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新種の巨大ウイルス「ウシクウイルス」を茨城県牛久沼から発見
~ユニークなカプシド構造をもち、宿主細胞を肥大化させる新ウイルス、真核生物の進化の謎を解く鍵に~
東京理科大学
自然科学研究機構 生命創成探究センター
自然科学研究機構 生理学研究所
研究の要旨とポイント
- 茨城県牛久沼から、巨大ウイルスの新種「ウシクウイルス」を発見した。
- ウシクウイルスは、カプシド表面にユニークなキャップ構造をもち、宿主のヴェルムアメーバを感染後約2倍に肥大化させる。
- 近年、巨大ウイルスの祖先が真核生物の祖先である原核生物に感染・共生した結果、真核細胞(細胞核をもつ生物)の核が形成されたとする『細胞核ウイルス起源説』が注目されている。
- 本発見は、その謎を解く手がかりとなり得る成果であり、人間を含む真核生物の進化の解明にも寄与することが期待される。
研究の概要
東京理科大学 教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部の武村 政春教授、同大学⼤学院理学研究科科学教育専攻のペ・ジワン氏(2025年度 修士課程1年)、羽鳥 成美氏(2025年度 修士課程2年)、⾃然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS)/生理学研究所のRaymond Burton-Smith特任助教、同村田 和義特任教授の研究チームは、茨城県・牛久沼において巨大ウイルス(*1)の新種「ウシクウイルス」を発見しました(図1)。ゲノム解析の結果、このウイルスは、武村教授らが2019年に発見したメドゥーサウイルスと類縁関係にあることが明らかになりました。
しかし、ウシクウイルスはカプシド表面にキャップ構造をもつユニークなスパイクを備えているほか、宿主であるヴェルムアメーバ細胞を肥大化させる特異的な細胞変性効果(CPE、*2)を示すなど、メドゥーサウイルスにはみられない複数の特徴を有していました。
また、ウシクウイルスはメドゥーサウイルスを含む巨大ウイルス群「マモノウイルス科」に類縁ではあるものの、宿主が異なるなど、進化系統上の相違も示していました。
マモノウイルス科は、私たち人間を含む真核生物(細胞核を持つ生物)の進化に深くに関わってきた巨大ウイルスである可能性が高まりつつあります。今回の発見は、その進化および系統の謎を解明するうえで重要な第一歩であり、巨大ウイルスという謎多きウイルス群と、私たち真核生物の進化の理解に大きく貢献するものと期待されます。
本研究成果は、2025年11月24日に米国微生物学会発行の国際学術誌「Journal of Virology」にオンライン掲載されました。
研究の背景
巨大ウイルスの一グループであるマモノウイルス科ウイルスは、2019年に武村教授と自然科学研究機構の村田特任教授らによって北海道・定山渓温泉のお湯だまりから初めて発見され「メドゥーサウイルス」と名付けられました(参考文献①、参考動画①)。現在、アカントアメーバを宿主とする2種のメドゥーサウイルスが知られており、真核生物と同様にフルセットのヒストン遺伝子を有し、宿主の細胞核をウイルス工場として利用するという、極めてユニークな特徴を示す巨大ウイルス群です。
2021年には、マモノウイルス科に近縁な巨大ウイルス「クランデスティノウイルス」がフランスで発見されました。クランデスティノウイルスもメドゥーサウイルスと同じくフルセットのヒストン遺伝子をもち、宿主の細胞核で複製されますが、宿主がアカントアメーバではなくヴェルムアメーバ(*3)である点が大きな違いとして挙げられます。
マモノウイルス科は、真核生物の進化と密接に関わってきた巨大ウイルスの一つと考えられていますが、その系統的位置、宿主との相互作用、そして進化過程には未解明な部分が多く残されています。それらを明らかにするためには、より多くの近縁ウイルスを分離・発見することが求められていました。
研究結果の詳細
本研究で分離されたウシクウイルスは、同じマモノウイルス科に属するメドゥーサウイルスよりもクランデスティノウイルスに近縁であるだけでなく、カプシド(*4)の表面構造や宿主への影響など、いくつかの点で新規性を示しました。主な特徴は以下の3点です。
- 感染周期がメドゥーサウイルスやクランデスティノウイルスより長く、宿主であるヴェルムアメーバ細胞を約2倍に肥大化させる特異的な細胞変性効果(CPE)を示した(図2)。
- カプシド表面のカプシドタンパク質最上部に多様な「キャップ」構造が存在し、その一部は繊維状の構造を有した(図3)。
- 複製に際して細胞内にウイルス工場を形成し、これに伴い宿主細胞の核膜を破壊した(図4)。
これらの特徴は、メドゥーサウイルスやクランデスティノウイルスではこれまで観察されておらず、巨大ウイルスがそれぞれ辿ってきた進化的過程の違いを反映していると考えられます。
さらに、ウシクウイルスのゲノム長は少なくとも652,555塩基対であり、784の遺伝子を有することも明らかとなりました。これはクランデスティノウイルスとほぼ同じで、メドゥーサウイルスの約1.7倍の規模に相当します。遺伝子の58%は、既知データベースに類縁配列を持たないオーファン遺伝子であり、25%は巨大ウイルスを含むグループ(ヌクレオサイトウイルス門、*5)の他のウイルスと類似していました。
また、カプシド表面の繊維状構造には糖鎖が含まれている可能性が示唆されました。もしこれがヴェルムアメーバへの感染に関わるとすれば、別の巨大ウイルス群である「マルセイユウイルス科」で報告されている、表面糖鎖を介したウイルス–宿主相互作用に関する研究に新たな知見を提供することになります。
以上のことから、この新種ウイルスは、ウイルス–宿主相互作用の解明、およびマモノウイルス科ならびに関連ウイルスの進化・系統研究において極めて重要な鍵を握ると考えられます。
