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2021.03.24 Wed UP

近赤外線ハイパースペクトルイメージングでマウス肝臓中の脂質濃度可視化に成功
~肝臓中の脂肪酸を鑑別する非侵襲・非標識方法の開発への第一歩~

東京理科大学
大阪市立大学

研究の要旨とポイント
  • ●肝臓内の脂質分布と肝疾患の間には密接な関係があることから、肝臓における脂質分布を非侵襲・非標識で定量的に計測できる手法の開発が求められています。
  • ●本研究では、機械学習を組み入れた近赤外線ハイパースペクトルイメージングを活用し、マウスの肝臓中の脂質濃度を可視化する手法を開発しました。
  • ●本イメージング技術は、非標識のまま肝臓内の脂質組成と局在の観察を可能にする新たなツールになり、脂肪肝や脂肪肝を素地とする肝疾患の発病機序の解明にも貢献すると期待されます。

東京理科大学基礎工学部材料工学科の大久保喬平助教、曽我公平教授、大阪市立大学大学院医学研究科分子生体医学講座病態生理学の大谷直子教授らの研究グループは、機械学習を組み入れた近赤外線ハイパースペクトルイメージングを活用し、マウスの肝臓中の脂質濃度を可視化する手法を開発しました。本研究は肝臓中に存在する脂肪酸鑑別の第一歩と位置付けられる重要な成果であり、本イメージング技術は、非標識のまま肝臓内の脂質組成と局在の観察を可能にする新たなツールになると期待されます。

肝臓組織における過剰な脂質の蓄積は非アルコール性脂肪性肝疾患の特徴とされており、脂質分布と肝疾患の間には密接な関係があることが明らかになりつつあります。肝臓における脂質分布は、脂肪肝と脂肪肝に関連した肝炎や肝がんの重症度を診断する重要な手がかりにもなります。そのため、脂質分布を非侵襲・非標識で定量的に計測できるモダリティの開発が求められています。
本研究では、マウスの肝臓を対象として、近赤外域における微弱な吸収を利用したハイパースペクトル画像を取得し、部分的最小二乗回帰(partial least square regression: PLSR)とサポートベクトル回帰(support vector regression: SVR)による回帰分析を行いました。その結果、正規化手法の一つである標準正規変量(standard normal variate: SNV)変換による前処理を行ったSVRでは、決定係数は0.97と高い値を示し、PLSRよりも優れていました。このことから、SVRを利用した機械学習によって、マウスの脂質の定量的な分布が可視化できることが示されました。
近赤外線に対する分子の微弱な吸収を手がかりにした非標識・非侵襲な本イメージング技術は、非アルコール性脂肪性肝疾患の診断への応用、そして脂肪肝の発病機序の解明に役立つと期待されます。

近赤外線ハイパースペクトルイメージングでマウス肝臓中の脂質濃度可視化に成功<br />~肝臓中の脂肪酸を鑑別する非侵襲・非標識方法の開発への第一歩~

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【研究の背景】

非アルコール性脂肪性肝疾患は、世界的に最も一般的な肝疾患の一つで、肝硬変や肝細胞がんに進行することもあります。肝臓組織におけるトリグリセリドなどの脂質の過剰な蓄積は、非アルコール性脂肪性肝疾患の顕著な特徴です。非アルコール性脂肪性肝疾患の確定診断には肝臓組織の生検を行いますが、生検には採取の際のエラーや複数回の採取が難しいこと、侵襲性の高さなどの限界があり、非侵襲で定量的に診断できる方法の開発が求められています。
非アルコール性脂肪性肝疾患の診断に用いられる非侵襲な方法としては超音波検査とCTがあります。しかしこれらは感度が十分ではなく軽度の肝硬変やわずかな脂肪含量の変化を高精度で検知することはできないため、現在MRIが最も正確に肝臓の脂肪含量を定量的に計測できる方法とされています。しかしMRIも空間解像度は1〜2mmと十分ではないため、より高い空間解像能を持ち、非侵襲かつ定量的に素早く診断できるモダリティの開発が必要です。超音波イメージングと光音響イメージングの組み合わせや、ナノプローブを使用した光音響イメージングによる脂質の定量化が可能であることが示されていますが、非標識の、特に肝臓の脂質含量の測定法についてはあまり研究が進んでいません。
ハイパースペクトルイメージングは非侵襲・非接触・非イオン化・非標識であることから、近年医療分野で注目を集めています。医療分野におけるハイパースペクトルイメージングでは、血管の可視化やがんの検出、腹腔鏡手術のガイドなどで近赤外光(>700nm)が使用されます。こうした近赤外線ハイパースペクトルイメージングと機械学習を組み合わせることにより、脂質の検出が可能であることが示されつつありますが、肝臓についての知見はまだ少ないのが現状です。
そこで研究グループは、摘出したマウスの肝臓を対象に、近赤外線ハイパースペクトルイメージングと機械学習を活用して脂質の定量的な可視化を行いました。

