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2022.04.01 Fri UP

現実の大都市でのバイクシェアリングシステムにおける自転車の動態を解明
~バイクシェアリングシステムの再配置問題に対するアルゴリズムを複雑な現実社会で検証することが可能に~

研究の要旨とポイント

  • バイクシェアリングシステムは世界的に普及が進んでおり、自転車の不均衡な利用による自転車台数の偏りの問題を改善するためのアルゴリズムの研究が数多く行われています。
  • 本研究では、米国の4都市における偏り発生の動態を明らかにしました。これは、理論研究で開発された偏り改善アルゴリズムを現実のシステム上で評価するために必要な基準を見出すための基盤となる重要な成果です。
  • この成果は、バイクシェアリングシステムの再配置問題に対するアルゴリズムの検証に重要な役割を果たすだけでなく、社会における人の動きに関する解析にもつながる根本的かつ応用性の高いものです。

東京理科大学工学部情報工学科の池口徹教授、對馬帆南氏(博士後期課程3年、日本学術振興会特別研究員)は、バイクシェアリングシステム(BSS)における再配置効率化戦略を開発するために不可欠な現実のユーザの自転車利用履歴のビッグデータを解析し、実際に米国の4つの大都市における自転車の利用パターンの統計的特徴の類似性や規則性を明らかにし、またその規則性が都市によって一部異なることを発見しました。

近年、環境や健康などの観点から自転車利用が見直されており、BSSは従来の交通網とは異なる新たな移動手段として世界各国で普及が進み、日本国内でも多くの都市で導入が始まっています。しかし、利用者はどのポートでも自転車を借りて返却することができるため、各ポートの自転車台数の偏りが生じます。この偏りを解消する自転車輸送のための効率的な戦略が必要とされています。現実の都市における人々の動きは複雑かつ多様であることから、BSSの社会実装をさらに推し進めるためには、都市において自転車利用が偏るパターンを解明し、規則性を見出し、アルゴリズムに組み込むことが必要不可欠です。

今回の研究では、米国の4つの大都市ボストン、ワシントン D.C.、ニューヨーク、シカゴの実際のBSSで、ユーザがいつどこで自転車を利用したかという履歴を点過程データ(※1)として扱うことで、解析を行いました。その結果、上記の4都市全てのBSSで自転車の過不足が生じていることを明らかにしました。さらに、BSSにおける自転車の利用パターンは平日と週末、日中と終日で統計的特徴が類似するものの、ニューヨークと他の都市では必ずしも同じ特性を持たないことが明らかになりました。

BSSは、環境負荷が低く、健康の向上に大きく貢献するものであり、さらなる広がりを見せるなかで、BSSにおける自転車の効率的再配置戦略の社会実装への需要は高まっています。本研究により、数値モデルの社会実装において考慮すべき都市ごとのダイナミクスを明らかにすることができました。この成果は、今後の社会においてより効率的なBSSの運用に寄与するのみならず、人の動きに関するダイナミクスの解析に応用することもできると期待されます。

本研究の成果は、2022年4月1日に国際学術誌「Nonlinear Theory and Its Applications, IEICE」にオンライン掲載されました。

研究の背景

バイクシェアリングシステム(BSS)は、従来の公共交通機関よりも利便性が高く、CO2排出量低減や交通渋滞の緩和にもつながることから、持続可能な公共交通機関として注目され、世界中の多くの都市で導入されています。利用者の自由な貸出・返却により、各ポートの自転車台数に生じる偏りを解消するための自転車の効率的再配置戦略について、数学的アルゴリズムを用いた研究が数多く行われています。研究グループは、以前の研究で、現実的な時間内で最適な自転車再配置を行うための輸送車両の移動経路を見出す手法の開発に成功しました。しかし、現実のBSSにおけるポートや自転車利用のパターンなどは、理論研究で用いられるランダムな条件とは異なる実態をもつため、このような有効な自転車再配置戦略を社会実装するためには、評価基準として現実的な指標を用いて手法の妥当性を検証する必要があります。

