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2022.02.01 Tue UP

「準ホモエピタキシャル成長」による有機半導体の開発に成功
~有機太陽電池など高結晶性を有する有機半導体デバイス開発に寄与~

研究の要旨とポイント

  • 有機半導体の単結晶基板上に、基盤とは異なる物質でありながら、結晶表面に沿った面の構造が類似した誘導体を「準ホモエピタキシャル成長」させることにより、二層間の結晶格子のずれが非常に小さい薄膜を作成することに成功しました。
  • 本研究で作製した薄膜において、層間で自発的な電子移動が行われることを明らかにしました。
  • 有機半導体は塗布製膜できることから、軽量で柔軟性に富んだデバイスへの応用が期待されています。異なる有機分子間で結晶性の高い界面を実現した本研究の成果は、有機太陽電池などの有機半導体デバイスに応用できる有用な知見です。

東京理科大学理工学部先端化学科の中山泰生准教授らの研究グループは、ルブレン単結晶基板(以下RubSC)上にルブレン誘導体(ビス(トリフルオロメチル)ジメチルルブレン、以下fmRub)をエピタキシャル成長(※1)させた薄膜を作製し、fmRubがRubSC上で「準ホモエピタキシャル成長」していることを実証しました。さらに、準ホモエピタキシャル成長を利用することで、異なる有機分子間でも結晶性の高い界面を形成できることを、種々の分析法を駆使して明らかにしました。さらに、下層のRubSCから上層のfmRubに向かって電子移動が起こることも明らかにしました。本研究をさらに発展させることで、様々な材料を基板とした新規かつ高機能な有機半導体デバイス開発への貢献が期待されます。

有機半導体デバイスは、軽量、柔軟性、製造コストの低さなどの観点から次世代の光エレクトロニクスデバイスとして注目されています。半導体デバイスの特性はその結晶性に依存し、高い結晶性を有する材料ほど優れた性能を示すことが知られています。有機半導体については、その構造の多様性から様々な材料を利用した研究が行われてきましたが、結晶性の向上が大きな課題の一つでした。複数の材料を使用して結晶性の高いデバイスを実現する場合は、材料間の格子定数を一致させる必要があり、その方法が模索されてきました。
一般的に、有機分子は分子自体に柔軟性があり、ファンデルワールス力がそれほど大きくないことから、結晶多形など複数の結晶構造を形成することが知られています。この有機分子が持つ性質をうまく利用できれば、エピタキシャル成長に必要な格子定数に関する条件が緩和され、格子定数や対称性が異なる基板上でも均一に配向した結晶層を形成することができます。

以上の背景を踏まえ、本研究グループはRubSC上にその誘導体であるfmRubをエピタキシャル成長させた薄膜を作製しました。そして、薄膜表面のX線回折(XRD)(※2)、微小角入射X線回折(GIXD) (※3)、紫外光電子分光(UPS) (※4)などの各分析法を用いて、その結晶構造と電子構造の評価を行いました。様々な検討を行った結果、RubSCに対するfmRub層の結晶格子のずれが0.05Å、0.02°未満と非常に小さいことがわかりました。
異分子間であるにも関わらず、近似した格子定数を得られたことなどから、この現象を「準ホモエピタキシャル成長」と位置付けました。本研究で得られた成果は、様々な材料に応用することが可能であるので、今後の有機半導体デバイス開発に有用です。

本研究成果は、2021年11月18日に国際学術誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」にオンライン掲載されました。

「準ホモエピタキシャル成長」による有機半導体の開発に成功~有機太陽電池など高結晶性を有する有機半導体デバイス開発に寄与~

研究の背景

半導体デバイスの電気特性においては、例えば高純度のシリコンウェハのように、結晶性が良いほど優れた性能を示すとされています。有機半導体デバイスにおいては、シリコンウェハとは異なり、複数の材料が必要となるので、異種材料が形成する界面の整合性が重要とされています。材料ごとにそれぞれ固有の結晶格子を有しているため、いかに層間の結晶格子のずれを小さくするかが高性能なデバイス開発への課題でした。
そこで、本研究グループはRubSCとその誘導体であるfmRubを組み合わせることに注目しました。RubSCは多環芳香族化合物の1つであり、電荷キャリア移動度が非常に高い代表的なp型有機半導体材料です。一方fmRubは、正孔と電子の両方に対して高い移動度を持つ両極性輸送挙動を示すことが知られていました。これら2つの化合物は互いにわずかに異なる結晶格子を有しており、かつ柔軟な有機分子であるため、それらの界面がどのように形成されるのかに興味を持ち、研究を進めてきました。

