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2021.05.27 Thu UP

植食者の唾液中に共生する微生物が、被食者である植物の防御応答を調節
~植物と害虫の多様な相互作用メカニズムの一端が明らかに~

研究の要旨とポイント

  • 害虫の唾液内で共生する微生物が、植物の防御応答に影響を及ぼしていることが明らかになりつつありますが、いまだ詳細は不明確で十分な理解には至っていません。
  • 本研究では、ハスモンヨトウの唾液中の共生微生物のうち表皮ブドウ球菌の存在が、シロイヌナズナにおける植物ホルモンによるシグナル伝達を調節し、防御応答を抑えることを明らかにしました。
  • 農薬に依存しない次世代の有機農法の開発などにつながることが期待されます。

東京理科大学先進工学部生命システム工学科の有村源一郎教授らの研究グループは、広食性の農業害虫として知られ、野菜や果樹など幅広い種類の作物に食害をもたらすハスモンヨトウの幼虫と、モデル植物として幅広く研究されているシロイヌナズナを用いて、植食者の唾液に含まれる共生微生物の存在が、植物ホルモンのバランスを変化させて防御応答を調節していることと、さまざまな共生微生物の中で、自然界に普遍的に分布している表皮ブドウ球菌が、その効果を発現させている微生物の一つであることを明らかにしました。本研究成果は、2021年5月1日に国際学術誌「New Phytologist」にオンライン掲載されました。

近年、害虫の唾液に含まれるエリシター(植物の防御応答を誘導する化学因子)を植物が感知して防御応答を示すことが明らかになり、植物が個体内、個体間でシグナル分子を介してコミュニケーションを行い、多様な防御機構を働かせていることに注目が集まっています。最近、害虫の唾液内で共生する微生物についても、植物の防御応答に影響を及ぼすことが報告されていますが、植物の防御応答を調節する植物ホルモンのバランスに及ぼす効果が害虫と植物の種類によって多様であることから、いまだ十分な理解には至っていません。

本研究の成果は、植物と害虫の多様な相互作用メカニズムの一端を明らかにするものであり、ひいては農薬に依存しない新たな有機農法の開発などにつながることが期待されます。

研究の背景

植物は植食者である害虫にただ無抵抗に食べられるのではなく、害虫による食害を感知して自身の免疫力を高め、できるだけ捕食されないような防御応答をしていることが知られていますが、植物がどのように害虫を認識して自身の免疫力を高めるのかについては長く不明でした。しかし、近年の研究成果の蓄積によって、害虫の唾液に含まれる、植物の防御応答を誘導するエリシターのはたらきに加えて、唾液内で共生する微生物が植物の防御応答に何らかの影響を及ぼしていることが明らかになりつつあります。これまで特に、植物の防御応答に中心的な役割を持つジャスモン酸と、それに拮抗的に作用することが知られているサリチル酸という2種類の植物ホルモンのシグナル伝達の活性化・抑制化のバランスに、唾液内の微生物が及ぼす影響に注目した研究がいくつか行われてきましたが、研究対象となる虫と植物の組み合わせにより異なる結果が得られたことなどを理由として、唾液内に共生する微生物と植物の間の相互作用メカニズムについての詳細な理解には至っていませんでした。

研究結果の詳細

本研究において、さまざまな作物に食害をもたらすことが知られているハスモンヨトウの幼虫と、モデル植物として幅広く研究されているシロイヌナズナを用いて実験を行いました。通常の条件で育てたハスモンヨトウの幼虫から取り出した、微生物を含む口内抽出物(OS+)と、無菌条件で卵から育てたハスモンヨトウの幼虫から取り出した、微生物を含まない口内抽出物(OS)を、傷を付けたシロイヌナズナの葉に作用させたところ、前者の場合に後者と比較してジャスモン酸類のシグナル伝達が低下し、逆にサリチル酸とアブシジン酸のシグナル伝達が上昇する結果となりました。OS+、OSをそれぞれ作用させた葉における防御遺伝子の転写レベルを比較したところ、OS+の場合に、ジャスモン酸類に応答する防御遺伝子の転写レベル、サリチル酸に応答する防御遺伝子の転写レベルがOSの場合よりもそれぞれ減少、増加しました。実際にシロイヌナズナの葉を、通常条件で育てたハスモンヨトウの幼虫と、無菌条件で育てたハスモンヨトウの幼虫にそれぞれ捕食させたところ、前者のほうが、より大きな面積が捕食される結果となりました(下図参照)。これらはハスモンヨトウの幼虫の口内で共生している微生物の存在によって、植物の防御応答が抑えられていること、すなわち、共生関係にあるハスモンヨトウにとって有利に働くように、微生物が機能していることを示しています。

また、ジャスモン酸類、サリチル酸、アブシジン酸それぞれの植物ホルモンのシグナル伝達機能を欠損させた4種のシロイヌナズナを用いて、同様にOS+、OSを作用させる実験を行い、結果としてOS+の作用によってサリチル酸、アブシジン酸のシグナル伝達が活性化し、それがさらにはジャスモン酸類のシグナル伝達を低下させるというメカニズムが明らかとなりました。

さらに、OS+のゲノム解析の結果、ハスモンヨトウの幼虫の口内抽出物には計70種の微生物が含まれることが分かりました。そのうち、ハスモンヨトウの体内に似た環境かつ低酸素条件で増殖可能な嫌気性微生物として単離できたのは5種で、それぞれをOSに加えて、上記と同様に傷を付けたシロイヌナズナの葉に作用させたところ、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)のみがOS+の場合とほぼ同じ結果を示すことが分かりました。すなわちハスモンヨトウの幼虫とシロイヌナズナの関係においては、ハスモンヨトウの唾液内で共生している表皮ブドウ球菌の存在が、植物ホルモンのバランスを調節してシロイヌナズナの防御応答を抑えるように機能していることが強く示唆されました。一方で、植物に限らずヒトの皮膚などさまざまな場所に存在し、特に植物との関係性が深いとは言えない微生物である表皮ブドウ球菌が、なぜそのような役割を果たしているのかは不明であり、今後その詳細が明らかになることが期待されます。

有村教授は本研究の成果について、「近年、農薬散布などによる土壌や水域の環境汚染が問題視されはじめています。また、農薬による生物多様性への影響も深刻です。植物と害虫の相互作用の作用メカニズムを理解することは、農薬に依存しない次世代の有機農法の開発につながり、安心安全な食と豊かな環境づくりに貢献することができます。」と話しています。

植食者の唾液中に共生する微生物が、被食者である植物の防御応答を調節~植物と害虫の多様な相互作用メカニズムの一端が明らかに~

図.通常飼育もしくは無菌飼育されたハスモンヨトウ幼虫に食害されたシロイヌナズナ葉における被食面積。
*は統計的に有意に異なることを示す。

※ 本研究は、日本学術振興会科研費「基盤研究(B)」(20H02951)、文部科学省科研費「新学術領域研究(研究領域提案型)」(18H04786、20H04786)などの助成を受けて実施したものです。

論文情報

雑誌名

New Phytologist

論文タイトル

Phytohormone-dependent plant defense signaling orchestrated by oral bacteria of the herbivore Spodoptera litura

著者

Yukiyo Yamasaki, Hiroka Sumioka, Mayu Takiguchi, Takuya Uemura, Yuka Kihara, Tomonori Shinya, Ivan Galis, Gen-ichiro Arimura

DOI

10.1111/nph.17444

東京理科大学について

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