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2021.05.19 Wed UP

コロナ禍における通所介護の利用控え、訪問介護ではなく女性による家庭内介護が代替に
~家庭内介護と就労の両立を可能にする施策が急務~

研究の要旨とポイント

  • 本研究では、地域レベルの集計データを用いて、日本におけるCOVID-19の第一波感染拡大が、在宅介護と労働に与えた影響を解析しました。
  • その結果、通所介護だけではなく、政府が代替を推奨している訪問介護でも利用控えが起きており、女性による家庭内介護によって代替されていることが示唆され、今なお家庭内介護の担い手は女性であることが示されました。
  • コロナ禍の長期化による経済状況の悪化が進めば、女性の介護離職が増加する可能性もあることから、柔軟な介護休暇取得支援策など、家庭内介護と就労の両立を可能にする施策の必要性が示唆されました。

東京理科大学経営学部ビジネスエコノミクス学科の菅原慎矢准教授、日本大学総合科学研究所の中村二朗教授は、日本におけるCOVID-19の第一波感染拡大期において、通所介護だけではなく政府が代替を推奨している訪問介護でも利用控えが起きており、女性による家庭内介護によって代替されていることを、地域レベルの集計データから明らかにしました。本研究成果は、2021年4月30日に国際学術誌「Healthy Policy」のオンライン版に掲載されました。

老人ホームや病院での介護を必要とする高齢者は、COVID-19パンデミックの影響を受けやすいという知見は蓄積されつつありますが、在宅介護に対するCOVID-19パンデミックの影響についてはあまり研究が進んでいません。

そこで菅原准教授らは、地域レベルの集計データを用いて、日本におけるCOVID-19の第一波感染拡大が、在宅介護と労働に与えた影響を分析しました。その結果、通所介護の利用控えに加え、政府が代替を奨励していた訪問介護部門でも利用控えが起きていたことも示されました。
さらに、労働時間に関する分析からは、全国でのPCR陽性者数と労働時間には、男女ともに負の相関があることが示されましたが、一方で、地域でのPCR陽性者数に関しては、女性の労働時間にのみ、有意な負の相関が見られました。これは、女性の労働状態が、感染拡大により影響を受けやすいことを示唆しています。さらに、通所介護の利用控えが、女性による家庭内介護によって代替されていることを示唆する分析結果も得られました。

これは、コロナ禍の長期化による経済状況の悪化が進めば、女性の介護離職が増加する可能性があることを示す結果であり、柔軟な介護休暇取得支援策など、家庭内介護と就労の両立を可能にする施策が急務です。

研究の背景

COVID-19の感染拡大は私たちの生活を一変させました。中でも、介護の主な受け手である高齢者は特にCOVID-19による影響を受けやすいということが、世界的に広く報告されています。しかし、そうした知見は老人ホームや病院を対象とした研究が主であり、COVID-19感染拡大が在宅介護に与える影響については、あまり研究が進んでいないのが現状です。

日本では2000年に創設された介護保険制度のもと、在宅介護を受ける本人だけでなく、介護を行う家族に対する支援も行われています。実際、介護保険制度は介護を行う女性の労働参加を促進したという研究結果も発表されています。

そこで菅原准教授らは、COVID-19の直接的な影響だけではなく、介護を介して家族の労働状況に与える間接的な影響も解析しました。研究対象は、在宅における公的介護サービスの中でもっとも大きなウェイトを占める在宅医療とデイケアサービスとしました。

これまでに、COVID-19感染リスクを避けるためデイケアサービスの利用控えが生じています。デイケアサービスの利用控えにより在宅介護の割合が増加した国もいくつか報告されており、オーストラリアでは、インフォーマルな(非専門家による非公式な)在宅ケアによって代替されていると報告されています。しかし、育児を行う女性の労働状況に対するCOVID-19の影響については数多く研究が行われている一方、介護者の労働状況に対するCOVID-19の影響については知見が乏しいのが現状です。

研究結果の詳細

各都道府県が発表する月ごとの勤労統計データを用い、COVID-19パンデミックと介護サービス利用状況の関係、COVID-19パンデミックと労働状況の関係、介護サービス利用状況と労働状況の関係について、それぞれ回帰分析を行いました。

その結果、COVID-19のPCR陽性者数と、介護における通所介護部門の利用者数との間に、全国的にも地域的にも、負の相関があることが示されました。これは、密な環境を生みがちな通所介護を人々が避けたものと解釈できます。こうした通所介護の利用控えに加え、政府が代替を奨励していた訪問介護部門でも利用控えが起きていたことも示されました。

さらに、労働時間に関する分析からは、全国でのPCR陽性者数と労働時間には、男女ともに負の相関があることが示されましたが、一方で、地域でのPCR陽性者数に関しては、女性の労働時間にのみ、有意な負の相関が見られました。これは、女性の労働状態が、感染拡大により影響を受けやすいことを示唆しています。さらに、通所介護の利用控えが、女性による家庭内介護によって代替されていることを示唆する分析結果も得られました。

これらの結果は、地域の集計データを用いており、より個人レベルの詳細なデータを用いた解析が今後必要となるでしょう。また、今回の解析には、より労働時間を変更しやすいパートタイム労働者についてのデータは含まれていないため、労働状況に対するパンデミックの影響が過小評価されている可能性もあります。

さらに、本研究では、COVID-19の第一波感染拡大のみを対象とし、第二波、第三波のデータは含まれていません。今後、コロナ禍が長期化すれば、影響はより多方面におよぶと予想されます。例えば、第一波は労働時間に主に影響を与えましたが、このままパンデミックが長引けば、失業率にも影響が及ぶ可能性があります。さらに、コロナ禍でのデイケアの利用控えが続けば、デイケアサービスは営業停止を余儀なくされるかもしれません。今後、パンデミックによる影響の全体像を明らかにするためには更なる研究が必要です。

※ 本研究は、日本学術振興会の科学研究費基盤研究(B)(20H01514)の助成を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名

Health Policy

論文タイトル

Long-term care at home and female work during the COVID-19 pandemic

著者

Shinya Sugawara, Jiro Nakamura

DOI

10.1016/j.healthpol.2021.04.013

菅原研究室

研究室のページ:https://sites.google.com/view/shinya-sugawara/home
菅原准教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?6d84

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