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2022.11.29 Tue UP

「なぜ?」「どこ?」「どのような?」がわかる、デバイスの新たな機能設計論を実現
トポロジーとAIを融合して、拡張型ランダウ自由エネルギーモデルを創出

研究の要旨とポイント

  • 次世代メモリを低消費電力化・高速化・高密度化する機能設計理論を創出。
  • トポロジー×データサイエンス×自由エネルギーの融合で顕微鏡画像の解釈を自動化。
  • デバイス駆動の原因と場所を可視化でき、さらにデバイス構造を逆設計できる。
  • 量子情報技術から電気自動車まで、さまざまなものづくりを刷新。

「なぜ?」「どこ?」「どのような?」がわかる、デバイスの新たな機能設計論を実現 トポロジーとAIを融合して、拡張型ランダウ自由エネルギーモデルを創出

東京理科大学の國井創大郎 大学院生(当時)、増澤賢 大学院生、Alexandre Lira Foggiatto 研究員、三俣千春 客員教授、小嗣真人 教授らの研究グループは、トポロジーとAIと自由エネルギーを融合した理論を設計し、顕微鏡画像データの自動的な解釈と、デバイスの逆設計に成功しました。顕微鏡画像データは、次世代電子デバイスの低消費電力化や高速化を実現する上で重要な情報源です。しかしナノスケールの磁性体(*1)は複雑な相互作用を示すため、人間の目ではメカニズムの理解や場所の特定がむずかしく、デバイス設計はトライ&エラーの繰り返しでした。

本研究では、トポロジーとデータサイエンスを融合した「拡張型ランダウ自由エネルギーモデル」を作成し、画像データの解釈を自動化しました。ナノ磁性体の情報記録の過程は、反磁界効果(*2)に支配されていることが明らかとなり、情報記録を妨げているエネルギー障壁の空間的な集中を可視化することに成功しました。さらに、本モデルを用いてエネルギー消費の少ないデバイス構造を提案することができました。

本モデルは、物理学にねざした説明能力の高いAIモデルで、メカニズムが未解明なさまざまな材料に展開可能なものです。将来的には、電気自動車のモーターや量子情報技術、Web3などに応用可能で、社会に変革をもたらすゲームチェンジャーとなるポテンシャルを秘めています。

本成果は2022年11月29日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

研究の背景

次世代電子デバイスの低消費電力化や高速化、電気自動車のモーターの高効率化など、先端材料の高度な機能設計が近年求められています。顕微鏡画像データはこれらのデバイス駆動の直接的証拠であり、機能設計における重要な情報源です。しかしナノスケールの磁性体はデバイスのナノ構造と複雑な相互作用を示すため、微細な磁気の変化がどのようにデバイス機能につながるのか、適切に解釈することは困難でした。これまでは人間が目視で解析を行ってきたため、画像データの解釈は定性的で属人性が高いことが、機能設計における深刻な課題でした。

そのため基礎的なメカニズムの理解は不十分となり、応用上はデバイス機能の向上を困難にしていました。そこで本研究グループは、トポロジーと情報科学と自由エネルギーを融合させて、「拡張型ランダウ自由エネルギーモデル」を設計し、画像データの自動的な解釈を試みました。

研究結果の詳細

本研究では、複雑な磁化反転現象(*3)の裏側にある物理的な原因と、それが働いている場所を特定可能な機能解析モデルの創成に取り組みました。古典的には磁化と磁場から磁化反転現象を説明するランダウ自由エネルギーモデルが知られていました。しかし、ランダウ自由エネルギーモデルは単結晶にしか適用できないことから、ナノ構造をもつ実材料の磁化反転現象を説明することは不可能でした。

「なぜ?」「どこ?」「どのような?」がわかる、デバイスの新たな機能設計論を実現 トポロジーとAIを融合して、拡張型ランダウ自由エネルギーモデルを創出
図1 拡張型ランダウ自由エネルギーモデルの設計

そこで本研究グループは、このランダウ自由エネルギーモデルにトポロジーとデータサイエンスを組み合わせることで、実材料を解析可能なモデルとして構築しました。具体的には、まずパーシステントホモロジー(*4)と呼ばれるトポロジーの概念を用いて、複雑な磁区構造(*5)を特徴量として抽出しました。次に解釈性の高い機械学習を用いて、情報空間上に新たなエネルギーランドスケープ(*6)を描画し、「拡張型ランダウ自由エネルギーモデル」を作成しました(図1)。

本モデルは、物理にねざした特徴量を用いて磁化反転過程を解析するのが特徴で、単純な変数変換と微分によって、磁区構造変化とエネルギー障壁の関係性を構築することができます。これによって、ミクロな磁区構造とマクロな磁化反転現象を階層を超えて双方向接続でき、さらには起源となる物理的相互作用を定量的に解析できることを意味しています。

「なぜ?」「どこ?」「どのような?」がわかる、デバイスの新たな機能設計論を実現 トポロジーとAIを融合して、拡張型ランダウ自由エネルギーモデルを創出
図2 可視化と因果解析の結果

このモデルを用いて、ナノ磁性体の情報記録の過程を解析した結果、反磁界効果が支配していることが明らかになりました。また、磁区構造変化を妨げるエネルギー障壁の空間的な集中を可視化することにも成功しました(図2)。これは、これまで目視で解析困難だったメカニズムの理解や、顕微鏡画像のわずかな変化を可視化できていることを意味します。本モデルを活用することで、肉眼では判断できずに捨てられていた顕微鏡データが「宝の山」になる可能性があるということです。

さらに、開発したモデルにもとづき、エネルギー消費の少ないナノ構造の提案にも成功しました。これはデバイスの逆設計にも応用可能であることを強く示唆する結果です。本モデルは、複雑なメカニズムで駆動するさまざまな材料に利用でき、量子情報技術や電気自動車のモーターや自律分散システムなど、幅広いものづくりに貢献するものです。

※ 本研究は、科研費基盤研究A (21H04656)の支援で主として行われ、部分的に文科省革新的パワーエレクトロニクス創出事業(JPJ009777)と科研費(19K22117, 22K14590)の助成を受けて実施したものです。

用語

*1 磁性体
磁性をもつ物質。その中でも強い磁化をもつものは強磁性体と呼ばれ、磁気メモリなどの磁気記憶媒体に用いられる。


*2 反磁界効果
磁性体の内部で生じる磁界。磁性体の大きさや形状によって複雑な振る舞いを示すため、ナノ磁性体の設計を困難にしている。


*3 磁化反転
磁化された磁性体を逆方向に反転させること。磁気メモリの情報書き込みに相当するため、デバイス性能を左右する。


*4 パーシステントホモロジー
2000年代に新しく開発された幾何学の概念で、図形を構成する点の連結性や空隙など「かたち」の情報を記述子として取り出すことができる。


*5 磁区構造
磁気モーメントが同じ方向に揃っている小さな領域のことを磁区と呼び、磁区がどのような配置になっているかを磁区構造という。デバイスのナノ構造に強い影響を受ける。


*6 エネルギーランドスケープ
物質がもつ自由エネルギーの大小を地形として表したもの。磁化反転現象はエネルギーランドスケープの谷から谷への移動に相当する。

論文情報

雑誌名

Scientific Reports

論文タイトル

Causal Analysis and Visualization of Magnetization Reversal using Feature Extended Landau Free Energy

著者

Sotaro Kunii, Ken Masuzawa, Alexandre Lira Fogiatto, Chiharu Mitsumata, and Masato Kotsugi

DOI

10.1038/s41598-022-21971-1

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