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液滴の衝突から凝固までのプロセスを高精度で再現する手法の開発に成功
~デポジション現象を予測する上での普遍的なモデルの確立に有用~
研究の要旨とポイント
- ジェットエンジンやガスタービン内部に火山灰などの粒子が流入し、燃焼器で融解した後タービンに付着するデポジション現象は、安全性や性能を大きく低下させてしまうため、その現象に対する理解を深める必要があります。
- 本研究では、基板の温度変化を考慮した新たな数値解析モデルを新たに開発し、溶融液滴の衝突、吸着、凝固の一連の現象において、実験値を精度よく再現することに成功しました。
- 本研究の成果は、デポジション現象の予測における普遍的なモデルとして活用されると期待されます。
東京理科大学工学部機械工学科の福留功二助教、山本誠教授、電気通信大学大学院情報理工学研究科機械知能システム学専攻の守裕也准教授、大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻の山本憲助教らの研究グループは、金属液滴が基板表面に衝突してから吸着し、凝固に至るまでの一連の現象をE-MPS法(※1)と格子法をカップリングした数値計算により、高精度で再現することに成功しました。本手法から得られる結果は、実際の実験データとよく一致しており、その妥当性が高いことも示されています。また、新たに基板の温度変化に着目した検討を行うことで、液膜の形状変化のメカニズムを明らかにしました。本研究をさらに発展させることで、デポジション現象の詳細の解明、予測への活用、さらには同様の流体解析における新たな解析モデルとなることが期待されます。
デポジション現象とは、稼働中のジェットエンジンやガスタービンなどにおいて、吸い込まれた小さな砂やごみが溶融し、内壁に衝突、吸着、凝固することを指します。これにより、タービンブレードの変形、冷却効率の低下などの様々なトラブルが生じるため、その詳細を明らかにすることが課題となっていました。これを解決するために、解析的手法を用いた研究が行われてきましたが、実際の実験データとの整合性を得るためのパラメータ調整が必要となり、現在まで普遍的な解析モデルは確立されていませんでした。
そこで本研究では、溶融液滴が基板表面に衝突する際の熱伝導に着目し、基板の温度変化を格子法で考慮した数値計算を行いました。これにより、数値計算と実験データとの差異を小さくすることができると考え、実際に両者の比較を行うことで本モデルの妥当性を評価しました。本研究グループは、粒子法の1つであるE-MPS法を使って、金属スズ単一の溶融液滴を非等温性のステンレス基板に衝突させ、液膜が吸着、凝固する様子を詳細に追跡しました。各種検討により、数値計算から得られた結果と実際の実験データがよく一致することを確認し、デポジション現象において本モデルの妥当性が高いことを実証しました。また、液膜が拡散する際に液膜周囲に発生するfinger形状(液滴中の液体が円状の輪郭から外に、指のように細長く飛び出した形状)やbump形状(finger形状ほど細長くはないものの、液体が炎上の輪郭から外に飛び出て、液滴の輪郭が凸凹になる形状)の発生メカニズムが、レイリー・テイラー不安定性(※2)、プラトー・レイリー不安定性(※3)などの既知の物理現象によって説明されることを示しました。
本研究成果は、2021年8月15日に国際学術誌「International Journal of Heat and Mass Transfer」にオンライン掲載されました。
研究の背景
デポジション現象などの流体解析の手法として、格子法や粒子法が使用されてきました。格子法とは計算格子を使用した数値計算法で、格子ごとのパラメータを設定できることが特徴です。一方で、流体が複雑に変化する場合は現象を詳細に再現できないため、不向きとされています。それに対し、粒子法は、対象の流体を小さな粒子の集合体として扱う数値計算法で、複雑な形状の流体や形状変化の大きな流体の解析に効果を発揮します。本研究グループはこれらの解析手法の特性を考慮して、粒子法の1つであるE-MPS法を本研究に適用し、デポジション現象を詳細に再現する試みを行いました。また、従来設定されていなかった基板の温度変化を解析に組み込むことで、より実測に近いシミュレーションを行うことを目指し、検討を行いました。
研究結果の詳細
