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2021.08.11 Wed UP

全固体電池の出力低下の原因を探る新手法を開発
~リチウム固体電解質の電気二重層効果を電界効果トランジスタで定量評価~

研究の要旨とポイント

  • 全固体電池の出力低下には固体電解質/電極界面の抵抗の影響が大きく、一因として界面付近でのリチウムイオン濃度変化に伴う電気二重層効果の関与が疑われていますが、固体電解質での検出や評価は困難でした。
  • 本研究では、新たに電界効果トランジスタの仕組みを電池材料解析に応用して、リチウム固体電解質界面での電気二重層効果の定量評価に成功しました。
  • リチウム固体電解質に含まれる元素によって電気二重層の挙動が全く異なること、そうした挙動が界面から5ナノメートル以内の非常に薄い領域の組成に支配されることが明らかになりました。今後は様々な材料に応用し高出力の次世代電池開発に繋がると期待されます。

東京理科大学理学部第一部応用物理学科の樋口透准教授、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の土屋敬志主幹研究員、同機構の寺部一弥MANA主任研究者らの研究グループは、電界効果トランジスタの仕組みを応用した新手法を開発し、従来困難だった固体電解質での電気二重層効果の定量評価に成功しました。全固体電池をはじめとする様々な次世代電池の高出力化への活用が期待されます。本研究成果は、2021年8月6日にシュプリンガー・ネイチャーの化学専門誌「Communications Chemistry」にオンライン掲載されました。

次世代電池の最有力候補である全固体電池の出力低下には固体電解質/電極界面の抵抗の影響が大きいことが知られており、一因として電気二重層効果の関与が疑われています。しかし、液体電解質に比べて材料内部で電荷補償が起こりやすい固体電解質では、電気二重層効果の検出や評価は困難でした。
今回、研究グループは、化学的に不活性なダイヤモンドを用いた電界効果トランジスタを利用する新手法を開発し、異なる元素を含む2種類のリチウム固体電解質の界面を調べました。その結果、リチウム固体電解質A(Li-Si-Zr-O)では電気二重層効果によるダイヤモンド表面の正孔密度の変化が顕著であることに対して、リチウム固体電解質B(Li-La-Ti-O)では変化が全く観察されませんでした。これは固体電解質Aの界面では電気二重層効果が生じダイヤモンド側に正孔が注入されることと対照的に、固体電解質Bでは内部で電荷補償が起こっていることを示しています。さらに、界面付近にナノ薄膜を挿入した実験を行った結果、電気二重層の挙動が界面から5ナノメートル以内の非常に薄い領域の電解質組成に支配されることが明らかとなりました。
今回の成果によって、本手法で固体電解質の電気二重層効果を検出・評価可能であることや、同じリチウム固体電解質でも種類によって電気二重層の挙動が全く異なること、界面ごく近傍の電解質組成を制御することで電気二重層効果を数桁に渡って制御できることがわかりました。今後は、様々な元素を含む電解質材料の電気二重層の調査や、電池の界面抵抗との比較を通して、高出力な次世代電池開発への活用が期待されます。

全固体電池の出力低下の原因を探る新手法を開発~リチウム固体電解質の電気二重層効果を電界効果トランジスタで定量評価~

図.(a)全固体電池の模式図。(b)ダイヤモンド表面の正孔密度のゲート電圧依存性。負のゲート電圧を増すことでLi+がダイヤモンド界面からゲート電極側に移動する。(c)Li+固体電解質Aを用いた場合(左)と、Li+固体電解質Bを用いた場合(右)。

研究の背景

全固体電池はカーボンニュートラル実現に向けた次世代電池の最有力候補であり、電気自動車(EV)をはじめ、幅広い応用が期待されています。高いエネルギー密度や安全性への期待が高まる一方、電解質/電極界面の高い界面抵抗(※1)に由来する出力低下が本格的普及への課題となっています[図(a)]。高い界面抵抗の起源は明らかでなく、色々な機構が検討されていますが、一因として界面近傍でのリチウムイオン濃度変化に起因する電気二重層効果(※2)の影響が疑われています。しかし、液体電解質に比べて材料内部で電荷補償が起こりやすい固体電解質では、電気二重層効果の検出や評価は従来困難でした。

