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2021.05.24 Mon UP

炭素繊維強化プラスチックの高自由度設計技術を開発
~強度を保持し軽量化に成功、よりエコな部品の実現に期待~

研究の要旨とポイント

  • 航空機の主要な部品の材料として多く用いられる炭素繊維強化プラスチックの積層構造を、従来の手法よりも高い自由度で設計できる新たな手法を開発しました。この手法は、計算コストが低いという点でも優れています。
  • 本研究で開発された手法を用いて航空機の翼板の構造モデルを設計したところ、強度を高く維持したまま、従来の手法で作ったモデルよりも約5.6%もの軽量化を達成できました。
  • 将来的には、本手法を活用することによって、炭素繊維強化プラスチックを用いた航空機や自動車をより軽量化することができ、省エネルギーやCO2排出削減に貢献できる可能性があります。

東京理科大学理工学部機械工学科の松崎亮介准教授、森勇人氏(研究当時、修士課程2年)、粂川尚哉氏(修士課程2年)の研究グループは、強度を保持したまま炭素繊維強化プラスチックをより軽量化する手法を新たに開発しました。炭素繊維強化プラスチックは金属より軽くプラスチックよりも強い材料で、航空機や自動車の部品に多く活用されています。本手法は炭素繊維テープの厚さや幅を位置による最適化を、低い計算コストで実現します。この研究成果はComposite Structures誌に掲載されました。

炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics, CFRP)は、炭素繊維をプラスチックでつなぐことで強化した素材で、金属のように錆びることもなく、高温下でも形状を保つことから、CFRPは航空宇宙、自動車、土木などの分野で広く活用されています。

しかし、従来の一般的なCFRP積層板は直線的で1層の厚さも固定されていることから、CFRPの力学的特性を十分に発揮できていないという課題がありました。そこで現在、AFP(Automated fiber placement)法(*1)という自動積層技術を改良し、繊維テープの方向、幅や厚さを自在に制御できる技術の開発が進んでいます。
本研究では、こうした技術の進歩を受け、複合材料構造中の位置によって方向と厚さを最適化する新たな手法の構築を行いました。

今回開発した新手法を用いて、航空機の翼板の構造のモデルを設計したところ、強度を高く維持したまま、従来型よりも約5.6%も軽量化できました。本手法は計算コストも低く、製造しやすいように構造を調整することもできます。これは炭素繊維テープの厚さや幅を最適化できる画期的な手法であり、今後、CFRP部品のさらなる軽量化によって省エネルギー、二酸化炭素排出の低減が可能になれば、環境保全にも大きく貢献できる可能性を秘めています。

研究の背景

研究チームは、以前から、曲がったCFRP炭素繊維の配置を最適化する問題に取り組んでいました。戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」への参画を機に、これまで培った配置最適化に関する知見を活かして日本の産業発展に貢献しようと本研究に取り組みました。

CFRPは異方性(*2)を持つことから、積層する炭素繊維テープの幅や厚さ、向きといった構造によって特性が変化します。そのため、部品中のCFRPの幅や厚さ、向きを高い精度で制御することで、複雑な形状でありながら高い性能を示すCFRP部品を製造できると期待されます。

CFRPの応用先として期待される工業製品として、ボルト孔のような円形の穴をもつ板材が挙げられます。こうした板材は、一部に力が集中するため破断しやすいという問題(Open Hole Tensile Problem, OHT問題)を抱えています。飛行機の翼板などには円形の穴をもつ板材が使われており、強度の向上は重要な課題です。このOHT問題の解決を目指し、部品内の主応力(*3)の方向に沿って炭素繊維テープを配置することで板材の強度を向上する手法や、主応力方向に沿ったテープ配置の最適化に加えて、機械学習を用いた最適化も併用する手法などが、これまでに提案されています。しかし、これらの先行研究は強度向上を目的としたもので、強度向上と軽量化を両立する手法はほとんど検討されていませんでした。

