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2020.02.07 Fri UP

害虫の天敵を惹きつけるミント
〜コンパニオンプランツとして害虫防除に応用〜

【研究の要旨】

東京理科大学基礎工学部生物工学科 有村源一郎 教授の研究グループは、ミントから放出される特有の香りが害虫の捕食性天敵であるタバコカスミカメを惹きつける現象を発見した。さらに、タバコカスミカメはミントの香りを予め経験することで、よりパワフルに惹き付けられることも見出された。これらの発見は、ミントをコンパニオンプランツ(共栄作物)として用いた有機農法のイノベーションにつながり、今後、環境保全型の有機農法の確立および普及に役立つものと期待される。
本研究成果はScientific Reports誌に2月7日付けでオンラインに掲載された。

【研究の背景】

近代農業は農薬依存型である。戦後、主要穀物であるイネを含めた様々な栽培において農薬が過度に使われてきたことから、農薬による環境問題が深刻化してきている。例えば、大量の農薬散布による水質汚染やミツバチ等の有益種に及ぼす薬害等は特に甚大である。故に、農薬を使わない有機農法の確立は、世界規模での農業事業における急務の課題である。
これらの問題の解決に向けて、研究グループはミントをコンパニオンプランツ*1として用いた有機栽培技術の開発に取り組んでいる。これまでの研究において「ミントをマメや葉物野菜などの作物の横で混栽することで、作物はミントの香りを受容し、防御能力を高めることができる(Sukegawa et al., Plant Journal, 2018)」「ミントの香りは果樹・茶・野菜・花卉などの植物を吸汁加害するハダニの捕食性天敵"チリカブリダニ"を誘引することができる(Togashi et al., Scientific Reports, 2019)」などの生物間相互作用を明らかにし、且つそれらの相互作用メカニズムを解明してきた。
今回、同グループは、重要害虫であるヨトウガ、アザミウマ、コナジラミ、ハダニなどの農業害虫の土着天敵*2"タバコカスミカメ"に対して、ミントの香りが強く誘引することを新たに発見し、タバコカスミカメを効率的に害虫防除に活用するためのノウハウを見出した。

【研究成果の概要】

異なる香気成分を放つキャンディミント、スペアミント、アップルミントの香りに対するタバコカスミカメの行動について評価した。Y字管オルファクトメーターを用いて室内での選択実験を行なった結果、キャンディミントの香りはヨトウガ幼虫に食害されたナス葉から放出される匂いと同程度にタバコカスミカメを誘引する活性があることが見出された。さらに、キャンディミントの香りを予め経験したタバコカスミカメは、食害されたナス葉から放出される匂いよりも強い嗜好性をキャンディミントの香りに示すようになった。キャンディミントの香りは、タバコカスミカメの誘引のみならず食欲増進の効果も持ちあわせていた。

害虫の天敵を惹きつけるミント
〜コンパニオンプランツとして害虫防除に応用〜

図1 タバコカスミカメのキャンディミントの香りに対する誘引行動
***: P < 0.001、ns: P> 0.05

害虫の天敵を惹きつけるミント
〜コンパニオンプランツとして害虫防除に応用〜

図2 周辺にミントがある場合におけるタバコカスミカメのヨトウガ幼虫(餌)の捕食性
**: 0.001 < P < 0.01

また、ミントは異なる天敵種であるタイリクヒメハナカメムシには誘引効果がないことから、ミントは特定の天敵種を惹きつけるコンパニオンプランツであることが示唆された。

【今後の展望】

キャンディミントの香りは、農業上重要な益虫(タバコカスミカメ、チリカブリダニ)を惹きつけるのみならず、ミントの近くの作物の防御力を高めることができる。これらの生物間コミュニケーションにおける複合的なアウトプットを人為的に用いることで、無農薬栽培もしくは減農薬栽培といった環境保全型の農業を実現できる。

害虫の天敵を惹きつけるミント
〜コンパニオンプランツとして害虫防除に応用〜

図3 ミントをコンパニオンプランツとして用いた有機農法の概要

用語

※1 コンパニオンプランツ:近くに混栽することで、病害虫による感染を抑制したり、成長を促進させる効果をもつ植物。
※2 害虫の天敵:タバコカスミカメのような捕食型の生物以外にも寄生蜂などが知られる。近年、天敵を用いた害虫防除の開発が進められている。

【論文情報】

Rim H., Hattori S., Arimura G. (2020) Mint companion plants enhance the attraction of the generalist predator Nesidiocoris tenuis according to its experiences of conspecific mint volatiles. Scientific Reports, in press.

【本研究内容に関するお問合せ先】

東京理科大学 基礎工学部生物工学科 教授 有村 源一郎
Tel: 03-5876-1467
e-mail:garimura[@]rs.tus.ac.jp
※[@]を@に変更してください。

エコロジー研究室
有村 教授のページ:http://www.tus.ac.jp/fac_grad/p/index.php?67cd

東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
ABOUT:https://www.tus.ac.jp/info/index.html#houjin

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