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2022.06.21 Tue UP

複数の金属元素を有するナノ材料の新規合成法の開発に成功
~金属錯体モノマーの共重合化により、高分子金属錯体の構造予測や制御が可能に~

研究の要旨とポイント

  • モノマーを錯体化した後で共重合化することにより、側鎖に2種類の異なる金属錯体を有する高分子金属錯体を合成することに成功しました。
  • モノマーの混合比を調整することで、高分子金属錯体の構造予測や金属組成比の制御が可能であることを示唆しました。
  • DNA鎖と高分子金属錯体を集積させることにより、金属錯体ナノ粒子を合成することに成功しました。
  • 複数の金属錯体モノマーを調製した後、共重合して高分子金属錯体を合成する本手法は、触媒やナノ粒子の合成における新たな指針になることが期待されます。

東京理科大学理学部第一部応用化学科の大塚英典教授、大澤重仁助教らの研究グループは、亜鉛錯体モノマーと白金錯体モノマーをそれぞれ調製した後、それらを共重合化することで側鎖に2種類の異なる金属錯体を有する高分子化合物の合成に成功しました。また、2種類の金属錯体モノマーの混合比を調節することで、高分子金属錯体中の構造予測や金属組成比の制御が可能であることが示唆されました。さらに、DNA鎖をテンプレートに、高分子金属錯体をレゴブロックとして使用して凝集させ、亜鉛と白金を含有する金属錯体ナノ粒子を作製することにも成功しました。本研究をさらに発展させることで、複数の金属元素を有する金属ナノ材料を安定的に調製できるようになり、優れた触媒活性を有する材料開発の促進が期待されます。

複数の金属元素を有する高分子化合物は触媒材料として非常に有用であり、その合成法が模索されてきました。本研究グループは、多くの金属元素と安定的に錯形成するジピコリルアミン(DPA)を配位子としたモノマーを準備し、金属元素とモノマーを反応させて種々の金属錯体モノマーを調製した後、共重合化することで、形成された高分子金属錯体の構造予測や金属組成比の制御を実現できる方法を検討しました。

研究の結果、調製した亜鉛錯体モノマーと白金錯体モノマーにおいては、モノマーの混合比が反応比とほぼ等しくなることを見出し、混合比を調整することで目的の高分子金属錯体が合成可能であることを実証しました。また、今回使用した亜鉛錯体と白金錯体にはDNA鎖と結合する性質があり、この性質を利用した金属錯体ナノ粒子を作製することにも成功しました。異なる複数の金属元素を有するナノ粒子は、単一金属のみで構成されたナノ粒子よりも触媒活性などの面で優れた性質を有していることが知られています。本研究で開発された方法は、多様な金属元素から構成されたナノ粒子を安定的に調製する新規合成法としての貢献が期待されます。

本研究の成果は、2022年4月1日に国際学術誌「Chemical Communications」にオンライン掲載されました。

複数の金属元素を有するナノ材料の新規合成法の開発に成功~金属錯体モノマーの共重合化により、高分子金属錯体の構造予測や制御が可能に~

研究の背景

側鎖に金属錯体を有する高分子化合物は、溶液中で金属錯体の局所濃縮状態をつくることができ、その効果により優れた触媒活性を示すことが、本研究グループにより報告されています(※1)。このような高分子金属錯体を合成する場合、配位子構造を有する高分子化合物を合成した後で、金属元素を導入するのが一般的です。しかしながら、この方法で高分子中に異なる複数の金属元素を組み込もうとすると、金属元素の種類によって配位子との結合力が異なることが原因で、構造や組成の制御が困難になるという課題がありました。そこで、本研究グループは、配位子に金属元素を導入するタイミングに着目しました。従来の方法とは異なり、モノマーの段階で配位子に種々の金属元素を別々に導入して錯体化し、その後、モノマーの混合比を調節して共重合化する方法を検討しました。モノマーの共重合挙動は解析可能であるため、合成された高分子金属錯体の構造予測や組成の制御が可能になると考えました。

(過去のプレスリリース)
※1: 「銅錯体の局所濃縮状態により、過酸化水素の分解とヒドロキシルラジカルの生成の効率化に成功~高分子鎖の性質を利用した新たな抗菌剤設計への応用に期待~」
URL: https://www.tus.ac.jp/today/archive/20210726_1573.html

研究結果の詳細

本研究では、始めに様々な金属元素に対して優れた錯体形成能を有するジピコリルアミン(DPA)配位子を用いた亜鉛錯体アクリレートモノマー(DPAZn(II)Ac)と白金錯体アクリレートモノマー(DPAPt(II)Ac)を調製しました。モノマーであるDPAZn(II)AcとDPAPt(II)Acにおいて、それぞれ重合反応が進行するのかを確かめるために、核磁気共鳴分光法(1H NMR)による分析を行いました。その結果、反応開始から48時間後における転化率がDPAZn(II)Ac では49%、DPAPt(II)Acでは50%であることがわかり、重合反応のスムーズな進行が確認されました。

次に、DPAZn(II)AcとDPAPt(II)Acの2種類のモノマーの混合比を変化させて共重合し、得られた高分子金属錯体の組成比との関係からモノマーの反応比を求めました。その結果、DPAZn(II)AcとDPAPt(II)Acの共重合においては、混合比とほぼ等しい組成でランダム共重合体を形成することが明らかとなりました。そして、実際にZn : Pt = 2 : 1やZn : Pt = 1 : 1のモル比でモノマーを共重合させると、それらに対応する金属組成比を有する高分子金属錯体が得られることを実証しました。

最後に、共重合化して得られた高分子金属錯体を使い、金属錯体のナノ粒子を作製しました。側鎖の亜鉛錯体や白金錯体部位がDNA鎖と結合する性質を利用し、プラスミドDNAをテンプレートとして、レゴブロックのように高分子金属錯体を凝集させました。この凝集体に対し、動的光散乱法(DLS)、走査型透過電子顕微鏡(STEM)、エネルギー分散型X線分析(EDS)などの種々の分析を行った結果、亜鉛と白金を含有するDNA鎖と高分子金属錯体の複合体(ポリプレックス)が形成されたことを確認しました。

今回検討された合成法を使用すると、意図した構造や金属組成比を有する高分子化合物を合成することが可能であることが示唆されました。また、DNA鎖に結合する性質を利用することで、金属錯体ナノ粒子を作製可能であることがわかりました。

今回の研究成果について、研究を主導した大澤助教は「本研究は新規の触媒開発や貴金属使用量の削減に繋がります。また、水に可溶な金属錯体は創薬分野のシーズでもあります。今回発表した高分子金属錯体はDNA結合性分子であり、抗がん剤や遺伝子キャリアなどの用途で新たな高分子医薬開発への展開も見込めます」と話しています。

※ 本研究は日本学術振興会の科研費(20K15346)の助成を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名

Chemical Communications

論文タイトル

Controlled polymerization of metal complex monomers - fabricating random copolymers comprising different metal species and nano-colloids

著者

Shigehito Osawa, Sosuke Kurokawa and Hidenori Otsuka

DOI

10.1039/d1cc07265j

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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