研究結果の概要

樋口准教授らの研究グループは、電界効果トランジスタ(※3)の仕組みと化学的に不活性なダイヤモンドの特徴を利用して、固体電解質界面の電気二重層の電荷をホール測定(※4)で評価する新手法を開発しました。今回は、異なる元素を含む2種類のリチウム固体電解質の界面を調べました。その結果、図(b)に示すようにリチウムと酸素の他にシリコンとジルコニウムを含むリチウム固体電解質A(Li-Si-Zr-O)では電気二重層効果によってダイヤモンド表面の正孔密度が3桁にも渡って変化することに対して、チタンとランタンを含むリチウム固体電解質B(Li-La-Ti-O)では変化が全く観察されませんでした。これは固体電解質Aでは界面で電気二重層効果が生じていることと対照的に[図(c)左]、固体電解質Bでは内部で電荷補償が起こっていることを示しています[図(c)右]。さらに、界面付近にナノ薄膜を挿入した実験を行った結果、正孔密度変化の挙動が界面から5ナノメートル以内の非常に薄い領域の電解質組成に支配されることが明らかとなりました。固体電解質Bで電気二重層効果による正孔密度の変化が起こらない機構を調べるために、走査型透過型電子顕微鏡-電子エネルギー損失分光法(STEM-EELS)によるその場測定を行った所、電解質内部でチタンの酸化数変化が起こっていることがわかりました。固体電解質Bではチタンの酸化還元反応によって図1(c)に示す様な電解質内部での電荷補償が起こっていると考えられます。

今後の展望

新たに開発した手法で固体電解質の電気二重層効果を調査し、材料の種類によって蓄積される電荷密度が桁違いであることが明らかとなりました。今後は様々な元素を含む電解質材料に応用して電気二重層の挙動を調査するとともに、電池における界面抵抗との比較を行い、界面抵抗の低減によって高出力を実現する次世代電池開発に活用する予定です。

※本研究はJSPS科研費新学術領域研究「蓄電固体界面科学」公募研究A04(JP20H05301)、科研費(JP19K05279)、及び特別研究員奨励費(JP19J22244)の助成を受けて実施されました。STEM-EELSはNIMS蓄電池基盤プラットフォームの援助を受けて実施されました。

用語

※1 界面抵抗:電極と電解質の間のリチウムイオン移動に伴う電気抵抗。界面抵抗が高いとリチウムイオンの移動が制限されるため、高速の充放電が困難になり出力も低下する。

※2 電気二重層効果:電解質中の電荷をもったイオンが電極の界面に集まって正または負の電荷を帯びた層を生じ、逆符号の電荷が等密度で電極に分布して、全体として正負の電荷が界面付近に分布する効果。

※3 電界効果トランジスタ:ゲート電極に電圧(ゲート電圧)を加えることで、半導体で出来たチャネル領域に生じる電界によって電子または正孔の密度を制御し、ソース・ドレイン電極の間の電流を制御する方式のトランジスタ。

※4 ホール測定:ホール効果(物質中に流れる電流に垂直方向に磁界を加えると電流と磁界に垂直な方向に電界が生じる現象)を利用して電子キャリア密度や移動度を求める測定。

論文情報

雑誌名

Communications Chemistry

論文タイトル

The Electric Double Layer Effect and its Strong Suppression at Li+ Solid Electrolyte/Hydrogenated Diamond Interfaces

著者

Takashi Tsuchiya, Makoto Takayanagi, Tohru Kazutaka Mitsuishi, Masataka Imura, Shigenori Ueda, Yasuo Koide, Tohru Higuchi, Kazuya Terabe

DOI

10.1038/s42004-021-00554-7

発表者

土屋敬志 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 主幹研究員(責任著者)
高栁真  東京理科大学大学院 理学研究科 応用物理学専攻 博士後期課程3年
三石和貴 物質・材料研究機構 先端材料解析研究拠点 副拠点長
井村将隆 物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 主任研究員
上田茂典 物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 主任研究員
小出康夫 物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 特命研究員
樋口透  東京理科大学 理学部第一部 応用物理学科 准教授
寺部一弥 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 MANA主任研究者

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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