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2023.09.05 Tue UP

液中プラズマ処理で酸化チタンが二酸化炭素還元に良好な電極材料に
~液体燃料の出発物質である一酸化炭素と水素を好適な比率で生成に成功~

研究の要旨とポイント

  • カーボンニュートラル社会の実現に向け、二酸化炭素を還元して、多様な有用物質を製造する技術が注目されています。
  • 本研究では、液中プラズマ処理を施した酸化チタンを担体として、Ag触媒を複合化した電極材料を開発し、二酸化炭素還元に良好な電極材料となることを明らかにしました。
  • 二酸化炭素還元時には水素と一酸化炭素の混合ガスが発生しますが、この電極材料を用いることで、水素と一酸化炭素の比率を任意に調整できます。水素と一酸化炭素の混合ガスは液体燃料の出発物質であることから、比率調整ができれば目的物質の効率的な合成につながります。

液中プラズマ処理で酸化チタンが二酸化炭素還元に良好な電極材料に~液体燃料の出発物質である一酸化炭素と水素を好適な比率で生成に成功~

研究の概要

東京理科大学大学院創域理工学研究科先端化学専攻の髙木海氏(博士後期課程2年)、同大学創域理工学部先端化学科の寺島千晶教授らの研究グループは、液中プラズマ処理を施した酸化チタン(TiO2)を担体として、Ag触媒を複合化した電極材料を開発し、二酸化炭素(CO2)を還元するガス拡散電極として良好な性能を持つことを示すとともに、一酸化炭素と水素を好適な比率で生成することに成功しました。

電気化学的にCO2を還元することによって、メタノールやエタノール、エチレンなどの多様な有用物質を製造する技術は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた有望な技術として注目されています。なかでも、近年有力視されているのが、電極を触媒とする方法で、導電性カーボンに金や鉛を担持させることでCO2を選択的に還元する手法が広く知られています。しかし、この手法では、電極近傍で大量の水酸化物(OH-)が生成され、pHが高くなることから、触媒や触媒担体の劣化が懸念されます。

そこで研究チームは、カーボンの代替として、TiO2粉末を触媒担持として用いた電極材料を検討しました。TiO2は、耐薬品性、耐久性に優れ、安価であることから注目を集めています。しかし、電気化学的活性が低いという課題があり、電極材料として使用するには、その向上が必須となります。本研究では、TiO2電気化学的特性を向上させるために、液中プラズマ法を用いました。液中プラズマ法は、液体中の金属電極に高電圧または高周波を印加してプラズマを発生させる方法で、先行研究から、TiO2粉末の電気化学的特性を大幅に改善する可能性が示唆されています。

今回、研究チームは、TiO2にAgナノ粒子を担持させた電極触媒を用いて、CO2還元を行いまた。その結果、液中プラズマ処理後もTiO2の粒子形状と結晶構造は維持されており、水素生成量の増加も確認できました。

電極触媒によるCO2還元時に発生するガスは、H2とCOの混合ガスであり、それぞれの比率が重要となります。H2とCOの混合物は液体燃料の出発物質であることから、工業的価値が非常に高い物質です。今回の研究結果は、液体プラズマ処理TiO2は、ガス製造のための理想的な触媒担体であることを示唆しています。液体プラズマ法は、還元焼結法や化学合成法に比べて安価かつ安全であることから、今後、液中プラズマは、表面および電気化学的特性を向上させる有望な方法として期待されます。

本研究成果は、2023年8月4日に国際学術誌「Science of The Total Environment」にオンライン掲載されました。

研究の背景

化石燃料からのCO2排出量は、ここ数十年の間に増加の一途をたどっており、大気中のCO2濃度は1960年には310ppmでしたが、2023年には420ppmまで増加しています。このままCO2濃度の上昇が続くと、高地の永久凍土が溶けて海面が上昇し、従来とは異なる異常気象の発生につながると危惧されています。化石燃料からの脱却が求められるなか、大気中のCO2を分離・回収し、有用な資源に変換することで、CO2排出量を削減する技術が注目を集めています。

CO2を有用資源に変換するプロセスには、電気還元、人工光合成、プラズマ、熱触媒など、多種多様なものがあります。特に、電極触媒を用いたCO2還元プロセスは、近年、注目されているアプローチの一つです。

