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2022.12.01 Thu UP

AIで新たな物理モデルを設計し、電気自動車の燃費向上に挑む
~拡張型ランダウ自由エネルギーモデルを軟磁性材料に適用、実材料の機能解明に光明~

研究の要旨とポイント

  • 電気自動車のモーター駆動効率を決定づける「保磁力」のメカニズムを解明。
  • 情報科学でランダウ自由エネルギーを拡張し、ミクロ構造とマクロ機能を超階層で接続。
  • 複雑な保磁力の予測と物理的な解釈を世界で初めて実現。
  • 電気自動車の燃費向上に寄与、クリーンエネルギー社会の実現に貢献。

AIで新たな物理モデルを設計し、電気自動車の燃費向上に挑む~拡張型ランダウ自由エネルギーモデルを軟磁性材料に適用、実材料の機能解明に光明~

東京理科大学先進工学部のAlexandre Lira Foggiatto 研究員、國井創大郎 大学院生(当時)、三俣千春 客員教授、小嗣真人教授の研究グループは、AIと物理モデルを融合させた「拡張ランダウ自由エネルギーモデル」(※1)を用いて、電気自動車の駆動効率を決定付ける「保磁力(*1)」のメカニズムを解析することに成功しました。

電気自動車の急速な普及を背景に、モーターのエネルギー変換効率を決定づける保磁力メカニズムの理解が求められています。保磁力は電気自動車の駆動効率、つまり燃費を決定づける重要な要素ですが、従来のギンツブルグ・ランダウ理論(*2)では実材料の複雑な保磁力メカニズムを解析することは困難でした。

そこで研究グループは解釈性の高い機械学習に着目し、「拡張型ランダウ自由エネルギーモデル」の基礎理論を構築するとともに、実験的な保磁力解析に成功しました。これにより、複雑な保磁力の推定と、その背後にある物理的メカニズムの解釈をともに実現することができました。

「拡張型ランダウ自由エネルギーモデル」は物理学にねざした説明能力の高いAIモデルで、ミクロ構造とマクロ機能を階層を超えて接続することが可能です。今回、実材料の保磁力メカニズムの解析に成功したことで、有用性・拡張性の高さが改めて示されました。将来的には、メカニズムが未解明なさまざまな材料へ本モデルを展開することで、クリーンエネルギー社会の実現に貢献すると期待されます。

本研究成果は、2022年11月8日に国際学術誌「Communications Physics」にオンライン掲載されました。

(関連プレスリリース)

※1:「『なぜ?』『どこ?』『どのような?』がわかる、デバイスの新たな機能設計論を実現〜トポロジーとAIを融合して、拡張型ランダウ自由エネルギーモデルを創出〜」

URL:https://www.tus.ac.jp/today/archive/20221117_5026.html

研究の背景

「軟磁性材料」は、磁場をかけると磁石になるが、磁場を除くと磁力を失う材料です。近年では電気自動車の普及にともない、モーターや変圧器などに使用される材料として自動車業界から注目を集めています。電気自動車の燃費向上にはモーターの駆動性能の改善が不可欠です。そのためには軟磁性材料のエネルギー損失を下げる必要があり、中でも「保磁力」と呼ばれる磁気機能を抑制することが重要な鍵となります。保磁力は磁壁(*3)の動きやすさによって特徴づけられ、材料の微細構造に大きな影響を受けます。

しかし実材料の磁壁は極めて複雑な挙動を示すため、保磁力のメカニズムは未だ完全に理解されていません。古典的なギンツブルグ・ランダウ理論は均一な物質を前提としているため、実材料の保磁力の解析は困難を極めます。特に金属組織の界面や欠陥は保磁力に大きな影響を与えるため、産業応用における大きな課題となっていました。

そこで本研究グループは、AIと物理モデルを融合した「拡張型ランダウ自由エネルギーモデル」を設計し、実材料の保磁力メカニズムの解析を試みました。

研究結果の詳細

実材料の保磁力メカニズムの解析を可能にする手法として、AIと物理モデルを融合した「拡張型ランダウ自由エネルギーモデル」の設計と応用を行いました。本モデルは、物理にねざした特徴量を用いて情報空間上にエネルギーランドスケープ(*4)を描画するのが特徴です。単純な変数変換と微分によって、磁区構造(*5)変化とエネルギーの関係性を構築することができます。本研究では、計算データと実験データの両方を用いてモデリングを行い、実用的な保磁力解析モデルを設計しました。

次に、パーマロイ(*6)薄膜の磁区画像をシミュレーションと実験の両方によってデータ生成しました。得られた画像の特徴量をフーリエ変換で抽出し、解釈性の高い機械学習を用いて、複雑な磁区構造の変化を二次元平面上に可視化しました。また画像から磁気的な自由エネルギーを算出し、得られた情報を融合して情報空間上に新たなエネルギーランドスケープを描画しました。その結果、ミクロな磁区構造とマクロな保磁力を階層を超えて双方向接続することに成功しました。さらに、保磁力を高精度で予測することに成功し、その物理的な起源の解釈に成功しました。このように計算データを用いて基本原理を設計し、実験データを利用することで実用的な解析モデルを実証することができました。

AIで新たな物理モデルを設計し、電気自動車の燃費向上に挑む~拡張型ランダウ自由エネルギーモデルを軟磁性材料に適用、実材料の機能解明に光明~

本研究は、これまで未解明であったモーターの駆動効率を決定づける保磁力のメカニズムに迫るもので、クリーンエネルギー社会に向けた礎となる成果です。同時に実材料における「拡張型ランダウ自由エネルギーモデル」のProof of Conceptを示した初めての例となります。本モデルは、今回のような単純な系だけでなく、複雑なメカニズムで駆動するさまざまな材料に利用できますので、今後、幅広いものづくりに貢献すると期待されます。

※本研究は、科研費基盤研究A (21H04656)の助成を受けて実施したものです。

用語

*1 保磁力
磁化反転(磁化された磁性体を逆方向に反転させること)のしにくさ。モーターの駆動効率を決定付ける重要な磁気機能。

*2 ギンツブルグ・ランダウ理論
超伝導状態への相転移を説明する理論。

*3 磁壁
磁区(*5参照)の間にできる境界層。材料のナノ構造に強い影響を受ける。

*4 エネルギーランドスケープ
物質がもつ自由エネルギーの大小を地形として表したもの。保磁力はエネルギーランドスケープの峠に相当する。

*5 磁区構造
磁気モーメントが同じ方向に揃っている小さな領域のことを磁区と呼び、磁区がどのような配置になっているかを磁区構造という。材料のナノ構造に強い影響を受ける。

*6 パーマロイ
ニッケル(Ni)と鉄(Fe)からなる軟磁性合金。

論文情報

雑誌名

Communications Physics

論文タイトル

Feature Extended Energy Landscape Model for Interpreting Coercivity Mechanism

著者

Alexandre Lira Foggiatto, Sotaro Kunii, Chiraru Mitsumata, and Masato Kotsugi

DOI

10.1038/s42005-022-01054-3

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