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宇宙空間での長期滞在に必要な「食」の要素技術に関する基礎研究第1弾
~低圧環境下での袋型培養技術による植物の生育状態を確認~
株式会社竹中工務店
国立大学法人千葉大学
東京理科大学
竹中工務店(社長:佐々木正人)は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙探査イノベーションハブに採択された「袋型培養技術を活用した病害虫フリーでかつ緊急時バックアップも可能な農場システムの研究」を、JAXA、キリンホールディングス、千葉大学、東京理科大学スペース・コロニー研究センター※1と産学連携で実施しました。
本基礎研究は、将来の宇宙空間で人間が長期滞在するための「衣・食・住」技術のうち、「食」に焦点を当て、宇宙空間での自給自足を実現することを目的としています。
※1 https://www.tus.ac.jp/rcsc/
■共同研究の概要
本共同研究は、低圧環境下における袋型培養技術を活用した宇宙農場システムの基礎的試験を行い、その成立性を確認したものです。試験作物は、ビタミンC源としてのレタスの植物体、炭水化物源となるジャガイモの種イモ、タンパク質源となるダイズ苗を対象として実証的確認を行いました。
これらの作物を生産するために、キリンホールディングスが開発した、小規模な密閉袋の中で植物体を増殖させることができる袋型培養技術を活用しました。なお、本技術は野菜や花のウイルス(病原)フリー苗の培養などにも使用されています。
また、宇宙環境において地球と同等の気圧にするための加圧による様々な負荷を極力低減するため、低圧環境下での生育可能性の実験を千葉大学の低圧植物育成チャンバーで行い、実験後には、栄養成分評価、物質収支評価※2、低圧栽培の成立性などの基礎的確認を行いました。
袋型培養技術 |
低圧植物育成チャンバー |
宇宙農場システムに袋型培養技術を組み込むことで、居住フェーズに合わせた小ロット栽培とウイルスフリー苗供給の両機能を兼ね備える安心な農場システム構築の可能性を確認できました。また、栽培設備において常圧までの加圧が不要となることで、宇宙に構築する施設の構造体を簡素化でき、建設資材の低減が期待できます。
※2:目標とする栄養成分を生産するために必要な培養液成分量を分析評価
更に、これらの実験結果を用いて、少人数が生活するために必要な栄養成分を生産できる農場システムの規模を試算し、月面農場モデルのイメージを作成しました。農場は近年発見された溶岩洞の利用を想定して月面内部に設置し、低圧区には袋型培養を利用した栽培エリア、常圧区には滞在者の居住エリアがあります。
月面農場モデルイメージ |
なお、本共同研究の成果については、2019年12月に開催される「The 3rd International Moon Village Workshop & Symposium」でパネルを展示します。
※本共同研究は、JAXAが受託した国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)イノベーションハブ構築支援事業に基づき実施したものです。
■背景
宇宙空間での長期滞在技術のうち、食料の安定供給は重要な研究のひとつになります。1980年頃から、アメリカ航空宇宙局(NASA)等が作物栽培の可能性に関する様々な研究を行いました。その結果、国際宇宙ステーションでの実証実験により、宇宙空間でレタス等を栽培できることが確認されています。2025年頃に建造される「月軌道Gateway計画」が公式に発表される中、日本においても、近年JAXAに月面農場ワーキンググループ※3が設置されました。幅広い専門分野の有識者が招集され、研究が進められています。
※3 http://www.ihub-tansa.jaxa.jp/Lunarfarming.html
■今後の取り組み
現在、宇宙での長期滞在が現実味を帯びている中、「食」に関する研究はますます重要になると思われます。
当社は次のステップとして、国際宇宙ステーション等の微小重力環境下における生育等の実験を実現するため、JAXA、キリンホールディングス、千葉大学、東京理科大学スペース・コロニー研究センターとの連携で研究のレベルアップを図ります。また、今回研究を行っている宇宙農場システムを、長期滞在のための居住空間として、JAXAやNASA等の宇宙機関への提案につなげていきます。
この件に関するお問い合わせは下記にお願いいたします。
㈱竹中工務店 広報部 ℡ 03-6810-5140
東京理科大学について
東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/
ABOUT:https://www.tus.ac.jp/info/index.html#houjin
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