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住宅用火災警報器の作動点検していますか?
~住警器の設置・点検の実態と住宅火災被害の低減効果~
研究の要旨
東京理科大学大学院 理工学研究科 国際火災科学専攻の水野雅之准教授らの研究グループは、築10年以上40年未満で住宅用火災警報器(以下、住警器)が1つでも設置されている住まいに居住する家庭を対象に、主に次に示す項目についてWEBアンケート調査を行い、また東京消防庁管内の住宅火災の被害を住警器の設置状況との関係で分析し、設置義務化から10年以上が経過し更新が求められる住警器の現状と課題を明らかとしました。
- 各室の住警器の設置状況
- 住警器の定期的な点検状況
- この調査時に住警器を作動点検した結果(正常動作していたか)
- 今後の住警器の更新の予定 など
消防法により全国で設置が義務づけられている寝室の住警器の設置率は、全国平均で約50%に留まりました。台所(DKやLDKを含まない)の住警器の設置率は、条例で設置が義務づけられている地域で約70%、設置義務ではなく推奨されている地域で約55%強でした。
住宅における部屋別の火災件数は、居室出火が台所出火より多く1.5倍で、居室出火の火災被害は、火災100件当たりの死者数の平均値を比較すると、住警器が設置されていた場合は設置されていなかった場合の半分以下でした。また、台所出火の火災被害は、住警器の設置の有無により、同様に平均値で比較すると火災100件当たりの死者数は大凡4倍の差、損害額は大凡10倍の差が見られ、居室出火、台所出火共に住警器の設置効果が高いことを改めて確認しました。
住警器の交換の目安は最長で設置から10年となっています。2006年に新築、2008年から2011年までに既存住宅にも住警器の設置が義務化されて以来、少なくとも1回目の更新の時期を迎えています。消防庁の調査によれば、電池切れ又は故障の割合は2019年に調査対象世帯の約1%でしたが、2020年には約2%に増大しました。そして、2020年の年末に実施した本研究の調査では8.3%という非常に高い結果を得ました。正常動作しない住警器が放置される状態は火災被害を増大させる可能性があります。また、住警器の作動点検の頻度が高いほど(1年以内毎に点検を実施)正常動作しない住警器が設置されていた割合が低い結果を得ました。したがって、住警器はその使用年数に応じて更新すると共に、定期的な作動点検を行うことで、万が一火災が発生した時にその効果を発揮することが期待されます。
気温が下がるこの時期は、地域によっては乾燥も相まって火災被害が増大しますが、年末の大掃除の機会を捉えて住警器の設置箇所の見直し並びに作動点検を行ってもらいたいと思います。そして、住警器が広く普及することで一層の火災被害の低減につながることを願っています。
研究の背景
住宅用火災警報器1(以下、住警器)は、2006年6月1日に、改正された消防法が施行されたことに伴い、新築住宅への設置が義務化されました。既存住宅については市町村の条例に定められた日から設置が義務化され、その時期は2008年6月1日から遅くとも2011年6月1日までと法令で定められました。また、時を同じくしてSiセンサーコンロ2が2008年4月に販売開始され、さらにガスコンロに関する改正法令が2008年10月1日に施行されたことを受けて普及が促進され、ガスコンロの火災件数の減少につながりました。住宅火災被害の低減は、こうした家庭で使われる機器の安全装置の普及なども相まって実現されています。そして、住警器は、万が一火災が発生した際に早期感知並びに周囲の人々に火災の発生を知らせ、初期消火や避難を促し、火災被害の低減に一定の効果を上げています。
既存住宅への住警器の設置義務化の期限から10年を経た現在、住警器の交換の目安は最長でも設置から10年であるため、義務化の当時に設置された住警器は更新する時期に差し掛かっています。例えば、新築住宅に住み始めから住警器が設置されていた場合は、既存住宅に住警器を自ら取り付けた場合と比較すると、交換の目安が10年であることを把握していないことが心配されます。こうしたことを踏まえて、日本火災報知機工業会では「10年たったら、とりカエル。」をキャッチコピーに「とりカエル」というキャラクターを使って広報活動を展開しています。
本研究は、総務省消防庁が推進する消防防災科学技術研究推進制度の研究課題として令和2年度に採択され、東京消防庁や民間企業の共同研究者と共に、住警器の設置、点検、更新に関する実態調査に加えて、適切な広報施策などを検討することを目的として実施されました。さらに、東京消防庁管内で発生した住宅火災に関する火災報告データを用いて、住警器の設置の有無による火災被害の差を明らかにすることで、住警器の設置効果に関する広報資料を整備することを試みました。
研究成果の概要
図1は、寝室、台所、寝室以外の客間等(以下、客間等)の3種類の部屋における住警器の設置率を示しています。表1に示すように3種類の部屋について各地域における住警器の設置義務づけ状況は異なり、寝室は日本全国で設置が義務化されており、台所は東京都で義務化、9道府県では市町村毎に異なり義務化もしくは推奨され、これらの10都道府県以外のその他の県は全域で設置が推奨されています。ここに、9道府県とは北海道、宮城県、神奈川県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、京都府、滋賀県です。また、寝室以外の居室である客間等は東京都においてのみ義務化されています。全国一律で設置が義務づけられている寝室は、全国平均で見て50%程度であることが分かります。一方で、台所は、調理のために熱源を使用するため火災につながるという意識が働き、住警器の設置が義務でなく推奨されている地域でも設置率が比較的高くなっています。