研究チームの武村教授は2001年、「大型のDNAウイルスの祖先が真核生物の祖先である原核生物に感染・共生し、真核生物の細胞核が形成された」とする『細胞核ウイルス起源説』を世界に先駆けて提唱しました。2003年に巨大ウイルスが発見されたことでこの仮説は注目を集めるようになり、2019年には、この仮説を支持する特徴を多く備えたマモノウイルス科メドゥーサウイルスを発見しています(参考文献②)。その後マモノウイルス科および関連ウイルスの研究を進め、メドゥーサウイルスとは異なる宿主をもつウシクウイルスの発見に至りました。現在、未発表ながら、他にも複数のマモノウイルス科関連ウイルスを確認しており、武村教授は「これら巨大ウイルスの研究を通して、真核生物の起源と進化の謎に迫りたい」と述べています。
今回発見されたウシクウイルスは、その進化的・系統的背景を解明することで、巨大ウイルスという謎に満ちた一群の理解を深めるだけでなく、私たち真核生物の進化を探る上でも大きく貢献するものと期待されます。
※本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(20H03078)および自然科学研究機構生命創成探究センター(ExCELLS)共同研究(プログラム番号:22EXC601-4)の支援を受けて実施されました。
(a)顕微鏡観察の様子。感染後時間(hpi)を経るたびに細胞が肥大化していく。特に36時間後に最大となる。(b)細胞のサイズを計測して定量化したグラフ。
(a)ウシクウイルスの3D再構築像。解像度は9.3Å。正二十面体ウイルス粒子に十二カ所ある五回対称軸頂点周辺の大きなスパイク構造は、メドゥーサウイルスのそれに類似している。(b)ウシクウイルスのスライス画像。(c)再構築像の解像度を示すグラフ。(d)カプシド表面を覆うカプシドタンパク質最上部に特徴的なキャップ構造がみられる(○枠)。
(a)正常のアメーバ細胞(左)では細胞核の核膜がよく見える(黄色い矢印)。これに対して、ウイルス感染アメーバ細胞(右)では核膜が見られない(黄色い矢印)。
(b)ウシクウイルス感染過程の模式図。ウシクウイルスは細胞に感染後、核膜を崩壊してウイルス工場を作り、ウイルス粒子を生産する。ウイルス粒子は、その後エキソサイトーシスによりゆっくりと細胞外に放出される。
用語
*1 巨大ウイルス
厳密な定義はないが、ウイルスとしては例外的に光学顕微鏡で観察できるサイズのウイルスの総称。分類的には、ヌクレオサイトウイルス門(*5を参照)メガウイルス綱に含まれるウイルスを指すことが多い。通常のウイルスよりもゲノム長も大きく、たとえばA型インフルエンザウイルスが遺伝子8に対し、巨大ウイルスであるミミウイルスは1000個程度、パンドラウイルスは2000個以上の遺伝子をもつ。
*2 細胞変性効果(CPE:Cytopathic effect)
ウイルスが細胞に感染(進入)したことによって起こる宿主細胞の形態変化。細胞が溶解、死滅することもCPEが原因といわれている。
*3 アカントアメーバ、ヴェルムアメーバ
単細胞の真核生物(アメーバ)の一種で、これまで発見されてきた多くの巨大ウイルスの宿主となる。アカントアメーバはアメーボゾア門ディスコセア綱、ヴェルムアメーバはアメーボゾア門チュブリネア綱に属する。
*4 カプシド
ウイルスゲノムを取り囲むタンパク質の殻。多数のカプシドタンパク質からなる。正二十面体、らせん状など、ウイルスごとに様々な形態をとる。ウイルスが細胞に侵入すると細胞またはウイルス自身の酵素により除去される。
*5 ヌクレオサイトウイルス門
巨大ウイルスの分類学上の名称。2本鎖DNAウイルスのグループであるヴァリドナウイルス域、バンフォードウイルス界に含まれる。
参考文献
- 参考文献①
- Medusavirus, a Novel Large DNA Virus Discovered from Hot Spring Water, Journal of Virology, 93, 8, 2019.
- 参考動画①(Youtube)
- アメーバを石に変える、巨大ウイルスの不思議
- 参考文献②
- Medusavirus Ancestor in a Proto-Eukaryotic Cell: Updating the Hypothesis for the Viral Origin of the Nucleus, Frontiers in Microbiology, 11, 2020.
論文情報
雑誌名
Journal of Virology
論文タイトル
A newly isolated giant virus, ushikuvirus, is closely related to clandestinovirus and shows a unique capsid surface structure and host cell interactions
著者
Jiwan Bae, Narumi Hatori, Raymond N. Burton-Smith, Kazuyoshi Murata, Masaharu Takemura
DOI
発表者
- 武村 政春
- 東京理科大学 教養教育研究院 神楽坂キャンパス教養部 教授
- ぺ・ジワン
- 東京理科大学大学院理学研究科科学教育専攻修⼠課程1年
- 羽鳥 成美
- 東京理科大学大学院理学研究科科学教育専攻修⼠課程2年
- Raymond Burton-Smith
- ⾃然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS)特任助教
- 村田 和義
- ⾃然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS)特任教授