電極触媒還元法は、金、銀、銅などの触媒を用いることで、CO2を一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)に選択的に変換する方法です。しかし、従来の電極触媒還元法では、電極を溶液に含浸させる際のCO2の溶解、拡散、吸着が律速となるため、有用資源への変換率が低いことが課題でした。この問題を克服するため、近年、ガス拡散電極を用いた電極触媒が提案されています。ガス拡散電極を用いると、CO2はガス拡散層から電解質を含浸させた多孔質触媒層に供給され、ガス/触媒/液体の三相界面で還元されます。そのため、従来の方法よりもCO2の還元効率が向上します。

電極触媒によるCO2還元において、水素過電圧は電解反応や金属の耐食性などに影響するため、過電圧を低減できる新しい触媒材料の研究開発が進められています。導電性とガス透過性に優れていることから、導電性カーボンが触媒担体としてよく使用されています。しかし、導電性カーボン担体を用いた電極では、電極近傍でpHが高くなることから、触媒や触媒担体の劣化が懸念されます。そのため、優れた耐薬品性、安定性、耐久性を有する電極材料が求められています。

そこで研究チームは、カーボンの代替として、TiO2粉末を触媒担持として用いた電極材料を検討しました。TiO2は、電気化学的活性が低いことから、液中プラズマ法を用いて、電気化学的活性の向上を試みました。液中プラズマ法は、液体中の金属電極に高電圧または高周波を印加してプラズマを発生させる方法で、粉末を溶液中に分散させながらプラズマを発生させることができるという点で、他のプラズマ法よりも優位性があります。先行研究では、低真空でTiO2を分散させた脱イオン水中で、マイクロ波電源を用いてタングステン電極から液体プラズマを発生させたところ、TiO2の結晶は維持されたままタングステンがドープされたと報告されています。電極由来のドーピングと自己ドーピングを分離することは困難ですが、この研究は、液中プラズマ法は、TiO2の電気化学的特性を大幅に改善する可能性を示唆するものと言えます。

本研究では、液中プラズマ処理をおこなったTiO2の電気化学特性について調べ、新たな電極材料としての可能性を検討しました。

研究結果の詳細

まず、銀ナノ粒子担持液中プラズマ処理TiO2(以下、液中プラズマ処理TiO2)と、比較検討用の還元焼結法によるTiO2-x、タングステン金属電極を作製し、液中プラズマ処理TiO2の形態および構造の特性を評価しました。その結果、TiO2は液中プラズマ処理後も粒子形状と結晶構造を維持したまま、粒子の外観だけが変化していたことがわかりました。

液中プラズマ処理TiO2の元素分析と界面結合状態の評価から、酸化状態がTi4+からTi3+に変化し、微量のタングステンが検出されました。次に、電気化学特性を評価したところ、液中プラズマ処理TiO2では、TiO2由来の酸化還元ピークが消失し、水素過電圧が低下していることが確認できました。水素過電圧の計測結果から、液中プラズマ処理TiO2では、還元されたTiO2表面の一部にタングステンが被覆またはドーピングされていることが示唆されました。還元されたTiと液体プラズマ電極由来のタングステンは、水素過電圧を低減し、電流密度を向上させていると考えられます。

また、銀ナノ粒子担持液中プラズマ処理TiO2を用いた電極触媒によるCO2還元をおこなったところ、水素生成量の増加が見られました。これは、液体プラズマ処理ではTiO2表面にタングステンが付着またはドーピングされたため、TiO2の還元処理では水素生成のためのTiが増加したことによると考えられます。電極触媒によるCO2還元では、水素と一酸化炭素ガスの比率が重要となります。この結果は、液中プラズマ処理および還元焼結処理後のTiO2を使用して、H2およびCOの生成を任意の比率で制御できる可能性を示唆しています。これらの結果は、液中プラズマ処理TiO2は、電極触媒材料として有望であることを示しています。

研究を行った寺島教授は、「本研究では、液中プラズマ処理をすることで、TiO2がCO2還元に良好な電極材料となることを実証しました。本研究をさらに発展させ、実用化にこぎつけることができれば、カーボンニュートラル社会の実現に貢献できると期待されます」と述べています。

※本研究は、科学技術振興協会 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)「地域資源活用型エネルギーエコシステムを構築するための基盤技術の創出」(JPMJOP1843)の助成を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名

Science of the Total Environment

論文タイトル

Synergistic effect of Ag decorated in-liquid plasma treated titanium dioxide catalyst for efficient electrocatalytic CO2 reduction application

著者

Kai Takagi, Norihiro Suzuki, Yuvaraj M. Hunge, Haruo Kuriyama, Takenori Hayakawa, Izumi Serizawa, Chiaki Terashima

DOI

10.1016/j.scitotenv.2023.166018

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