表1 主な部屋別の住警器の設置義務
(設置義務の区分 ○:有、△:無(推奨)、-:無)
地域\部屋 | 寝室 | 台所 | 寝室以外の居室 (客間等) |
---|---|---|---|
東京都 | ○ | ○ | ○ |
9道府県 | ○ | ○/△* | - |
その他の県 | ○ | △ | - |
*:宮城県と京都府は全域で設置義務。他の7道府県(北海道、神奈川県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、滋賀県)は市町村により異なり設置義務と推奨に分かれる。
(引用元:日本火災報知機工業会HP「市町村別の設置場所」)
表2は、2018年及び2019年中に東京消防庁管内で発生した住宅火災を対象に、出火場所として居室と台所に分類して火災報告データ3を分析した結果です(いずれも2年間の合計値や平均値を表します)。居室及び台所共に、住警器の設置によって、初期消火が奏功した割合が9ポイント程度上昇しています。また、居室は、住警器の設置の有無によって、火災100件当たりの死者数や火災1件当たりの焼損床面積について2倍以上の差がありました。住警器の設置条件のみによって死者発生や火災拡大が左右されるわけではありませんが、住警器の設置によって火災被害が低減できる可能性が示唆されます。一方、台所は、住警器の設置の有無によって、火災100件当たりの死者数で4倍、火災1件当たりの損害額で10倍の差が見られ、火災1件当たりの焼損床面積の平均値は住警器が設置されていた場合は小火に相当する1㎡未満となっています。さらに、住宅火災の発生件数を居室出火と台所出火で比較すると、居室出火の方が多く1.5倍程度であり、住警器の設置率が半分程度に留まっている寝室にも住警器が普及することによって火災被害低減につながることが期待されます。
表2 東京消防庁管内の住宅火災データ
(2018・2019年合算。放火及びその疑いを除く)

図2は、これまでの住警器の作動点検の頻度別に、アンケート調査実施時に回答者に住警器の作動点検を実施してもらった結果を示しています。調査対象の住警器は設置から10年経過しているものが約1/3を占めた中で、定期的な点検を1年以内に実施していた世帯では一つでも住警器が正常動作していなかった割合が4.9%で(電池切れまたは故障を表示した割合が2.1%、動作しなかった割合が2.8%で、両方に該当の回答者1名は後者に含めました)、これまでに1回も点検したことが無かった世帯では13.7%に及びました(同様に、電池切れ/故障を表示が3.8%、動作せずが9.9%で、両方に該当の回答者1名は後者に含めました)。したがいまして、住警器の定期的な作動点検が万が一の火災発生時に機能を果たす上で重要であることが分かります。なお、消防庁が実施した作動点検に関する同様の調査では、2019年に約1%、2020年に約2%の世帯で正常動作していなかった住警器が確認され増大傾向が疑われ、また2020年末に実施した本研究の調査における全体の標本平均では8.3%の世帯となりました。この差は、消防庁の調査において築年数が浅い住宅が含まれていたこと等の影響も考えられますが、正常動作しない住警器がさらに増大し、ひいては住警器の設置率低下につながり、結果として火災被害が拡大する可能性を有していますので、警鐘を鳴らすべき状況にあると考えています。

今後の展望
消防庁や日本火災報知機工業会などの関係機関と情報共有を図ると共に、特に寝室への住警器の設置率の更なる向上や、定期的な点検や更新と言った適切な維持管理が促進されるための施策についても検討を進める計画です。
用語
1・・・住宅用火災警報器:火災を感知して警報する機能が一体になった装置であり、感知方式として煙式と熱式があります。略称として住警器と表現されます。一定の範囲内にある住警器同士が無線通信によりいずれかの住警器が火災を感知した際に他の住警器も連動して警報を発する無線連動型、ガス漏れ警報器やCO(一酸化炭素)センサー等の他の機能も備えた複合型などもあります。
2・・・Siセンサーコンロ:「調理油過熱防止装置」や「立ち消え防止装置」といった法律で設置が義務づけられている安全装置に加え、「消し忘れ消火機能」や「早切れ防止機能」を追加し、また便利機能として「自動炊飯機能」や「油温度調節機能」等を追加したガスコンロです。
3・・・火災報告データ:消防統計の一つである火災報告に関わるデータを指し、火災1件ごとに消防機関で作成される火災報告における様々な情報が整理されたものの総称です。出火建物の用途や延べ床面積等の建物情報、住警器の設置や作動状況等の消防設備に関する情報、発火源や着火物、出火に至った経過等の火災発生に関わる情報、焼損床面積や死傷者数などの火災被害に関わる情報等、多数の情報が統計データとして整理されています。
研究従事者
◎東京理科大学 理工学研究科 国際火災科学専攻
水野 雅之
◎東京消防庁 防災部 防災安全課 生活安全係
竹内 伸弥
◎東京ガス株式会社 技術革新部 技術研究所
伊東 秀二
◎ホーチキ株式会社 技術生産本部 開発研究所
江幡 弘道
◎矢崎エナジーシステム株式会社 ガス機器事業部 ガス機器開発センター
名川 良春 波多野 博憲
本研究内容に関するお問合せ先
東京理科大学 理工学研究科 国際火災科学専攻 准教授 水野雅之
e-mail:mizuno【@】rs.tus.ac.jp
【@】は@にご変更ください。
水野准教授
大学公式ページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?3665
東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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