近年、AFP法や3Dプリンティングといった、コンピュータによる機械制御で、複雑な形状のCFRPを成形する技術の開発が進み、炭素繊維テープの厚さや幅、向きが制御できるようになりました。その一方で、構造を設計するために必要な変数が増加し、CFRPの構造設計の計算コストが課題となっていました。

そこで研究グループは、炭素繊維の向きと厚さを同時に設計する、計算コストの低い手法を提案しました。

研究結果の詳細

本手法は準備、反復、修正の3つの段階からなります。まず、準備段階では部品を細かい要素に分け、有限要素法(Finite Elemental Method, FEM *4)によって部品中に発生する応力(*5)を計算し、炭素繊維テープを積み重ねる層数を決定しました。この層数を変数として、荷重に対して材料の強度を示す破壊指数(*6)が1未満に、つまり強度が十分になるように、炭素繊維テープの方向と厚さを部品内の位置ごとに決定しました。

次に反復段階では、各要素の炭素繊維テープの向きと厚さを決定しました。主応力の方向から位置ごとに暫定的な炭素繊維テープの向きを決め、最大応力理論(*7)と二分法(*8)による反復計算を行うことで、計算コストを抑え、炭素繊維テープの厚さを決定しました。

最後に、修正段階では、製造のしやすさを考慮した修正を行いました。反復段階で得られた繊維の向きと太さを忠実に反映させながら、隣接する要素同士で向きと幅を近づけ、製造過程で炭素繊維テープの束を配置できるように調整しました。

この手法を用いて設計した航空機の翼板の構造のモデルと、従来の太さや厚さが一定で直線的な炭素繊維によるモデルを比較しました。その結果、本手法で設計したモデルでは、破壊指数を約0.7という1以下の値に抑えたまま、従来モデルよりも重量を約5.6%も軽量化できました。

今回の研究成果について、松崎准教授は「複合材料構造成形時に繊維テープの幅や厚さまで場所により最適化させることが可能になり、『幅・厚さは一定』という、これまでの複合材料設計の常識を超えた設計が可能になりました。本研究で開発した自由度に高い設計手法を活用すれば、航空機や自動車をより軽くすることができ、省エネルギー、CO2排出低減に貢献できます」と、今後の応用への期待と意欲を示しています。

※本研究は、内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「統合型材料開発システムによるマテリアル革命」(管理法人:国立研究開発法人科学技術振興機構)研究開発課題「薄層材自動積層によるCFRPの3D高自由度設計技術の開発」の助成を受けて実施したものです。

本プロジェクトの概要は、下記のURLをご参照ください。
B3 薄層材自動積層によるCFRPの3D高自由度設計技術の開発
https://www.jst.go.jp/sip/p05/team-b.html

用語解説

*1 AFP(Automated fiber placement)法:曲面形状を持つ製品の積層に用いられる自動積層技術。「トウ」と呼ばれるテープ状に切断されたプリプレグを複数本並べて積層する。

*2 異方性:どの方向に負荷がかかっても同じ特性を示す「等方性」に対し、負荷がかかる方向によって異なる特性を示す性質のこと。

*3 主応力:物をずらすような力であるせん断力が0になる面に対して、垂直にかかる力のこと。

*4 有限要素法:複雑な構造や形状をもつ部品を単純な細かい要素に分割することで、部品全体の振る舞いを数値的に解析する手法。

*5 応力:物体の内部にはたらく、単位面積あたりの力。

*6 破壊指数:複合材料による積層構造が破損する可能性を表す量。1.0以下であることが望ましく、1.0を超えるとその材料は破損する。

*7 最大応力理論:材料によって決まる強度に材料内にはたらく最大の主応力が達したとき、その材料が破損すると考える理論。最大主応力説とも呼ばれる。

*8 二分法:方程式の解を含む区間の中点を求める操作を反復することで、方程式の解を求める数値解析の手法。

論文情報

雑誌名

Composite Structures

論文タイトル

Variable thickness design for composite materials using curvilinear fiber paths

著者

Yuto Mori, Ryosuke Matsuzaki, Naoya Kumekawa

DOI

10.1016/j.compstruct.2021.113723

松崎研究室

研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/rmatsuza/
松崎准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?655B

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