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2023.05.09 Tue UP

「プロシューマー(生産消費者)」が電力市場に与える影響を解明
~「デス・スパイラル」の抑制に有効な対策を提案~

研究の要旨とポイント

  • 完全競争下または不完全競争下の電力市場において、自ら発電した電力を使用し、余剰電力を売る「プロシューマー(生産消費者)」の増加が市場に与える影響を解明することに成功しました。
  • プロシューマーに適切な税制を課すことで、太陽光発電等の大量導入によって配電事業費用の回収漏れの連鎖に陥る「デス・スパイラル」の緩和が期待できることを明らかにしました。
  • 本研究は、効率的な電力供給体制の構築に向けた政策立案のための客観的な根拠となりうる成果です。

「プロシューマー(生産消費者)」が電力市場に与える影響を解明~「デス・スパイラル」の抑制に有効な対策を提案~

東京理科大学創域理工学部経営システム工学科の高嶋隆太教授、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のYihsu Chen教授、政策研究大学院大学の田中誠教授の研究グループは、市場均衡理論を用いて、完全競争下または不完全競争下において、「プロシューマー(※1)」の増加が電力市場に与える影響を明らかにしました。また、プロシューマーを対象とした税制度を導入することで、「デス・スパイラル(※2)」を軽減できる可能性があることを実証しました。

近年、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用した発電システムの普及により、プロシューマーが増加しています。プロシューマーは主に分散型電源を利用するため、プロシューマーが増加すると、従来の集中型電源の利用者数が減少し、送電コストの増大、市場価格の高騰など、電気利用者の負担が大きくなることが懸念されています。さらに、これが継続するとプロシューマーに転向する人が増加し、電力価格高騰に歯止めが利かなくなる「デス・スパイラル」が生じます。これにより、電力基盤の運用や維持ができなくなるなど、重要な社会インフラが失われる可能性があります。そこで本研究では、プロシューマーの存在を明確に考慮した上で、市場均衡の理論を用いて、プロシューマーの存在が送電料金や市場の結果にどのような影響を及ぼすかを検証しました。

本研究の結果、プロシューマーが消費者のみとして行動する場合は、プロシューマーの割合が増加しても、送電料金は増加しないことがわかりました。また、再生可能エネルギーが大量導入された場合は、最初は需要増加に伴う送電料金の減少が生じますが、その後、プロシューマーの増加とともに送電料金も上昇する可能性が示唆されました。特に、競争的なプロシューマーの存在が、デス・スパイラル発生の機会を増加させることを実証しました。一方で、プロシューマーが市場から電気を購入する際に税を課すことで、消費者からプロシューマーに転向するインセンティブが失われ、デス・スパイラルを軽減できることを見出しました。本研究は、安定した電力市場の実現に向けた社会デザインを考える上で重要な成果です。

本研究成果は、2022年12月14日に国際学術誌「Applied Energy」にオンライン掲載されました。

研究の背景

分散型再生可能エネルギー電源を有するプロシューマーは、エネルギー供給を地域のエネルギー源にシフトさせると同時に、送電を回避することで、送電網の回復力を強化する有効な手段の1つです。プロシューマーの増加に伴い、市場の再生可能エネルギーの割合が増えるので、電気利用者は従来の集中型電源を利用せず電気を獲得・使用することができます。しかしながら、プロシューマーの割合が過度に増加すると、電気利用者が電力会社から電気を購入する機会が減少するため、送配電事業の費用回収が困難となる負の連鎖「デス・スパイラル」が発生する可能性が指摘されています。

デス・スパイラルの発生については、これまで多くの研究によって立証されてきましたが、どのような要因で生じるかについて追及した研究はほとんどありませんでした。そこで、本研究グループはデス・スパイラルを数理モデル化し、どのようなときに生じて、どのような対策を講じることで影響を軽減できるのか、その詳細を解明すべく検討を進めてきました。

研究結果の詳細

本研究グループは、完全競争下(※3)と不完全競争下(※4)において、プロシューマーの存在が送電料金や電力市場にどのような影響を与えるかを検討しました。検討にあたって、3つの企業、10基の発電ユニット、3本の送電線からなる代表的な3つのノードネットワーク(A, B, C)を用いました。ノードAでは、プロシューマーの割合を0から100%の間で10%ずつ変化させ、ノードBとCでは、プロシューマーが存在しない条件に設定しました。再生可能エネルギー出力については、異なる4つの値(500, 1000, 1500, 2000MW)を用いました。

