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2021.11.18 Thu UP

力学系理論と機械学習を組み合わせた燃焼振動の予兆検知法を開発
~航空機エンジン用燃焼器の開発に有用な技術につながると期待~

研究の要旨とポイント

  • 燃焼振動は燃焼器の破損や短寿命化に繋がるため、その予兆検知法の研究開発は航空技術分野における重要な課題です。
  • 力学系理論と機械学習を組み合わせた新たな手法を開発し、燃焼振動の予兆検知に有用であることを示しました。
  • 本研究の成果は、今後の燃焼器開発におけるヘルスモニタリング技術の一つとなることが期待されます。

東京理科大学工学部機械工学科の後藤田浩教授、同大学大学院工学研究科機械工学専攻の新地悠平氏(2020年度修士課程修了)、武田直大氏(2019年度修士課程修了)は、宇宙航空研究開発機構航空技術部門の吉田征二主任研究開発員、庄司烈研究開発員との共同研究により、力学系理論と機械学習を組み合わせた方法論が、航空機エンジン用ステージ燃焼器(※1)で発生する燃焼振動の予兆検知に有用であることを明らかにしました。

燃焼振動は、燃焼器の内部の圧力変動と発熱変動の強い相互作用によって発生する熱音響自励振動です。燃焼器が強い燃焼振動にさられると燃焼器各部に亀裂や破損が生じ、航空エンジンの短寿命化に繋がる恐れがあります。本研究グループは、力学系理論に基づくリカレンス定量化解析(※2)と機械学習の1つであるサポートベクトルマシーン(support vector machine: SVM)(※3)を組み合わせ、航空機エンジン用ステージ燃焼器[1]内で生じる燃焼振動の予兆検知を試みました。Joint-dimensional-vicinity(Jd)とリカレンス決定度(De)という2つの特徴量からなる二次元平面(Jd - De平面)に対して、k平均法(※4)とSVMを適用し、潜在空間を求めました。本手法によって、①安定燃焼状態、②安定燃焼から燃焼振動への遷移状態、③十分に発達した燃焼振動の境界を明確に定めることができました。本研究で得られた成果は、様々な燃焼器で発生する燃焼振動の予兆検知法の体系化に寄与していくと期待しております。

本研究成果は米国航空宇宙学会(American Institute of Aeronautics and Astronautics)の学術誌「AIAA Journal」の第59巻第10号(10月発行)に掲載されました。

研究の背景

燃焼は今日のエネルギー供給技術として重要な役割を担っていますが、燃焼振動の発生が燃焼器開発において大きな問題となっています。燃焼振動が発生すると、燃焼器の耐久性の低下、さらには燃焼器の破損に繋がることが懸念されます。そのため、発電用ガスタービンエンジン、航空エンジン、ロケットエンジンなどを対象とした実用燃焼器の研究開発において、燃焼振動の予兆検知技術は非常に重要です。
近年では、人工知能技術の進展により、燃焼工学分野への機械学習の応用が模索され、燃焼振動現象への適用が進みつつあります。本研究グループは、これまでに複雑ネットワークとサポートベクトルマシーンを組み合わせた方法論を提案し、実験室レベルの燃焼器を対象とした燃焼振動の予兆検知に関する研究を進めてきました[2]。本研究では、宇宙航空研究開発機構航空技術部門との共同研究として、航空機エンジン用ステージ燃焼器[1]を対象に、リカレンス定量化解析とSVMを組み合わせた新たな方法論の開発を目的としました。

研究内容の詳細

本研究は、宇宙航空研究開発機構グリーンエンジンプロジェクトにおいて製作されたステージ燃焼器[1]を用い、燃焼試験は同機構が保有する高温高圧燃焼試験設備[3]で行われました。なお、クルーズ条件や航空機の離着陸サイクル条件とは異なる実験条件下で、人為的に燃焼振動を発生させました。燃焼器へ供給する主燃料流量(Wf,m)を増加させたときの燃焼器の圧力変動を計測しました。Wf,mを増加させるにつれて、振幅が小さく非周期的な挙動を有する安定燃焼から、周期的な振動が突発的に現れる間欠的振動を経て、発達した大振幅の燃焼振動が観察されました。
横軸にjoint-dimensional-vicinity (Jd)を、縦軸にリカレンス決定度(De)をとった二次元平面において、Wf,mの増加に伴う安定燃焼から燃焼振動への変化を捉えました。この平面にk平均法とSVMを適用して得られる潜在空間上で、燃焼状態を➀安定燃焼、➁安定燃焼から燃焼振動への遷移状態、➂十分発達した燃焼振動に分類することができました。
潜在空間において、Wf,mを過渡的に変化させ、燃焼振動の予兆検知を試みました。11.0 s ≤ t ≤ 17.0 sのとき、➀安定燃焼状態と➁安定燃焼から燃焼振動への遷移状態が交互に形成されました。これは燃焼振動の前兆現象の現れを示していることから、本手法がステージ燃焼器内の燃焼振動の予兆検知に有用であることが明らかとなりました。今後、様々な試験条件下において本手法の有効性を示していく必要がありますが、力学系理論と機械学習を組み合わせた方法論が燃焼振動の予兆検知技術の高度化に繋がっていくと考えています。

参考文献

[1] T. Yamamoto, K. Shimodaira, S. Yoshida, and Y. Kurosawa, Journal of Engineering for Gas Turbine and Power, vol. 135, 031502 (2013).

[2] T. Kobayashi, S. Murayama, T. Hachijo, and H. Gotoda, Physical Review Applied, vol. 11, 064034 (2019).

[3] 下平 一雄, 山田 秀志, 牧野 敦, 山本 武, 林 茂, 宇宙航空研究開発機構研究開発資料, JAXA-RM-05-007, (2006).

用語

※1 ステージ燃焼器:空気に対して高い割合の燃料を含み、安定的な燃焼を確保するステージと、燃料の割合が希薄で、NOxの排出を抑えるステージを有し、エンジンの負荷に応じて燃料を供給するステージを切り替えることで低NOx化を図る燃焼器。

※2 リカレンス定量化解析:時系列データから埋め込まれた位相空間内の軌道群の秩序・非秩序構造を定量化する手法。

※3 サポートベクトルマシーン:教師あり機械学習によるパターン分類に用いられる。決定境界と各データ値との距離(マージン)の最大化に着目した学習法。

※4 k平均法(k-means法):データ間の重心位置に基づいてクラスタリングを行う方法。

論文情報

雑誌名

AIAA Journal

論文タイトル

Early Detection of Thermoacoustic Combustion Oscillations in Staged Multisector Combustor

著者

Yuhei Shinchi, Naohiro Takeda, Hiroshi Gotoda, Takeshi Shoji, Seiji Yoshida

DOI

10.2514/1.J060268

研究室

後藤田研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/gotodalab/
後藤田教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?6b4f

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