また、近年、BSSの時系列の利用履歴(ビッグデータ)やポート情報が公開されるようになったため、実際の利用履歴のデータ解析や自転車需要予測が可能になりました。しかし、こうしたデータを用いた先行研究は、一部のBSSポートに注目して行われてきました。そこで研究グループは、社会実装のためには、都市全体のBSSの動態を明らかにし、普遍性または都市間での差異、そしてその評価指標を明らかにすることが重要だと考え、研究に取り組みました。

研究結果の詳細

研究グループは、米国の4つの大都市ボストン、ワシントンD.C.、ニューヨーク、シカゴの4つのBSSの全ポートから、レンタル自転車と返却自転車の利用履歴データを抽出し、これを用いてBSSにおける自転車の利用状況の解析を試みました。このビッグデータには、貸出・返却日、貸出・返却時間、貸出・返却ポートのID・名称、利用者の属性が含まれています。その中でも8月は年間を通じて最も自転車の使用台数が多いため、この月を利用しました。

まず、4都市のBSSにおける自転車の過不足の分布はいずれの都市でも対称的に発生していますが、BSSの規模の大きさを反映し、ニューヨークでその台数が最も多くなっていました。また、貸出・返却頻度は、都市ごとのBSS間で大きく異なり、ニューヨークは特に多いことがわかりました。8月以外の月についても同様の結果が確認されています。

次に、貸出・返却の利用履歴データを点過程データとして扱うという新たなアプローチを採用しました。まず、貸出・返却タイミングの時間間隔データを計算し、分析を行いました。具体的には、この時間間隔データのばらつき度、局所的な変動を計測することで、各ポートにおけるこの2つのイベントの時間的発生パターンがどのように振る舞うかを解析しました。その結果、貸出・返却には4都市に共通する周期的なパターンが存在し、昼間に利用が偏ることや、ニューヨークBSSで最も頻度が高い多いこともわかりました。また、4都市のBSSにおける自転車の貸出と返却の利用パターンは、平日と週末、日中 (8:00-20:59) と終日 (24h) において、統計的特徴が類似していることが示唆されました。

さらに、各ポートでの局所変動を定量的に解析することで、ニューヨークのBSSでの自転車貸出・返却イベントの時間間隔のパターンは、各イベントがランダムに他の事象の影響を受けず発生し、時間あたりの偏りが無い、といったポアソン過程の特徴を有すること明らかになりました。一方、他の都市(ボストン、ワシントンDC、シカゴ)のBSSではイベントの発生パターンは必ずしもポアソン過程に従わず、より複雑な振舞いを示すことが示唆されました。また、自転車の貸出・返却イベントの時間間隔パターンの統計的特性は、平日と週末で類似しているということも示されました。

今回の研究により、実際の都市でのBSSの貸出・返却パターンの解析に成功したことで、これまでの理論研究で開発された手法を現実に応用していくための指標の作成が可能になりました。このような現実的な指標を用いることで、社会実装を目指したモデルの改良がスムーズに進められるものと期待されます。

池口教授らは、今回の成果を踏まえて「BSSの大量のユーザ利用履歴というビッグデータを解析することで、BSSの効率的な運用にとどまらず、人の動きに関する社会的なダイナミクスの解明にもつながると考えています。また、バイクシェアリングシステムは、今後世界的にも広がると考えられており、我々の現実社会における実課題としても解決すべき重要な課題と考えています」と今後の研究の応用に期待を示しています。

※本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金JP20H00596およびJP21H03514の助成を受けて実施したものです。

用語

※1 点過程データ:あるイベントの発生時刻が記録されたデータ。

論文情報

雑誌名

Nonlinear Theory and Its Applications, IEICE

論文タイトル

Statistical analysis of usage history of bicycle sharing systems

著者

Honami Tsushima and Tohru Ikeguchi

DOI

10.1587/nolta.13.355

研究室

池口研究室のページ:http://www.hisenkei.net/
池口教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?1174

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