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2022.03.17 Thu UP

スピン軌道トルクメモリに固有の読み出し障害を克服する新たな読み出し方式を開発
~超低消費電力型デバイス実現に向けた新たな一歩~

研究の要旨とポイント

  • 昨今、超低消費電力型デバイスを実現する方法の一つとして、磁気抵抗RAM(MRAM)の開発が進んでいます。SOT-RAM(スピン軌道トルクメモリ)は、スピン軌道相互作用を用いて書き込み電流を一桁低減できる次世代MRAMとして注目されています。
  • 本研究では、SOT-RAMのメモリセルに記憶された値を読み取る際に、比較的大きな電流が自由層に流れることで、記憶された値が意図せずに逆転し、読み出し障害が起こるという、これまで見過ごされていた課題を見出し、この問題を解決する技術として、読み出し電流を重金属層内で両方向に流す『両方向読み出し方式』を提案しました。
  • この技術はSOT-RAMの製品化に必須のものであり、今後の応用が期待されます。

東京理科大学工学部電気工学科の河原尊之教授らの研究グループは、SOT-RAM(スピン軌道トルクメモリ)の読み出し信頼性を向上させるため新たな読み出し経路を持つ両方向読み出し方式を提案し、これにより磁化反転電流としては従来経路より10倍程度のディスターブ低減が可能になりました。

昨今、超低消費電力型デバイスを実現する方法の一つとして、磁気抵抗RAM(MRAM)の開発が進んでいます。SOT-RAMは、スピン軌道相互作用を用いて書き込み電流を一桁低減できる次世代MRAMとして注目され、研究が進められています。しかし今回、研究グループは、SOT-RAMのメモリセルに記憶された値を読み取る際に、比較的大きな電流が自由層に流れることで、記憶された値が意図せずに逆転し、読み出し障害が起こるという、これまで見過ごされていた課題を見出しました。

この課題を解決する技術として、研究グループは、読み出し操作中に、読み出し電流を重金属層内で両方向に流す『両方向読み出し方式』を提案しました。読み出し電流を両方向に流すことで、スピンホール効果(※1)により生成されたスピン流が相殺され、その結果、SOT-RAM読み出し障害を起こす原因が取り除かれて安定し、信頼性の高い読み出しが可能となります。

提案した両方向読み出し方式SOT-RAMの実現に向け、材料パラメータ依存性、および素子サイズ依存性の検討も行ったところ、いずれの材料パラメータ、素子形状でも提案方式のディスターブ低減を確認できました。これらの調査結果は、メモリセルデザインの指針となります。また、メモリセルの場所によって電流パスの抵抗が異なることの影響も調べた結果、1000個程度までは共通の配線に接続しても十分なディスターブ低減を得られることもわかりました。

本研究は、次世代の磁気メモリとして注目されるSOT-RAMに固有の課題を見出し、解決案を提示した画期的な成果と言えます。この技術はSOT-RAMの製品化に必須のものであり、今後の応用が期待されます。本研究成果は、2022年2月24日に国際学術誌「IEEE Transactions on Magnetics」にオンライン掲載されました。

研究の背景

MRAMデバイスは、絶縁体を挟んだ二つの磁気層からなる『磁気トンネル接合』に情報ビットを記憶します。自由層と固定層の磁化方向が同じ場合は値『1』を、反対方向の場合は値『0』を記憶します。

最新のMRAMとして最も一般的なものが、STT-RAM(スピントランスファトルク磁気RAM)です。STT-RAMで書き込みを行う場合、接合の固定層でスピン流が生成され、自由層に流れ込むのですが、この電流の方向が、書き込む値を制御します。製品化が進んでいるSTT-RAMですが、更なる書き込み電流低減と高信頼化が必要とされており、次世代RAMとしてスピン軌道相互作用を用いて書き込み電流を一桁低減できるSOT-RAMが有望視され、研究が進められています。

