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2021.06.03 Thu UP

白血球減少症治療薬/脱毛症治療薬セファランチンとHIVプロテアーゼ阻害剤ネルフィナビルの併用が新型コロナウイルス感染症治療に有効な可能性

研究の要旨とポイント

  • 既に承認されている薬剤を対象にin vitroスクリーニングを行った結果、白血球減少症治療薬/脱毛症治療薬セファランチンとHIVプロテアーゼ阻害剤ネルフィナビルの併用が、新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対して高い抗ウイルス効果を示しました。
  • セファランチンはウイルスと標的細胞の吸着を妨げることでウイルスの侵入を阻害し、ネルフィナビルはプロテアーゼを阻害することによりウイルスの複製を阻害するという異なる作用機序を持つことから、シナジー効果が生じると考えられます。
  • 本研究で示されたのはまだ実験室レベルの有効性ですが、今後、有望なCOVID-19治療薬候補として、セファランチンとネルフィナビルの併用について更なる研究が待たれます。

東京理科大学理工学部応用生物科学科の大橋啓史研究員、渡士幸一客員教授(国立感染症研究所治療薬・ワクチン開発研究センター 治療薬開発総括研究官兼任)、倉持幸司教授、同大学薬学部生命創薬科学科の青木伸教授、田中智博助教は、既に承認されている薬剤を対象にin vitroスクリーニング試験を行った結果、抗炎症剤セファランチンとHIVプロテアーゼ阻害薬ネルフィナビルの併用が、レムデシビルやクロロキン単剤よりも新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対して高い抗ウイルス効果を示すことを突き止めました。本研究成果は、2021年4月23日に国際学術誌「iScience」にオンライン掲載されました。

本研究では、SARS-CoV-2に感染させた細胞を用い、既に承認されている薬剤を対象にスクリーニング試験を行いました。その結果、白血球減少症治療薬/脱毛症治療薬セファランチンとHIVプロテアーゼ阻害薬ネルフィナビルの併用が、新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対して高い抗ウイルス効果を示しました。これは、セファランチンはウイルスと標的細胞の吸着を妨げることでウイルスの侵入を阻害し、ネルフィナビルはウイルスプロテアーゼの触媒活性を阻害することによりウイルスの複製を阻害するという異なる作用機序を持つことから、シナジー効果が生じたためだと考えられます。
また、実験で得られた抗ウイルス活性と肺における薬物濃度をもとに作成した数理モデルからは、ネルフィナビル投与によりウイルス排除は4.9日早まり得ること、セファランチンとネルフィナビルの併用投与によりさらに有効性が高まることが推定されました。

本研究から、セファランチンとネルフィナビルの併用の実験室レベルの有効性が示されました。今後、有望なCOVID-19治療薬候補として、セファランチンとネルフィナビルの併用投与の有効性と安全性についての更なる研究が待たれます。

研究の背景

SARS-CoV-2によって引き起こされる新型コロナイウルス感染症(COVID-19)は世界中で猛威をふるい続けており、ワクチンに加えて治療薬の開発も火急の課題となっています。現在、もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビルなどアメリカ食品医薬品局(FDA)承認済み薬や、新たな薬剤のCOVID-19に対する有効性を検討する研究が数多く進められています。

本研究では、SARS-CoV-2に感染させたVeroE6/TMPRSS2細胞を用い、既に承認されている薬剤を対象にスクリーニング試験を行いました。さらに、実験で得られた抗ウイルス活性と肺における薬物濃度をもとに作成した数理モデルから、臨床現場におけるSARS-CoV-2の動態も予測しました。

研究結果の詳細

感染細胞実験でのスクリーニング試験の結果、セファランチンとネルフィナビルを含む承認薬が高い抗ウイルス作用を示しました。今回研究チームが行ったtime-of-addition試験(※1)の結果、セファランチンはウイルスと細胞の吸着を主に阻害すると示唆されました。これは、セファランチンが他のヒトコロナウイルス(OC43)の侵入を減少させるという先行研究と一致する結果です。スパイクタンパク質とセファランチンの関係については本研究ではまだ十分な検証ができていませんが、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質を標的としたワクチン開発が現在世界中で進められていることからも、今後、セファランチンが中和抗体の抗ウイルス活性を増強するのか、またワクチンに抵抗性を示すウイルス株にも有効性を示すのかを明らかにすることが求められます。

ネルフィナビルは、これまでの研究から他の種のコロナウイルスSARS-CoVの複製を阻害することが報告されており、本研究から、SARS-CoV-2に対しても抗ウイルス活性を示すことが明らかになりました。ネルフィナビルは、μMオーダーの濃度でもSARS-CoV-2の複製を阻害することが感染実験から示され、またメインプロテアーゼの触媒活性を阻害することもin vitro酵素アッセイ系で証明されました。このように、セファランチンとネルフィナビルはウイルスの生活環の異なるステップに作用することから、併用によってより高い抗SARS-CoV-2効果が期待できます。

SARS-CoV-2の動態を予測した数理モデルからは、ネルフィナビルは治療期間を通じて臨床濃度で有意な抗ウイルス作用を示し、その結果として累積ウイルス量を約8%にまで、ウイルス排除に要する期間を約4.9日短縮され得ると推定されました。一方セファランチンは、現在の白血球減少症治療薬に用いられる経口投与量では抗ウイルス作用が得られず、静脈投与によって肺中薬物濃度を高めることにより持続的な抗ウイルス効果が可能になると推定されました。
ウイルス量の累積は疾患の進行と他者への伝播リスクを高めることから、本研究で提案するような異なる作用機序を持つ薬剤の併用投与は、臨床アウトカムの改善だけでなく、伝播を抑えるという観点からも有効であると考えられます。

※ 本研究は主に、日本医療研究開発機構の新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業などの助成を受けて実施したものです。

用語

※1 time-of-addition試験:細胞へのウイルス感染実験において、感染から薬剤を添加するまでの時間を変化させることにより、ウイルス生活環における薬剤の作用点を切り分ける試験。

論文情報

雑誌名

iScience

論文タイトル

Potential Anti-COVID-19 Agents, Cepharanthine and Nelfinavir, and Their Usage for Combination Treatment

著者

Hirofumi Ohashi, Koichi Watashi, Wakana Saso, Kaho Shionoya, Shoya Iwanami, Takatsugu Hirokawa, Tsuyoshi Shirai, Shigehiko Kanaya, Yusuke Ito, Kwang Su Kim, Takao Nomura, Tateki Suzuki, Kazane Nishioka, Shuji Ando, Keisuke Ejima, Yoshiki Koizumi, Tomohiro Tanaka, Shin Aoki, Kouji Kuramochi, Tadaki Suzuki, Takao Hashiguchi, Katsumi Maenaka, Tetsuro Matano, Masamichi Muramatsu, Masayuki Saijo, Kazuyuki Aihara, Shingo Iwami, Makoto Takeda, Jane A. McKeating, and Takaji Wakita

DOI

10.1016/j.isci.2021.102367

東京理科大学について

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
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