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2026.02.03 Tue UP

新しい横型熱電変換材料MoSi2を発見
~磁場不要で高い熱電変換効率を実現、熱流センサーへの応用に期待~

東京理科大学
埼玉大学

研究の要旨とポイント

  • 二ケイ化モリブデン(MoSi2)が磁場を必要としない、新規の横型熱電変換材料であることを発見しました。
  • 室温で8 μV/Kという、高い横型熱電能を達成し、特に低温領域では他の材料を上回る性質を実証しました。
  • 工業材料として広く使われているMoSi2が、横型熱電材料として活用できる可能性を示したことで、熱電変換技術のさらなる発展が期待されます。

研究の概要

東京理科大学大学院 創域理工学研究科 先端物理学専攻の眞子 日佳里氏(2024年度 修士課程修了)、大隅 翔也氏(修士課程2年)、東京理科大学 創域理工学部 先端物理学科の吉田 章吾助教、岡崎 竜二准教授、埼玉大学 大学院理工学研究科 物質科学部門の佐藤 芳樹助教の共同研究グループは、横型熱電変換材料の候補物質として、MoSi2(二ケイ化モリブデン)を新たに見出し、磁場を必要としない理想的な横型熱電材料であることを実証しました。

熱電変換とは、熱と電気を相互に変換可能な技術であり、排熱を利用したエネルギー創製や、熱流センシングなどにすでに活用されています。熱電変換には、縦型と横型があり、横型熱電変換は温度差と起電力の大きさを独立して制御可能な新規技術である一方、候補となる材料が限られていました。

本研究グループはMoSi2が結晶軸方向によって電気伝導の極性が異なる「軸依存伝導極性」であることを発見し、第一原理計算によりそのメカニズムを明らかにしました。また、横型熱電効果の測定を行ったところ室温で8 μV/Kという、他材料に匹敵する高い特性を得ることができました。

MoSi2は工業材料として広く使われている材料であり、化学的安定性と耐熱性をもちます。本研究成果は、横型熱電変換の応用を強く推し進めるものと期待されます。

本研究成果は、2025年12月29日に国際学術誌「Communications Materials」にオンライン掲載されました。

研究の背景

熱電変換は熱を電力に変換する技術です。排熱を電力に変換できることから、持続可能なエネルギー源としても近年注目されています。従来の熱電変換は、縦型熱電効果を利用したπ型構造に基づいています。これは、多数のp型半導体とn型半導体を接合した直列電気回路で構成されているため、接合部での電気抵抗損失が起こり、エネルギー効率低下の原因になっていました。

これに対して、横型熱電変換は温度勾配に直交する方向に電力を発生させることができるため、製造プロセスを簡素化でき、接合部での熱損失という課題の解決にも期待が持たれています。これまで、物質のネルンスト効果を利用した横型熱電変換の研究が進められてきましたが、素子に外部磁場を加える必要があり、磁場の不要な軸依存伝導極性(ADCP *1)を持つ物質を利用した横型熱電変換を実現する材料が求められていました。

研究グループでは過去に希土類化合物LaPt2B単結晶や金属材料WSi2での磁場を必要としない横型熱電変換材料を報告していました。

今回の研究対象であるMoSi2は工業的に広く使われている耐火材料ですが、理論研究から、準一次元と準二次元のフェルミ面(*2)が共存する「混合次元導体」(*3)である可能性が示唆されていました。この混合次元導体は、軸依存伝導極性を示す有望な材料群であることが提案されていました。

そこで本研究では、MoSi2が混合次元導体であること、さらに軸依存伝導極性を示すこと、なにより横型熱電変換材料としてどのような特性を持つのかを実証と理論の両面から検討しました。

横型熱電能の温度依存性。挿入写真は測定に用いた単結晶試料の写真。点1-2間で縦方向の電位差と温度差を、点3-4間で横方向の電位差と温度差を測定した。
図:横型熱電能の温度依存性。挿入写真は測定に用いた単結晶試料の写真。点1-2間で縦方向の電位差と温度差を、点3-4間で横方向の電位差と温度差を測定した。

研究結果の詳細

研究グループはまず、高品質なMoSi2単結晶を作製しました。結晶軸方向に沿って熱電能を測定したところ、a軸方向では正の値(正孔型)、c軸方向では負の値(電子型)を示し、明確な軸依存伝導極性が観測されました。

次に、第一原理計算に基づき、MoSi2の電子バンド構造を評価しました。この材料はαとβとラベル付けされた2つのフェルミ面をもちます。正孔型のα面は円筒状であり、電子型のβ面は平面状でc軸方向に沿った伝導をもっており、混合次元材料の特徴と一致します。

同じ構造を持つWSi2と比較したところ、Mo 原子の4d軌道はW 原子の5d軌道よりもバンド幅が狭く、より大きな熱電能をもたらすことがわかりました。室温での面内熱電能は、WSi2の約3 μV/Kに対してMoSi2では約7 μV/Kとほぼ2倍でした。

MoSi2の横型熱電能測定を実施したところ、温度勾配に垂直な方向に明確な起電力が発生し、横型熱電変換が実証されました。横型熱電能は、室温で8 μV/Kに達しました。

他の横型熱電材料と比較したところ、より広い温度範囲で優れた性能を示すことが分かりました。特に低温領域では、他材料を上回る高い特性が得られました。

本研究の知見は、高効率横型熱電モジュールの開発に向けた重要なステップであり、将来の材料設計と応用のための新しい方向性を示唆しています。

※ 本研究は、日本学術振興会科研費(22K20360、22H01166、24K06945)および中部電気利用基礎研究振興財団助成金(R-04102)の支援を受けて実施したものです。

用語

*1 軸依存伝導極性(Axis-dependent conduction polarity、ADCP)
異なる結晶軸の向きに対して、ゼーベック係数やホール係数などの極性が反転する現象。

*2 フェルミ面
物質中の電子が存在できるエネルギーの上限(フェルミエネルギー)を示した波数空間上の曲面。電気伝導性や磁気的性質などを理解する際に用いられる。

*3 混合次元導体
準一次元フェルミ面と準二次元フェルミ面が共存し、それぞれ異なるキャリア極性を持つ物質。

論文情報

雑誌名

Communications Materials

論文タイトル

Axis-Dependent Conduction Polarity and Transverse Thermoelectric Conversion in the Mixed-dimensional Semimetal MoSi2

著者

Hikari Manako, Shoya Ohsumi, Shogo Yoshida, Ryuji Okazaki, Yoshiki Sato

DOI

10.1038/s43246-025-01050-4

発表者

眞子 日佳里
東京理科大学大学院 創域理工学研究科 先端物理学専攻(2024年度修士課程修了)
大隅 翔也
東京理科大学大学院 創域理工学研究科 先端物理学専攻(修士課程2年)
吉田 章吾
東京理科大学 創域理工学部 先端物理学科 助教
岡崎 竜二
東京理科大学 創域理工学部 先端物理学科 准教授
佐藤 芳樹
埼玉大学 大学院理工学研究科 物質科学部門 助教

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