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2024.01.17 Wed UP

複数言語における概念に対するネットワーク解析により、中核をなす4つの感情を解明
~自然言語処理にも活用できる重要な知見~

研究の要旨とポイント

  • colexificationとは、1つの単語が複数の概念を意味する現象を表します。これを分析することで、さまざまな言語が概念をどのように捉えて表現しているかを理解することができます。
  • colexificationを呈する複数の概念をネットワークととらえて解析し、さまざまな感情に関する概念間の関連性を、複数の言語で調査しました。
  • 他の多数の感情の概念と意味的共通性を有する中心的感情が「GOOD」、「WANT」、「BAD」、「LOVE」の4つであることを見出しました。
  • 本研究をさらに発展させることで、基本的な感情に関する深い洞察が得られると同時に、新たな言語学基盤の創出、ひいては自然言語処理技術への活用が期待されます。

研究の概要

東京理科大学 工学部情報工学科の池口 徹教授、同大学大学院 工学研究科情報工学専攻の福家 水月氏(2023年度 修士課程2年)、同大学 教養教育研究院の松本 朋子准教授、埼玉大学大学院 理工学研究科数理電子情報部門の島田 裕准教授の研究グループは、複数言語における感情概念をcolexificationネットワークで解析することにより、人間の感情概念と関わりの深い中心的感情が「GOOD」、「WANT」、「BAD」、「LOVE」の4つであることを明らかにしました。

感情や感情に関連する概念はコミュニケーションだけでなく、自然言語処理(*1)、特に感情分析において重要な役割を果たします。感情分析とは文章や発言から感情や意見を抽出し、それを解析することを指します。肯定的、否定的、中立的な意見など、テキストや音声情報から感情を推定することができるので、SNSモニタリング、商品のレビュー分析などに役立てることができます。

本研究では、言語のcolexificationに着目することで、さまざまな感情と意味的類似性を有する中心的感情を抽出することを試みました。その結果、他の多数の感情と関連性の高い、ハブとなっている中心的概念は「GOOD」、「WANT」、「BAD」、「LOVE」の4つであることを見出しました。本研究をさらに発展させることで、革新的な自然言語処理、感情分析手法の確立に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2023年12月9日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

複数言語における概念に対するネットワーク解析により、中核をなす4つの感情を解明~自然言語処理にも活用できる重要な知見~
図. 本研究で明らかになったcolexificationネットワーク。
Fukuya, Mitsuki, et al. “Central emotions and hubs in a colexification network.” Scientific Reports, vol. 13, 2023

研究の背景

colexificationとは、ある単語が複数の概念を意味する現象を指します。例えば、スペイン語の「malo」という言葉は、「悪い」という意味で用いられる場合と、「深刻な」と言う意味で用いられる場合があります。このようなcolexificationに着目することで、私たちは、対象とする言語が概念をどのように捉えて表現しているかについて知ることができます。

言語についてのテキスト分析を行う場合、一般に、言語を処理できるような大規模コーパス(*2)の収集が必要になります。しかし、colexificationを用いた分析は、既存の翻訳辞書などを利用するため、言葉同士の類似度データを収集する必要がなくなります。そのため、間接的な意味の類似度を解析できる言語学の新しい手法の一つになると考えられます。

従来の複数言語における感情概念に関する研究では、感情の関連性に基づいたcolexificationネットワークを分析することで、言語によって感情の連結状況(ネットワークの形状)が異なることがわかっていました。しかしながら、全ての言語に共通した中心的な感情概念は、まだ十分に明らかにされていませんでした。

本研究グループは、これまでにネットワーク理論を用いた言語の構造解析にも注力し、目覚ましい成果を挙げてきました(※1)。今回、colexificationデータベースを活用し、colexificationネットワーク構造を捉えることで人類に共通した中心的な感情を明らかにすることを試みました。

※1: 東京理科大学プレスリリース
『単語の共起ネットワークによる言語の構造的特徴の定量化に成功 ~言語の壁を越えた新たなデータ解析法の実現に寄与~』

研究結果の詳細

本研究は、3000以上の言語のcolexificationに関するオンラインデータベース (CLICS3) を用いて、以下のような、ネットワーク解析を行いました。

はじめに、感情に関する概念を頂点とし、各頂点間におけるcolexificationの有無に基づいて辺を設置することでネットワークの構築を行いました。作成したネットワークに対してランダムウォークを適用し、任意の頂点間での遷移確率を求めることで感情概念間の類似性を評価しました。その結果、辺の重みの大きな概念、つまり中心的概念は「GOOD」、「WANT」、「BAD」、「LOVE」の4つであることを見出しました。これらは他の感情概念との関連性が大きく、colexificationネットワークにおけるハブの役割を持つと解釈できます。

次に、これら4つのハブと他の感情概念の関連性の高さを可視化するため、関連性の強さに応じて、階層1~階層6の6つに分類しました。また同系列の感情概念を同じ色で色分けし、異なる5つのコミュニティを定義しました。その結果、ハブに近い階層に属する多くの感情概念は、ハブと同一のコミュニティに属していることがわかりました。一方で、「HOPE」、「HAPPY」、「GLOOMY」など、ハブと同じコミュニティに属していても、ハブとの関連性が低い概念もあることがわかりました。

最後に、正反対の概念である「GOOD」と「BAD」の関連性について、より詳細な評価を行いました。その結果、「GOOD」と「BAD」の両方の概念に関連した概念として、「BIG」、「SMALL」、「ANIMAL」、「WHITE」、「SICK」、「BRAVE」の6つが存在することを確認しました。例えば、英語の「BRAVE」という単語には「立派」と「無謀」などの「GOOD」と「BAD」に関連する要素が含まれています。このように、colexificationネットワークを用いた解析では、概念間の類似性と関連性の両方を考慮することで、異なる概念間の関係を明らかにすることができます。そのため本手法は、従来とは異なる視点で感情概念間の橋渡しとなる概念を特定できる可能性があります。

本研究を主導した池口教授は「以前からさまざまな言語に対する文書を解析するため,ネットワーク科学の手法を用いた解析について、共著者の松本朋子先生、島田裕先生と共同研究を続けてきました。その過程で、colexificationデータベースに関する研究に取り組むことになりました。本研究は、新たな言語学基盤の創出につながる可能性を秘めています」と、研究についてコメントしています。

※本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP20H00596, JP21H03508, JP21H03514, JP21H04391, JP22K13339, JP22K18419)の助成を受けて実施されました。

用語

*1 自然言語処理
人間が普段用いる言語(自然言語)を用いてテキストデータをコンピュータで処理する技術。人工知能(AI)分野の主軸をなす技術の一つ。

*2 コーパス
自然言語の実例を大量に収集し、コンピュータで処理できる形に整えたデータベースのこと。

論文情報

雑誌名

Scientific Reports

論文タイトル

Central emotions and hubs in a colexification network

著者

Mitsuki Fukuya, Tomoko Matsumoto, Yutaka Shimada & Tohru Ikeguchi

DOI

10.1038/s41598-023-48922-8

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