溶融液滴については、金属スズを使用し、初期直径2.2mm、初期温度519Kで初速度4.0m/sで1.2mmの高さから基板に衝突させるモデルを構築しました。基板については、ステンレス製で大きさ10mm×2.0mm、厚さ2.0mm、初期温度298Kに設定しました。また、基板の温度変化を考慮する設定を組み込み、時間による変化を追跡しました。
まず、液滴が基板に衝突後、冷却されて凝固するまでの液膜の振る舞いを、構築したモデルに基づく計算結果と実験データとの比較を行いました。計算による結果では、液滴が基板に衝突するとすぐに液滴の大きさが減少し、薄膜が基板表面に拡散する様子を再現することができました。具体的には、衝突後0.6msで液膜の周囲にfinger形状が発生し、1.1ms~2.9msで液膜表面の凝固が著しく進行し、3.8msにはほぼすべての液膜が凝固しました。これらの一連の計算結果は、実験データとよく一致していることを確認しました。
次に、液滴の衝突直後の基板の温度分布について、中心部の温度が周辺部よりも低いドーナツ型になることを明らかにしました。これは、中心部で液膜の凝固が早く進行するので、周辺部と比較して液体粒子からの熱伝達が起こりにくいことが原因であると考えられます。また、時間の経過に伴って、液体粒子が固体粒子に変化する際の潜熱により、厚みのある中心部に多くの熱が供給され、中心部の温度が上昇することも明らかにしました。
さらに、液膜が拡散する際に観察されるfinger形状やbump形状の発生メカニズムについて検討しました。その結果、液膜が拡散する初期段階では、自身の粘性抵抗による減速がトリガーとなって、レイリー・テイラー不安定性が支配的となり、finger形状が生成されることを明らかにしました。液膜の拡散終了直後には、粒子の摂動が弱まることによってプラトー・レイリー不安定性が支配的となり、周縁部にbump形状が生成されると結論付けました。
今回の研究成果について、福留功二助教は「液滴衝突のシミュレーションは数多く行ってきましたが、実験から得られたデータとの差異がどうしても無視できませんでした。そこで、衝突する基板の温度変化を新たなパラメータとして加えられれば、より実験に近いデータを得られるのではないかと考え、研究を試みました。デポジションの予測に関する普遍的なモデルは未だに確立されていません。本研究の成果は、普遍的なデポジションモデルの作成の先駆けになると考えています」と話しています。
用語
※1 E-MPS(explicit moving particle simulation)法:流体を粒子の集合としてモデル化する粒子法の1つ。解析対象を格子でモデル化する格子法よりも複雑な形状を扱うことができる。流体界面が大きく変形する場合の数値計算に適している。
※2 レイリー・テイラー不安定性:異なる密度を有する2つの液体界面で、密度が大きい液体から密度が小さい液体に力が働き、界面の微小な凹凸から振動が発生、成長し、運動が不安定化すること。
※3 プラトー・レイリー不安定性:液体を円柱状に噴射すると、表面張力を小さくするため、円柱の表面が波打ち、運動が不安定化すること。
論文情報
雑誌名
International Journal of Heat and Mass Transfer
論文タイトル
Numerical simulation of the solidification phenomena of single molten droplets impinging on non-isothermal flat plate using explicit moving particle simulation method
著者
Koji Fukudome, Yusuke Muto, Ken Yamamoto, Hiroya Mamori, Makoto Yamamoto
DOI
10.1016/j.ijheatmasstransfer.2021.121810
研究室
福留功二助教のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?6B19
山本誠教授のページ:https://www.tus.ac.jp/academics/teacher/p/index.php?1699
山本研究室のページ:http://www.rs.kagu.tus.ac.jp/yamamoto/indexj.html
東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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