与~

研究の要旨とポイント

  • 金属元素と有機配位子から構成される配位ナノシートは無数の組み合わせがあることから、多彩な物理・化学特性を持つ構造を設計できますが、これまでは異種材料を垂直に積層する方法しかありませんでした。
  • Zn3BHT配位ナノシート(BHT: ベンゼンヘキサチオール)の一部をCu2+溶液やFe2+溶液に空間的に限定して浸漬することで、ダイオード様の整流作用を示す面内ヘテロ接合配位ナノシート(tmFe/tmCu)を、温和な条件で簡便に形成する方法を開発しました。
  • 本研究をさらに発展させることで、超大規模集積回路の作製や新たな電子デバイス開発への貢献が期待されます。

整流特性を示す新たな面内ヘテロ接合素子の簡便合成に成功

研究の概要

東京理科大学 研究推進機構 総合研究院のTan Choon Meng博士(研究当時)、福居 直哉助教、髙田 健司助教、前田 啓明助教、西原 寛教授らの研究グループは、Znを中心金属とするメタラジチオレン配位ナノシート(Zn3BHT)において、シートの下半分をCu2+溶液、上半分をFe2+溶液に浸漬してトランスメタル化反応を進行させることにより、温和な条件で簡便に面内ヘテロ接合(tmFe/tmCu)を作製することに成功しました。また、作製したtmFe/tmCuは整流作用を示すことを明らかにしました。本研究成果をさらに発展させることにより、新たなエレクトロニクス・光学デバイス開発への貢献が期待されます。

なお、本研究は、物質・材料研究機構(NIMS)、京都工芸繊維大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)、ケンブリッジ大学との国際共同研究の成果です。

グラフェンやカルコゲナイドなどの二次元物質の研究は、物性物理学や材料科学の分野で世界的に重要な影響を持つようになっています。二次元物質とはバルク結晶を極端に薄くしたものであり、この構造的特徴により従来とは異なる新しい物性の発現が期待されています。その中でも特に、金属元素と有機配位子から構成される配位ナノシートには無数の組み合わせがあるため、ヘテロ構造の作製に適した物質として有望視されています。これまで、異種材料を垂直方向に積層することは広く研究されてきましたが、水平方向に接合したヘテロ構造に関する報告はほとんどありませんでした。そこで本研究グループはZn3BHTをCu2+やFe2+溶液に逐次的かつ空間的に限定して浸漬することにより、ダイオード挙動を示す面内ヘテロ接合素子の作製に着手しました。

本研究では、絶縁性Zn3BHTをCu2+溶液やFe2+溶液に浸漬するだけで、トランスメタル化反応が進行し、中心金属ZnがCuやFeに置換された新たな配位ナノシート(tmCu, tmFe)を合成できることを実証しました。また、Zn3BHTの下半分をtmCuに、上半分をtmFeに置換することにより、ダイオード挙動を示す面内ヘテロ接合素子tmFe/tmCuを作製することに成功しました。本研究におけるトランスメタル化を利用した新たな合成法は、面内ヘテロ接合素子を簡便に作製する上で非常に優れた手法といえます。

本研究成果は、2024年1月5日に国際学術誌「Angewandte Chemie」にオンライン掲載されました。また、審査時の評価が高かったことから、全掲載論文の5%以内であるVery Important Paper (VIP)に選出され、バックカバーにも選出されました。

研究の背景

グラフェンや遷移金属ジカルコゲニドなどの電子伝導性二次元材料は平面的な原子・分子構造を有し、その平面内で電子が容易に伝導することができます。この特性により、電子デバイスや光電子デバイスへの応用が期待されています。また、これらの材料を組み合わせることで、機能が多様化し、新しいデバイスアプリケーションの実現が可能となります。電子伝導性二次元材料には、主に異種材料を垂直に積層したものと水平に接合したものがあります。前者はこれまでにさまざまな材料が開発されてきましたが、後者の面内におけるヘテロ接合の構築は非常に難しく、研究の進展が期待されていました。

近年の電子伝導性二次元材料に関する研究では、金属イオンと平面状有機配位子から構成される配位ナノシートにも注目が集まっています。その中でもBHT(ベンゼンヘキサチオール)を使用すると、多様な導電性配位ナノシートを合成することができるという点で、先進的なデバイス製造への道を開く可能性を秘めています。

本研究グループは、今までにBHTをはじめとするさまざまな有機配位子の金属配位ナノシートの合成に関する研究に注力してきました(*1-3)。今回、従来の知見を活かし、新たな面内ヘテロ接合素子の合成に配位ナノシートの特性が利用できることを発案し、Zn3BHT配位ナノシートのトランスメタル化に関する研究に着手しました。

