ニュース&イベント NEWS & EVENTS

2019.05.15 Wed UP

より精密に「かたち」を描く
~3Dイメージングのための新たな手法を開発、地球物理学や材料科学への応用に期待~

研究の要旨とポイント
○トモグラフィーによる3Dイメージングの効率を向上させ、新たな数学的手法を開発しました。
○トモグラフィーは、X線や音波などの波を使用して、透過度や反射率の違いを利用して、対象物を破壊することなく内部の3D構造を描き出す手法です。
○新開発の手法により、トモグラフィーの応用範囲の拡大や、コストの低減が期待できます。

【研究の概要】
東京理科大学理工学部土木工学科の東平光生(とうへい・てるみ)教授らの研究グループが、トモグラフィーの効率と精度を向上させる、新たな数学的手法を開発しました。 トモグラフィーとは、X線や音波などの波動を使用し、透過度や反射率の違いを利用して、対象物を破壊することなく内部の3D構造を描き出すことのできるイメージング手法であり、CTスキャンや、音波を使ったコンクリートの強度試験などに幅広く使われています。

東平教授らは、少数のセンサーグリッド(グリッド上の点の空間分布)を用いて、点散乱源の複雑な分布をより効率よく記述するための数学的な枠組みを設定しました。この新たな枠組みによって、トモグラフィーの効率が改善し、より低コストかつ精確なイメージングが可能になると期待されます。

【背景】
私たち人間の知覚できる世界を、視覚や触覚の限界を超えて拡張することができる。これは、科学の大きな恩恵の1つです。構造体の内側や地下など、見えないものを見るための技術の多くには、光や音波、放射線などの波の「散乱」によって得られる情報が使われています。 東平教授らのグループは「逆散乱解析」と呼ばれる数学的な問題に取り組むことで、これまでには見えなかった、見えにくかったものの構造をより効率良く再現する手法を開発しようとしています。

【数学的手法の詳細】
東平教授らは、ラメ定数(物体に力を加えたときの、物体の形の変化のしやすさを表す数)と質量密度が周囲から異なる領域を検出するための数学的な方法論を新たに展開しました。 この領域を点散乱源の集合で数学的に表現できると仮定することで複雑に分布する多数の点散乱源の位置を精度良く推定してイメージングをおこないます。今回の手法について東平教授は「この逆散乱解析の技術は、複数の散乱源の間で複雑に分布している多数の点散乱源のイメージングが比較的の少数のセンサーで可能となり、今後、地下探査、材料の非破壊検査に用いる効率的かつ高精度なトモグラフィーのための基礎理論となる。」と説明しています。

音波などの波動が物体に入射するとき、これらの波は、物体内の散乱体と相互作用して散乱します。散乱波には散乱体の物理的な性質の痕跡が残されており、これを解析することで、対象となった物体の位置や特性を知ることができます。このような解析を「逆散乱解析」と呼びます。散乱波を数学的に記述するためには「グリーン関数」が必要になります。グリーン関数はある特定の点で発生した波の振る舞いを、それとは異なる点で観測した結果を表す際に用います。今回の手法では、まず、「最急降下法」を用いて新たに「擬似射影子法」を数学的に展開しました。このようにしてグリーン関数から2点間の距離が一定以上離れた場合(遠距離場)の特性の情報を抽出しました。次に、近接場および遠距離場でのグリーン関数の特性を用い、散乱体の位置を決定するための指示関数を導きました。やや複雑な手続きですが、一連の流れの中で少数のセンサーで高精度にイメージングを行える数学的な手法を組み込んでいます。

この理論的な枠組みを検証するために、送信センサーと受信センサーをグリッドの上に設定して、コンピュータを用いた数値的な実証実験を行いました。あらかじめ定義された物体の構造を参照入力(基準となる情報)として使用することにより、東平教授らは、今回定義された遠距離場の演算子による指示関数で再構成した位置情報が、参照入力の情報と一致することを示しました。これにより、少数のセンサーグリッドを使用して、密集した点散乱源の位置情報の再構成が可能であることが実証されました。 このことについて東平教授は、次のように述べています。「今回の手法により、トモグラフィー技術の効率が高められる可能性があります。この手法は、散乱体の位置情報の記述に関する知見を深めただけにとどまらず、散乱体の複雑な分布によって特徴づけられる物体の構造のより精確なイメージングにも適用することが可能です。将来的には、この理論を人体のイメージングにも適用できるように展開していきたいと思います。」

トモグラフィーは地球物理学、工学、医学など様々な現場で使われています。今回の開発の成功について、東平教授は「トモグラフィーの理論の展開は国際競争が非常に活発な研究分野のひとつです。世界では多くの優れた才能ある人たちが集結し、つぎつぎに新しいアイデアを数学的に厳密な方法で提示してきています。国際競争に打ち勝ってゆくことは困難ですが、この国際競争にわずかでも貢献できればと思います。」と述べています。

【論文情報】
雑誌名:International Journal of Solids and Structures 2019年4月8日 オンライン掲載
論文タイトル:Pseudo-projection approach to reconstruct locations of point-like scatterers characterized by Lamé parameters and mass densities in an elastic half-space
著者:Terumi Touhei and Taizo Maruyama
https://doi.org/10.1016/j.ijsolstr.2019.04.019

東平研究室のページ
大学公式ページ:https://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?19b3
研究室のページ:https://www.rs.tus.ac.jp/~ohriki/

東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
ABOUT:https://www.tus.ac.jp/info/index.html#houjin

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。