研究結果の詳細

まず、RubSC上にfmRubの薄膜を形成し、XRDによる結晶性の評価を行いました。その結果から、fmRub層がRubSCの(100)面に対して、(001)方向に成長したことがわかりました。また、fmRubのc軸の高さは3.437nmであると決定されました。さらに、面外方向の平均結晶子サイズ28 nmは、上層の膜厚50 nmよりも小さかったことから、fmRub層が単結晶ではなく、面外方向にドメイン境界もしくは複数の結晶相を含んでいることが明らかとなりました。数多くある回折点の強弱を解析することにより、fmRubの結晶格子のa軸とb軸が、それぞれRubSCの結晶格子のb軸とc軸に対して平行になり、fmRubがRubSCの(100)面上でエピタキシャル成長していることを確認しました。
次に、微小角入射X線回折(GIXD)を行い、薄膜の結晶構造に関するさらなる評価を行いました。この分析結果より、fmRubの結晶格子はRubSCの結晶格子とほぼ一致し、結晶格子のずれは0.005nm、0.02°未満であることがわかりました。また、fmRubがRubSCの(100)表面で準ホモエピタキシャル成長をしていると結論付けました。
さらに、紫外光電子分光法(UPS)による測定を行い、薄膜表面の電子状態を評価しました。その結果、RubSCからfmRubに向かって電子移動が生じていることが分かりました。また、RubSCからfmRubへの上方へのバンドの曲がりが生じていることが明らかとなりました。これは、おそらくRubSCからfmRubへのわずかな電子移動の発生によって引き起こされたものと考えられます。
今回の研究成果について、中山准教授は「分子結晶の界面について、結晶構造が近い材料を組み合わせたらどのような結晶成長が起こるのか、界面の結晶の質は良くなるのか、などの疑問を解決したいというのが本研究における個人的な動機でした。有機半導体の特性を利用すると、透明フィルムや布地に半導体デバイスをプリントして持ち運んだり身に付けたりすることが可能になります。本研究の成果を太陽電池に応用すると、ストレスなく身に付けられ、どこでも高効率に発電できるので、充電を必要としない生活が実現するかもしれません」と話しています。

用語

※1 エピタキシャル成長(epitaxial growth):薄膜製造技術の1つで、半導体の単結晶基板上に新規の結晶層を成長させること。基板と同じ物質を積層することをホモエピタキシャル成長、基板と異なる物質を積層することをヘテロエピタキシャル成長という。

※2 X線回折法(X-ray diffraction; XRD): 試料にX線を照射し、回折されたX線を測定することにより、試料の結晶構造を調べることができる分析法。物質の同定や結晶化度測定なども行うことができる。

※3 微小角入射X線回折法(grazing-incidence X-ray diffraction; GIXD): 薄膜材料などの薄い試料に対して、その表面構造を評価する際に用いられる分析法。材料の表面にX線を入射し、全反射する角度の前後で少しずつ角度を変化させて測定を行うことで、表面やそれよりわずかに内部の分子構造を調べることができる。

※4 紫外線光電子分光法(Ultraviolet photoelectron spectroscopy; UPS):試料に紫外線を照射することで放出された電子の運動エネルギーを測定し、試料表面の価電子状態を調べる分析法。

※本研究は、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業「分子・物質合成プラットフォーム」(JPMXP09S19MS0018, JPMXP09S20MS0007, JPMXP09S21MS0010)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(JP21H05405 and JP21H05411)、双葉電子記念財団、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「さきがけ」(JPMJPR2101)の助成および高輝度光科学研究センター(JASRI)および放射光科学国際諮問員会の承認を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名

The Journal of Physical Chemistry Letters

論文タイトル

Quasi-homoepitaxial junction of organic semiconductors: a structurally seamless but electronically abrupt interface between rubrene and bis(trifluoromethyl)dimethylrubrene

著者

Kana Takahashi, Seiichiro Izawa, Naoya Ohtsuka, Atsuko Izumiseki, Ryohei Tsuruta, Riku Takeuchi, Yuki Gunjo, Yuki Nakanishi, Kazuhiko Mase, Tomoyuki Koganezawa, Norie Momiyama, Masahiro Hiramoto, and Yasuo Nakayama

DOI

10.1021/acs.jpclett.1c03094

研究室

中山研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/oml/
中山准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?6b37

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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