SOT-RAMでは、磁気トンネル接合に接続された重金属層に書き込み電流が流れ込み、スピンホール効果により、書き込み電流が純粋なスピン流を生成し、そのスピン流が自由層に送られて書き込み操作が行われます。つまり、SOT-RAMでは、読み出しと書き込みの電流経路が異なります。そのため、従来は、SOT-RAMではディスターブは小さいと考えられていました。

研究結果の詳細

河原教授らの研究グループは、SOT-RAMのメモリセルに記憶された値を読み取る際に、比較的大きな電流が自由層に流れることで、記憶された値が意図せずに逆転し、読み出し障害が起こるという課題を見出しました。これまで、STT-RAMとSOT-RAMの読み出し機構は同一であることから、読み出し障害も同じであると考えられていました。しかし、河原教授らは、SOT-RAMが読み出し時に障害を起こす原因はそれだけではなく、スピンホール効果によって誘導されたスピン流に起因する障害も起こりうることを発見しました。

そこで河原教授らは、新たに発見されたSOT-RAMに固有のこの問題の解決案として、読み出し操作中に、読み出し電流を重金属層内で両方向に流す方式を提案しました。これにより、スピンホール効果により生成されたスピン流が相殺され、SOT-RAM読み出し障害を起こす原因が取り除かれて安定し、信頼性の高い読み出しが可能となります。

提案した両方向読み出し方式SOT-RAMの実現に向け、材料パラメータ依存性、素子サイズ依存性、およびメモリセルアレー抵抗依存性の検討も行いました。まず、異なる磁化容易軸(※2)を持つ材料で生じる障害を調査したところ、提案方式ではいずれの材料でも不必要なスピン流が解消され、読み出し障害を削減することが示されました。次に、素子サイズの違いが障害の削減効果に与える影響を調べましたところ、どのサイズの素子でも磁化反転のしきい値電流は高く、読み出し障害の低減が確認されました。

このように、いずれの材料パラメータ、素子形状でも、提案方式のディスターブ低減が確認できました。これらの調査結果は、メモリサルデザインの指針となります。

また、提案方式のディスターブ低減の際に自由層に発生していた磁化渦を含む磁化状態から、自由層の左右の磁化にスピン流が作用して磁化渦を挟んで磁化が拮抗し合うことでディスターブ低減が起こっていることもわかりました。

さらに、実際のアレイ構造ではビット線とソース線の両方に電流を流すことになるため、メモリセルの場所によって電流パスの抵抗が異なることの影響も調べた。その結果、1000個程度までは共通の配線に接続しても十分なディスターブ低減を得られることも明らかにしました。

持続可能なIoT時代に必須の理想的な不揮発性RAMとして、MRAMの開発が進んでいます。SOT-RAMは高速で耐久性、安定性に優れた次世代MRAMです。また、MRAMを採用することでコンピュータの構成要素をスタンバイ状態ではオフにして必要な時に瞬時に起動するノーマリーオフコンピューティングを実現できることから、より高速で信頼性が高く、エネルギー効率の優れたデバイスの開発につながります。このように、次世代の磁気メモリとして注目されるSOT-RAMに固有の課題を見出し、解決案を提示した本研究は、SOT-RAMの製品化に必須の技術であり、今後の応用が期待されます。

※本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤(C)(19K04536)の助成を受けて実施したものです。

用語

※1 スピンホール効果:電流が流れることにより、スピン軌道相互作用の効果で、電流と垂直の方向に磁気の流れが発生する現象。

※2 磁化容易軸:結晶磁気異方性(磁性体における磁化の安定性が結晶方位によって異なる性質)を持つ磁性体において、磁化され易い結晶方位のこと。

論文情報

雑誌名

IEEE Transactions on Magnetics

論文タイトル

Examination of Magnetization Switching Behavior by Bi-directional Read of Spin-orbit-torque MRAM

著者

Yuwa Kishi, Akihiro Yamada, Mengnan Ke, and Takayuki Kawahara

DOI

10.1109/TMAG.2022.3154025

研究室

河原教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?69ac

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