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2024.11.01 Fri UP

節電未達者を検出する新アルゴリズム、性能が10倍以上に
―節電参加者の性質を組み込むことで大幅な効率化に成功―

京都大学
北海道大学
東京理科大学

概要

京都大学の東俊一教授、煙台大学の許芳源講師、北海道大学の小林孝一教授、東京理科大学の山口順之教授らからなるグループは、スマートグリッドの調整力として期待されるデマンドレスポンス(注1)の実施診断技術として、節電未達の参加者を検出するためのアルゴリズムの性能を従来比10倍以上に引き上げることに成功しました。

近年、世界各国で再生可能エネルギーが大量導入されていますが、その発電量は気象条件に左右されるために、見込んだ発電量に満たないことがあります。それを補う調整力として期待されているのがデマンドレスポンスと呼ばれる節電プログラムです。デマンドレスポンスには様々な形態がありますが、契約型と呼ばれるものでは、あらかじめ割り当てられた節電量が未達となる需要家が現れると所期の調整力にはなりません。そのため節電未達者が現れた場合にはそれを是正する必要があり、高速かつ正確に節電未達者を検出する方法が求められています。これまでにそのための方法が開発されてはいましたが、必要となる情報取得(スマートメーターの検針)の回数の点で満足できるものではありませんでした。本研究では従来法に比べ情報取得の回数が1/10以下となることが期待できる方法を開発しました。これにより、本技術の実用化への道筋が見えてくることになります。

本研究成果は、2024年10月30日発行の「International Journal of Electrical Power and Energy Systems」に掲載されました。

節電未達者を検出する新アルゴリズム、性能が10倍以上に―節電参加者の性質を組み込むことで大幅な効率化に成功―

デマンドレスポンスの概念図(契約量が未達となる需要家が現れる場合がある)

背景

近年、世界各国で再生可能エネルギーが大量導入されています。一方で、その発電量は気象に大きく左右されるため、火力発電機のような計算できる電源ではありません。そこで、見込んだ発電量に満たない場合には、他の電源での電力供給もしくは需要を減らすことが必要になります。そのような調整機構は、調整力と呼ばれます。調整力のひとつとして期待されているのがデマンドレスポンスです(図1)。デマンドレスポンスとは、電力の供給量が不足した際に、アグリゲーターと呼ばれる事業者が電力の需要家に節電を依頼し、需要量を削減することです。これによって、見込んだ発電量に満たない場合でも、需要量を調整することで、電力の需要と供給を一致(需給バランス)させることが可能になります。

デマンドレスポンスには様々な方式がありますが、そのひとつとして、契約型と呼ばれる、個々の需要家があらかじめ取り決めた所定量(契約量)の節電を実施する方式があります。この方式においては、契約量が常時に守られていれば問題にはなりませんが、現実には、需要家のもつ機器の故障や蓄電池の充電不足などの理由により、契約量を守れない需要家が現れる可能性があります。そこで、そのような需要家が現れた場合は、それをいち早く特定する必要が生じます。そのためには、全需要家のスマートメーターを検針することも考えられますが、膨大な需要家に対してそれを実現するのは通信量の観点から現実的ではありません。また、スマートメーターのリアルタイム情報には需要家のプライベートな情報が含まれるため、社会的受容性の観点から検針の回数は少ないことが望まれます。そこで、全需要家のスマートメーターを検針することなく、契約量が未達となる需要家を特定する技術が必要となります。このような背景のもと、本研究グループでは令和元年に一部の需要家を検針するだけで未達参加者を検出する方法(IEEE Transactions on Smart Grid, pp. 368--378, 2020)を開発しましたが、実用レベルに到達したとは言い難い状況でした。

研究手法・成果

先行研究では、データサイエンスの分野で発展してきた「スパース再構成(注2)」という方法を用いて検針すべき需要家を定め、そのスマートメーターを実際に検針する、という手続きを複数回繰り返すものでした。一方で、検針回数は、全数検査に比べると十分に少ないものの、実用を考えた場合にはそれより大幅に減らす必要がありました。

そこで本研究では、先行研究の方法にデマンドレスポンス特有の性質を組み込むことで検針回数を大幅に減らすことを目指しました。そのために、契約未達となる需要家には似たような属性があること、過去の実績から契約未達の可能性を定量化できること、を仮定しました。そして、それらが成立することは、すべての需要家の節電量の値を並べてできるベクトルが「ブロックスパース(注3)」という性質をもつことに対応することを発見しました。この点に着目し、ブロックスパース再構成と検針を繰り返すアルゴリズムを開発しました。そして、デマンドレスポンスの数理モデルを用いたシミュレーション(図2)で、先行研究に比べ検針回数を最大で1/10以下にできることを確認しました。

波及効果、今後の予定

デマンドレスポンスで高品質の調整力を得るためには、個々の需要家の節電能力の不確かさを補う、集団としてのロバスト性を確保することが重要になります。本成果は、そのようなデマンドレスポンスのロバスト性を高める基礎技術として期待されます。今後、実証実験での評価が望まれます。

研究プロジェクトについて

本研究は、科学研究費補助金(基盤研究(A)「デマンドレスポンスの実施診断:性能10倍への挑戦とオンデマンド情報取得学の創成」21H04558)の支援を受けて行われました。

用語解説

注1)デマンドレスポンス
アグリゲーターと呼ばれる事業者が電力の需要家に節電を依頼して、需要量を削減すること。

注2)スパース再構成
方程式の解(ベクトル)に0の要素が多数含まれることを前提にして、その解を求めること。

注3)ブロックスパース
ベクトルに0の要素が多数含まれ、かつ、0の要素が連続的に分布するブロックが存在していること。

研究者のコメント

本研究は、デマンドレスポンスの実施診断技術として実社会で役立つことを目指していますが、それだけでなく、「必要な時に一部のセンサから価値ある少数のデータを集める(オンデマンド情報取得)」という、いわゆる「ビッグデータ」の発想とは異なるアプローチの研究となっています。今後、それを他分野の一般的な推定問題に展開するための共通原理を解明し、「オンデマンド情報取得学」という新しい学術分野の創成に挑戦したいと考えています。(東俊一)

論文タイトルと著者

タイトル

Default Detection in Demand Response Based on Block-Sparse Structure(ブロックスパース性に基づくデマンドレスポンスの実施診断)

著者

Fangyuan Xu, Shun-ichi Azuma, Koichi Kobayashi, Nobuyuki Yamaguchi, Ryo Ariizumi, Toru Asai

掲載誌

International Journal of Electrical Power and Energy Systems

DOI

10.1016/j.ijepes.2024.110304

参考図表

節電未達者を検出する新アルゴリズム、性能が10倍以上に―節電参加者の性質を組み込むことで大幅な効率化に成功―

図1 デマンドレスポンスの概念図

節電未達者を検出する新アルゴリズム、性能が10倍以上に―節電参加者の性質を組み込むことで大幅な効率化に成功―

図2 今回開発したアルゴリズムによって節電未達者を検出したシミュレーション結果 横軸が参加者のインデックスを表し、縦軸にその参加者の未達率、つまり、契約量の未達割合を表しています。例えば、未達率が0.5とは実際の節電量が契約量の50%のことです。上図は、節電量の真値ですが、アグリゲーターはこの情報を直接観測することはできません。そこで、今回開発した検出方法を用いて未達率を推定し、その結果として得られたのが下図です。この場合、10,000人の需要家のうち54人分のみを検針することで正しく推定できています。

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