まず、完全競争下での影響について検討を行いました。

卸売発電量については、500MWの場合を除いて、プロシューマーの割合の増加とともに一度上昇した後、減少に転じることがわかりました。また、再生可能エネルギー出力が高いほど、プロシューマーが市場から購入する電力が少なくなるため、この減少がすぐに生じることが示唆されました。

電気利用者の割合に対する送電料金の変化については、500MWでは従来の通説とは異なり、プロシューマーの比率が高くなると、送電料金が減少するという結果が得られました。これは、エネルギー出力が不足して多くの電力を市場から購入する必要があるためと考えられます。一方で、1500MWや2000MWでは、プロシューマーの割合が低い間は送電料金が減少しますが、プロシューマーの増加に伴い、高騰することがわかりました。

また、プロシューマーの振る舞いについて、500MWや1000MWでは、プロシューマーはメインの送電網からエネルギーを購入する買い手として行動し続ける一方、1500MWや2000MWでは、プロシューマーは売り手となることがわかりました。しかしながら、プロシューマーの割合が増えすぎると、電力の需要が弱まるため、卸売発電量が減少することが明らかとなりました。

完全競争下では、プロシューマーの利益を含めた社会的余剰は、プロシューマーの割合が大きくなるにつれて、より多くの再生可能エネルギーを市場に導入するようになるので、増加し続けることが明らかになりました。社会的余剰の合計は、2000MWで最も高く、500MWで最も低く、プロシューマーが提供する限界費用の低い再生可能エネルギーから市場が利益を得ているという事実と一致しています。

次に、不完全競争下での影響について検討を行いました。全体的な傾向は完全競争下と類似していましたが、500MWと1000MWの場合、完全競争下とは異なり、プロシューマー需要量が大きく減少することがわかりました。また、送電料金は、従来型電気利用者の市場消費、プロシューマーの卸売市場からの購入という2つの現象が競争的にはたらいた結果が反映されることが示唆されました。

社会的余剰については、500MWと1000MWのケースを除いて、ほとんどが完全競争下と同様であることがわかりました。プロシューマーの利益を含めた社会的余剰の総和は、プロシューマーの比率が高くなるにつれて増加し続けます。一方、不完全競争下ではプロシューマーの割合が0.6を超えると、社会的余剰は減少します。これは、プロシューマーの存在感が大きくなると、市場支配力を行使できることを示唆しています。

最後に、累進課税を導入した場合の影響について検討しました。累進課税はプロシューマーが卸売市場から電力を調達する際に適用されます。ここでは、1000MWの完全競争下を想定し、5ドル/MWhと10ドル/MWhの2種類の税額で検討を行いました。検討の結果、プロシューマーが増えると送電料金が連続的に減少し、その傾向は税額が高いほど顕著になることがわかりました。また、プロシューマーが増税時、あるいは市場での存在感が高まった場合に、送電コスト負担の割合が増加することがわかりました。その結果、本税制の下ではプロシューマーは不平等な負担を強いられるため、消費者がプロシューマーになるインセンティブが低下し、デス・スパイラルを抑制できる可能性があることを見出しました。

本研究を主導した高嶋隆太教授は、「本研究で焦点を当てたデス・スパイラルは、将来の日本でも起こる可能性のある重要なテーマです。そのため、本研究を日本の市場や送電網に応用し、そのような問題が生じないための施策の提言に貢献できると考えています」と今後の研究の拡がりに期待を寄せています。

用語

※1 プロシューマー(生産消費者):生産者を表すプロデューサーと消費者を表すコンシューマーを合わせた造語。電力市場では、自らが発電した電気を消費すると同時に、余剰分の電気を市場に供給する人を指す。

※2 デス・スパイラル:分散型太陽光発電などの再生可能エネルギー発電システムを大量に導入することによって、電力販売総量の減少、電気料金の高騰、電気料金削減のための太陽光発電システムの導入促進が生じるという一連のサイクル。最終的には、重要な社会インフラである送電網を維持できなくなるおそれがある。

※3 完全競争:多数の需要者と供給者が存在し、価格に対する影響力が行使されず、自由に競争ができる状態。

※4 不完全競争:完全競争と独占的が成立していない状態。市場で価格の決定に大きな力を持つ企業が存在する場合など、適切な競争原理がはたらかない状態。

※本研究は、アメリカ国立科学財団による支援(#1832683)を受けて実施されました。

論文情報

雑誌名

Applied Energy

論文タイトル

Death spiral, transmission charges, and prosumers in the electricity market

著者

Yihsu Chen, Makoto Tanaka, Ryuta Takashima

DOI

10.1016/j.apenergy.2022.120488

高嶋研究室

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