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【研究結果の詳細】

研究グループはまず、脂質含量の異なる肝臓を持つマウスを準備するために、標準的な食餌を与えた群と、高脂肪食を与えた群に分けました。高脂肪食群はさらに食餌の材料の配合の違いによって3つの群に分けました。そして脱血したマウスから肝臓を摘出し、約3mmの厚みの切片を作成し、近赤外線ハイパースペクトルイメージングで画像を取得しました。その結果、脂質含量の変化は近赤外線吸収スペクトルに顕著な影響を与えました。
次に、得られた画像のスペクトル域1000-1600nmをPLSRとSVRの両方で解析しました。実際の脂質含量は、同じサンプルを用いてFolch法による脂質抽出を行い、計測しました。その結果、前処理としてSNV変換を行ったSVRでは決定係数は0.97、平均絶対誤差は10.9mg/g(8.5%)と、PLSRよりも優れた結果を示しました。さらに、SVR分析に基づくカラーマッピングも行った結果、それぞれの肝臓サンプルにおいて脂質は不均一に分布していることが示唆されました。

これらの結果は、近赤外線ハイパースペクトルイメージングは生体外における脂質含量を調べる有望なアプローチであることを示しています。このイメージング技術は肝臓における脂質の分布を非侵襲に調べることができる新たな手法になり、非アルコール性脂肪性肝疾患の診断を進歩させると同時に、脂肪肝の発病機序の理解にもつながると期待されます。

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論文情報

雑誌名
Biomedical Optics Express
論文タイトル
Visualization of quantitative lipid distribution in mouse liver through near-infrared hyperspectral imaging
著者
Kyohei Okubo, Yuichi Kitagawa, Naoki Hosokawa, Masakazu Umezawa, Masao Kamimura, Tomonori Kamiya, Naoko Ohtani, Kohei Soga
DOI
10.1364/BOE.413712

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【発表者】

大久保喬平 東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 助教 <責任著者>
梅澤雅和  東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 博士研究員
上村真生  東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 講師
神谷知憲  大阪市立大学 大学院医学研究科 分子生体医学講座 病態生理学 助教
大谷直子  大阪市立大学 大学院医学研究科 分子生体医学講座 病態生理学 教授
曽我公平  東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 教授

【研究に関する問い合わせ先】

東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 助教
大久保 喬平(おおくぼ きょうへい)
E-mail:kyohei.okubo【@】rs.tus.ac.jp

大阪市立大学大学院 医学研究科 分子生体医学講座 病態生理学 教授
大谷 直子(おおたに なおこ)
E-mail:ohtani.naoko【@】med.osaka-cu.ac.jp
【@】を@に変更してください。

【報道・広報に関する問い合わせ先】

大阪市立大学 広報課(担当:上嶋)
TEL:06-6605-3411
E-mail:t-koho【@】ado.osaka-cu.ac.jp
【@】を@に変更してください。

曽我研究室
研究室のページ:http://ksoga.com/lab/
曽我教授のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?440b
大久保助教のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?7086

上村研究室
研究室のページ:https://www.kamimura-lab.jp/
上村講師のページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?696d

東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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