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2025.08.05 Tue UP

東京理科大学が民間宇宙ステーションの利用拡大に貢献~米Vast社の「Haven-1」に搭載するJAMSS実験装置開発に協力~

概要

東京理科大学スペースシステム創造研究センター(SSI)は6月12日、有人宇宙システム株式会社(JAMSS)との間で、Vast社の商用宇宙ステーション「Haven-1」に搭載する実験装置の制御基板開発に関する共同研究契約を締結しました。この制御基板は、今年度中に開発を完了し、JAMSSが開発中の実験装置に搭載されます。2026年5月(予定)の打ち上げ後は、Haven-1で行われるJAMSS実験装置の軌道上実験等にて、メインコントローラとして活用される予定です。

制御基板のプロトタイプ

制御基板のプロトタイプ

共同研究の詳細

Haven-1は、米国Vast社が開発を進めている商用宇宙ステーションです。直径4.4m、全長10.1mの円筒状の有人宇宙ステーションで、最大4名/2週間のミッションに対応。これまで日本などが利用してきた国際宇宙ステーション(ISS)は、2030年の退役が予定されており、その後継として、民間による宇宙ステーションの開発が進められています。Haven-1が計画通り2026年5月に打ち上げられれば、世界初の商用宇宙ステーションとなる見込み。Vast社は、Haven-1の技術を基に建設されるHaven-2をISSの後継機として提案しています。

Haven-1の軌道上イメージ

Haven-1の軌道上イメージ©Vast

Haven-1 Labは、有人商用宇宙ステーションに搭載される世界初の微小重力研究・開発・製造プラットフォームとなります。JAMSSはHaven-1 Labのアジア初の実験装置パートナーとして、Vast社と契約を締結。この中の1カ所に自社開発する実験装置を搭載し、顧客に対して利用サービスを提供していく予定です。

Haven-1の内部レイアウト

Haven-1の内部レイアウト©Vast

Haven-1 Lab payload operations ©Vast

JAMSSの実験装置内には、1Uサイズ(10cm×10cm×10cm)の小型サブ実験装置を最大12台程度まで設置することができるようになっており、JAMSSはこれらのサブ実験装置の利用サービスを提供します。顧客への電力や通信の供給機能を備え、宇宙実験からコレクション・メモリアルアイテムの打ち上げなど、多様な使い方に対応。Haven-1の運用期間中は、サブ実験装置の交換が可能で、幅広い宇宙利用の機会を提供することができます。

SSIが今回開発するのは、この実験装置用の制御基板です。その重要な機能のひとつは電源管理。常に電流・電圧を監視しており、ラッチアップ等により、サブ実験装置に過電流が発生した場合でも、すぐに遮断して、実験装置全体を安全に保つことができます。そのほか、温度計測や画像取得などの機能も提供する予定です。

なお、4月22日にプレスリリースを行った小型自律分散型環境センサー(TEM: TSL Environment Monitor)は、5月9日および5月16日にISS「きぼう」日本実験棟にて軌道上実証を実施。現在ISSに長期滞在中の大西卓哉宇宙飛行士が実験操作を担当し、データの取得に成功しました。本軌道上実証は、JAXAきぼう有償利用制度(*1)の公募枠を用いて、ISS「きぼう」日本実験棟で実施しました。

今回のHaven-1搭載のJAMSS実験装置用の制御基板は、このTEMの技術を活用するものです。民生品を積極的に利用しており、低コスト・短期間での開発が可能になると期待されています。

ISS内で空中に浮かぶ小型自律分散型環境センサー(TEM)

ISS内で空中に浮かぶ小型自律分散型環境センサー(TEM)

SSIセンター長の木村真一教授は、「今回の開発は、完成までの期間がわずか1年以内という、宇宙分野としては極めて短納期のプロジェクトになります」とコメント。「このようなスピード感で開発ができるのは、設計から製造、試験まで全て自分たちでできる私たちの強み。今回のような分散監視のニーズは、宇宙にたくさんあります。今後もTEMの技術を活用し、宇宙の利用拡大に貢献していきたい」と期待を述べます。

東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科の木村真一教授

東京理科大学 創域理工学部 電気電子情報工学科の木村真一教授

今回の制御基板には、軌道上での動作実績があるTEMのコア部分を移植。全体の制御を担うマイコンボードには、TEMに引き続き「Raspberry Pi」を採用します。制御基板は、Haven-1の通信システムを介して、ネットワークに接続。地上側からリモートアクセスし、実験装置及び各サブ実験装置の動作状況を確認できるほか、ソフトウェアの書き換えにも対応するなど、自由度の高い使い方を実現する予定です。

SSIはTEMの成果を含め、これまでの研究開発で蓄積してきた知見を活用し、人類の宇宙進出を加速する活動を続けていきます。

用語

  • TEM(TSL Environment Monitor)

    東京理科大学 スペースシステム創造研究センター(SSI)主導で開発された小型自律分散型環境センサーです。手のひらサイズの小型センサーながら、電源オンで自律的に計測を開始。ISS内の二酸化炭素濃度、におい成分、温度や湿度等のデータを取得することができます。微小重力環境での空気の時間的・空間的な分布状況を明らかにし、安全で快適な空気環境を実現することを目指しています。

    詳細については、以下のプレスリリースをご覧ください。

    ガンダムカラーの環境センサー(TEM)が宇宙へ~国際宇宙ステーション内の空気環境を測定する軌道上実証を予定~

  • Haven-1
    世界初の商用宇宙ステーションとなる予定のHaven-1は、人間中心に考えられた最先端の宇宙ステーションであり、民間宇宙飛行士と政府ミッションの両方のための革新的Labを併設しています。SpaceXはHaven-1をファルコン9ロケットで打ち上げ、ドラゴン宇宙船で乗組員を輸送します。Haven-1の運用期間は3年間で、その間に2週間の有人ミッションが4回実施される予定です。

    Haven-2はHaven-1の技術と革新性を基に構築されています。Haven-1よりも先進的で高性能でありながら、基本構造は同一です。Haven-2はNASAの商業低軌道宇宙ステーションCommercial LEO Destinations(CLD)契約の獲得を目指しています。契約が締結されれば、Haven-2は2030年のISS退役前に運用をシームレスに引き継ぎ、低軌道における有人宇宙滞在の空白期間を回避します。

    Haven-2の最終形態のイメージCG(c)Vast

    Haven-2の最終形態のイメージCG©Vast

  • 有人宇宙システム株式会社 (JAMSS)
    JAMSSは国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」を運用・利用・訓練・安全にかかわる業務に従事。宇宙空間は今や新たな経済圏として民間企業が利用する場に変化しつつあることから、JAMSSもまた「民間宇宙ステーション」時代の到来を見据え、タンパク質結晶成長装置「Kirara」にて民間企業として利用サービスの提供を進めており、地球と宇宙をつなぐ架け橋として地球低軌道の利用拡大に広く貢献しています。

    https://www.jamss.co.jp/space_utilization/

(*1)きぼう有償利用制度(非定型サービス)は、JAXA 有人宇宙技術部門が提供する「きぼう」の利用制度で、個別の要望に応じたミッションを有償で実施できる制度
<https://humans-in-space.jaxa.jp/kibouser/subject/invitation/charge/73964.html>

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