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2022.12.05 Mon UP

3次元網目構造を有する次世代の多孔質材料『TUS-84』の創製に成功
~物質の吸着と放出を自在に制御可能、薬剤送達などへの応用に期待~

研究の要旨とポイント

  • 共有結合性有機構造体(COF: Covalent Organic Framework)は、熱安定性や化学安定性に優れた多孔質材料として注目されています。
  • 新たな3次元網目構造を有するCOF『TUS-84』を合成し、ドラッグデリバリーシステムのキャリア分子として有用であることを実証しました。
  • 本研究をさらに発展させることで、物質の吸着と放出を自由に制御できるようになり、触媒や資源回収などさまざまな分野での活用が期待されます。

東京理科大学理学部第一部応用化学科の根岸 雄一教授、Saikat Das博士、関根 大修氏(2022年度 修士課程2年)、馬渕 春菜氏(2022年度 修士課程1年)らの研究グループは、新たな共有結合性有機構造体(COF: Covalent Organic Framework)『TUS-84』の合成と構造解析に成功し、TUS-84の3次元網目構造は既報と異なる新規のトポロジーを有していることを明らかにしました。TUS-84は500 ℃まで安定な構造を維持でき、水素、二酸化炭素、メタンなどのガス吸蔵だけでなく、イブプロフェンなどの薬剤の運搬が可能です。

COFは2005年に発見された新たな多孔質材料であり、炭素やホウ素などの軽元素を主成分とする有機分子から合成されます。これらの有機分子は隣接分子との共有結合により、多数の空隙を持った強固な構造体を構築することができます。そのため、軽量でも熱安定性や化学安定性に優れていることが特徴です。しかしながら、高度に連結する性質をもつ有機分子を見つけ出すことや得られたCOFの構造を解析することが非常に難しく、現在までに報告されているCOFのトポロジーは20種程度にとどまります。

本研究グループはさまざまな検討を行い、正方形平面型に相当する分子(TAPP)と正方形プリズム型に相当する分子(DPTB-Me)を組み合わせることで、3次元網目構造のTUS-84を合成することに成功しました。また、TUS-84の比表面積が679 m2/gと大きく、内部にさまざまなガスを吸蔵できることが確認されました。さらに、解熱剤や鎮痛剤の主成分であるイブプロフェンを対象とした薬剤送達実験を行い、他のキャリア分子と比較してゆっくり薬剤を放出する性質があることを見出しました。この性質を利用すると、原因箇所に長期間、薬剤を送り続けることができるので、投薬量や投薬頻度を抑制し、患者の負担を減らすことが可能となります。本研究をさらに発展させることで、ドラッグデリバリーシステムのキャリア分子としての用途だけでなく、化合物の分離精製や触媒反応、希少資源の回収など、幅広い分野で使用できると期待されます。

本研究成果は、2022年10月17日に国際学術誌「ACS Applied Materials and Interfaces」にオンライン掲載されました。

研究の背景

多孔質材料とは内部にさまざまな大きさの空隙を有する物質のことで、身近なものには活性炭やシリカゲル、ゼオライトなどがあります。近年、それらに代わる新たな多孔質材料としてCOFが注目を集めています。COFは官能基の連結により有機分子が規則的に配列した多孔質材料です。炭素やホウ素、酸素などの軽元素を主成分とし、強い共有結合で構築されているため、軽量かつ構造安定性に優れており、ガス貯蔵やドラッグデリバリーシステムへの応用が期待されています。

COFは、共有結合の拡張性によって2次元COFと3次元COFに分かれます。2次元COFは共有結合が2次元にしか存在せず、層状に積み重なった構造で結晶化します。一方、3次元COFは共有結合が立体方向にまで及び、活性サイトにより容易にアクセスできることから、2次元COFよりもさらに有用性が高いと期待されています。

3次元COFのトポロジーは、活性サイトの形成や物質輸送の挙動に大きく左右するため、極めて重要です。しかしながら、3次元COF構築に適した分子を見つけることが難しい上、その多くは結晶性が低く構造解析が難しいことから、3次元COFの新たなトポロジーを見つけることは容易ではありません。

今回、本研究グループは、正方形平⾯(4連結)のノードに正⽅形プリズム(8連結)のノードを連結することで、3次元COFの新たなトポロジー創成に成功しました。

研究結果の詳細

最初に、メシチレン、1,4-ジオキサン、酢酸の混合溶液中で、D2h対称リンカーであるDPTB-MeとC4対称リンカーであるTAPPのソルボサーマル反応を行い、黒紫色の結晶性固体TUS-84を合成しました。得られた固体の粉末X線構造解析と構造最適化の結果、TUS-84が正方形平面(4連結)のノードに正方形プリズム(8連結)のノードが連結した、3次元的に規則性のある網目構造を有しており、明確な空隙を持つ二重の相互貫入構造(*1)を持っていることがわかりました。

また熱分析の結果、500 ℃まで加熱してもほとんど質量減少がなく、構造安定性が非常に高いことが確認されました。

次に、TUS-84の比表面積測定とガス吸着挙動について調べました。測定の結果、TUS-84の比表面積は679 m2/gで、約0.97 nmの幅の微小空隙を有していることがわかりました。また、1barにおけるガス吸着量は、水素は131 cm3/g(77K)と88 cm3/g(88K)、二酸化炭素は55 cm3/g(273K)と31 cm3/g(298K)、メタンは14 cm3/g(273K)と10 cm3/g(298K)で、さまざまな気体分子を効率よく吸蔵できることが明らかとなりました。

最後に、解熱剤や鎮痛剤に含まれるイブプロフェンの薬剤送達・放出実験を行いました。各種分析の結果、11.05 wt%のイブプロフェンが担持されたこと、それに伴い比表面積が679 m2/g から462.7 m2/gへと減少していることが確認されました。また、イブプロフェンを担持したTUS-84をpH = 7.4, 37 ℃に調製されたリン酸緩衝液に浸漬すると、12時間後で約24%、5日後で約35%というゆっくりとした薬物放出性能を示すことがわかりました。

本研究の成果について、研究を主導した根岸教授は「現在は資源問題やエネルギー問題が深刻化しています。COFを用いれば、省エネかつ簡便な方法により金属資源やアルゴンなどの希ガスの回収が可能となります。適切なCOFの開発は資源問題やエネルギー問題の改善に貢献し得るものと期待されます」と今後の展開に期待を寄せています。

※本研究は日本学術振興会の科研費(JP20H02698, JP20H02552, JP22H04562)、矢崎科学技術振興記念財団、小笠原敏晶記念財団の助成を受けて実施されました。

用語

*1 相互貫入構造 : 異なる材料が相互に絡み合って形成された多重網目構造。

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図1. 本研究で新たに見出した3次元COF骨格の構造。明確な空隙を持つ二重の相互貫入構造を有する。薬剤放出速度(右)。5日後で約35%というゆっくりとした薬物放出性能を示す。

論文情報

雑誌名

ACS Applied Materials and Interfaces

論文タイトル

Three-Dimensional Covalent Organic Framework with scu-c Topology for Drug Delivery

著者

Saikat Das, Taishu Sekine, Haruna Mabuchi, Tsukasa Irie, Jin Sakai, Yu Zhao, Qianrong Fang, and Yuichi Negishi

DOI

10.1021/acsami.2c15152

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