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優れた弾性熱量効果と疲労破壊特性を示す合金を開発
~Cu系超弾性形状記憶合金の結晶粒の成長により合成~
研究の要旨とポイント
- 圧延処理とサイクル型熱処理を最適化することにより、68Cu-16Al-16Zn合金中の結晶粒を成長させることに成功しました。
- 2%の歪を繰り返し与える応力負荷試験を6万サイクル実施しても金属疲労が見られず、優れた疲労破壊特性を有する材料であることを明らかにしました。
- 本研究をさらに発展させることで、エネルギー効率の高い冷凍機技術開発への貢献が期待されます。
東京理科大学創域理工学部先端化学科の藤本憲次郎教授、相見晃久講師、同大学大学院理工学研究科先端化学専攻の川原田裕矢氏(2022年度修士課程修了 ※2023年4月に理工学研究科は創域理工学研究科に名称変更)、Maryland Energy & Sensor Technologies社のAbimael Santos-Cotto氏、Gentaro Nakata氏、メリーランド大学カレッジパーク校の竹内一郎教授(兼 東京理科大学客員教授)の共同研究グループは、Cu系超弾性形状記憶合金68Cu-16Al-16Znを合成した後、圧延処理と周期的熱処理を行うことにより、合金中の結晶粒を成長させることに成功しました。また、結晶成長後の合金が優れた弾性熱量効果と疲労破壊耐性を有することを実証しました。
超弾性形状記憶合金などの弾性熱量効果(※1)を有する材料は、冷却システムなどさまざまな分野での活用が期待できるため、注目を集めています。特に、Cu-Al-Zn合金などのCuをベースとした超弾性形状記憶合金は、小さな応力でも優れた効果を発揮することが知られています。しかしながら、従来法で合成した合金は金属組織が粗いため、繰り返し応力を加えることにより、容易に粒界破壊が生じてしまうことが課題でした。そこで、本研究グループは合成したCu-Al-Zn合金に対し、最適な圧延処理と周期的熱処理(ある温度幅で加熱と冷却を繰り返す)を行うことで結晶粒を成長させ、それにより疲労破壊特性をはじめとした物性の向上を目指して、研究を進めてきました。
本研究では、高周波電源による誘導加熱を利用して各金属を溶解して68Cu-16Al-16Zn合金を合成した後、圧延処理、周期的熱処理を適用し、合金の粒径や物性にどのような変化が見られるのかを検討しました。その結果、67%の圧延率で500℃から900℃での周期的熱処理を行うことで、合金の最大平均粒径が11.1mmに成長することがわかりました。また、4.5%ゆがみで106MPaの最大応力を示し、応力負荷時に5.9℃の発熱、応力除去時に5.6℃の吸熱、6.3J/gの潜熱があることなどから、優れた弾性熱量効果を示すことが明らかとなりました。2%の歪を繰り返し与える応力負荷試験を6万サイクル実施しても金属疲労が見られず、疲労破壊特性にも優れていることを実証しました。本研究をさらに発展させることにより、固体冷媒への応用、すなわち温室効果ガスであるガス冷媒の代替材料の開発につながると期待されます。
本研究成果は、2023年3月31日に国際学術誌「Journal of Physics: Energy」にオンライン掲載されました。
研究の背景
超弾性形状記憶合金などの弾性熱量効果を有する材料は工学や医療の分野への応用が期待できることから、広く研究が行われてきました。現在、実用化されている形状記憶合金のほとんどは強度に優れたTi-Ni合金ですが、加工が難しく、コストがかかるといったデメリットもあるため、代替となる合金材料の模索が続けられています。
Cuをベースとした超弾性形状記憶合金は、Ti-Ni合金よりも加工性が高く、コストも安価で、形状回復性に優れていることが知られています。しかしながら、繰り返し応力に弱く、疲労寿命が短いことが実用面での課題となっていました。この理由としては、応力が加わると合金を構成する結晶粒の界面で破壊が生じてしまうことが考えられます。そこで本研究グループは、この課題を解決するために、68Cu-16Al-16Zn合金を対象とし、強度および機能向上を目的として最適な圧延処理と周期的熱処理による結晶粒成長ならびに各種検討を行いました。
研究結果の詳細
最初に、真空溶解炉を用いて、68Cu-16Al-16Zn合金の合成を行いました。秤量したCuとAlを炭素るつぼで混合し、その上に揮発分を考慮した過剰のZnを入れた後、高周波誘導加熱によりすべての金属を溶融させました。その後、溶融した金属を鋳型に流し込んで冷却し、目的の合金を合成しました。元素分析の結果から、Cu が69.89(2) at%、Alが15.66(3) at%、Znが14.45(1) at%であることがわかりました。
次に、高温X線回折測定を行い、温度変化に対する結晶相の転移挙動を観察しました。その結果、室温でα相、200℃から700℃でα+β混合相、750℃でβ相と呼ばれる結晶構造を形成していることがわかりました。そのため、700℃から750℃の間にα+β混合相とβ相の相境界があると判断しました。この結果を踏まえて、周期的熱処理の温度幅を500℃から900℃に設定しました。
そして、さまざまな割合で圧延処理を施した合金(圧延加工率0%、67%、83%)に対する周期的熱処理の効果を確認しました。その結果、いずれの圧延率においても、周期的熱処理を行うことで、結晶粒が成長し、平均粒径が大きくなることがわかりました。特に、圧延加工率67%の合金では効果が大きく、平均粒径が11.1mmにも達したことが明らかとなりました。
最後に、各合金の熱特性や疲労破壊特性について調べました。結晶粒成長した合金は、4.5%の歪を与えた際に106MPaの最大応力を示し、負荷をかけたときには5.9℃の発熱、除荷したときには5.6℃の冷却が生じることがわかりました。潜熱については、結晶粒成長した合金は6.3J/gを示し、粒成長を行っていない合金よりも優れていることがわかりました。結晶粒成長後の合金は、2%の歪を繰り返し与える応力負荷試験を6万サイクル行っても金属疲労は見られず、優れた疲労破壊耐性を有する材料であることが実証されました。
用語
※1 弾性熱量効果
材料に応力を加えたり、逆に材料から応力を取り除いたりすると、結晶構造などの変態が生じ、それに伴って発熱や吸熱が起きる効果のこと。この効果を有する材料は冷却システムへの応用が期待できる。
論文情報
雑誌名
Journal of Physics: Energy
論文タイトル
Abnormal grain growth of 68Cu-16Al-16Zn alloys for elastocaloric cooling via cyclical heat treatments
著者
Yuya Kawarada, Akihisa Aimi, Abimael Santos-Cotto, Gentaro Nakata, Ichiro Takeuchi and Kenjiro Fujimoto
DOI
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