研究結果の詳細

はじめに、室温でBHTのクロロホルム溶液の上に酢酸亜鉛溶液を積層(Zn2+ : BHT = 3 : 1)し、45℃の不活性雰囲気下で長時間反応させて、高結晶性のZn3BHTを作製しました。得られたZn3BHTをSiO2/Si基板上に固定した後、その一部を50 mMのCu2+やFe2+を含む金属塩溶液に3日間浸漬しました。浸漬部でトランスメタル化反応が進行したことにより、目的物であるtmCuおよびtmFeを得ることができました。

EDS(エネルギー分散型X線分光法)など各種分析の結果、BHT由来の炭素と硫黄は配位ナノシート全体に均一に存在していましたが、CuとFeはそれぞれ浸漬部に、Znは未浸漬部に均一に分布していることがわかりました。この結果から、配位ナノシートの骨格を維持した状態で、円滑なトランスメタル化が進行したことが示唆されました。

次に、Zn3BHTをCu2+とFe2+の2つの異なる金属イオン溶液に順次浸漬することで、面内ヘテロ接合tmFe/tmCuの合成を行いました。SiO2/Si基板上に固定したZn3BHTの下半分の領域を、50 mMのCu2+溶液に3日間浸漬した後、Zn3BHTの上半分(非浸漬領域)を50 mMのFe2+溶液に3日間浸漬することで、目的のtmFe/tmCuを得ることができました。Zn3BHT、tmCu、tmFeの境界については、SEM(走査型電子顕微鏡)で明瞭に観察することができたため、トランスメタル化が浸漬領域でのみ進行しており、空間的な制御が容易であることがわかりました。また、SEM-EDSにより、接合部の周囲全体にZnが存在せず、Cuはシートの下半分に、Feはシートの上半分に存在していたことから、元のシート状の形態を破壊することなく、tmCuとtmFeによる水平方向のヘテロ接合が形成されたと結論付けました。

さらに、tmFeは電気伝導率3.06 × 10-3 Scm-1、ゼーベック係数 +100 μVK-1、仕事関数 5.33 eVのp型半導体、tmCuは電気伝導率26.6 Scm-1、ゼーベック係数 +15 μVK-1、仕事関数5.46 eVのp型半導体であることがわかりました。また、面内ヘテロ接合のI-V曲線においては、電圧が正の場合、+0.4 Vを超えると電流が急激に増加しますが、電圧が負の場合、大きな電流が流れないことが明らかとなりました。この挙動はtmFe/tmCuが整流特性を有することを示唆するものです。

本研究を主導した西原教授は「二次元物質であるグラフェンや遷移金属ジカルコゲニドなどが新規材料として活発に研究されていますが、私たちはさらに新しいタイプの二次元物質である配位ナノシートの優位性に着目して研究を進めてきました。今回、面内ヘテロ接合素子の作製に配位ナノシートのトランスメタル化反応が利用できると発想し、本研究に着手しました。ナノメートルオーダーの整流素子は超大規模集積回路の作製に有用であると同時に、単原子層膜の面内ヘテロ接合によるユニークな物性、ひいては新たな素子の開発が期待されます」と、研究の成果についてコメントしています。

※本研究は、以下の助成金を受けて実施されたものです。

  • 科学技術振興機構 CREST; JST-CREST (JPMJCR15F2)
  • 日本学術振興会 科研費特別推進研究; JSPS KAKENHI (JP19H05460, JP22K05055, JP22K14569)
  • 日本学術振興会 拠点形成プログラム; EPSRC-JSPS core-to-core program (EP/S030662/1, JPJSCCA20190005)
  • ホワイトロック財団; White Rock Foundation

また、PXRD測定については、理化学研究所の承認を得て、SPring-8のBL44B2 (20190021、20210072)で実施されました。XPS測定については、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ(JPMXP1223UT0025)を利用しました。

論文情報

雑誌名

Angewandte Chemie International Edition

論文タイトル

Lateral Heterometal Junction Rectifier Fabricated by Sequential Transmetallation of Coordination Nanosheet

著者

Choon Meng Tan, Naoya Fukui, Kenji Takada, Hiroaki Maeda, Ekaterina Selezneva, Cédric Bourgès, Hiroyasu Masunaga Sono Sasaki, Kazuhito Tsukagoshi, Takao Mori, Henning Sirringhaus, Hiroshi Nishihara

DOI

10.1002/anie.202318181

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