ニュース&イベント NEWS & EVENTS

2024.09.25 Wed UP

-絶滅危機に瀕したニホンライチョウの保全へ-
寄生虫から身を守る鍵の一つは高山植物にあった

大阪公立大学
東京理科大学

ポイント

◇ ニホンライチョウが食べる複数種の高山植物に、寄生虫を殺す効果があることが判明。

◇ ニホンライチョウだけでなく、同じ寄生虫に感染する家畜等の抗虫対策への展開が期待。

概要

ニホンライチョウは、絶滅危惧IBに指定されているキジ科の鳥類で、日本アルプスのみに生息しています。これまでの保全活動の中で、約8~9割の野生下のニホンライチョウは、2種のアイメリア原虫に感染していることが明らかになっています。アイメリア原虫は、主に鳥類や草食動物に寄生して、下痢や血便、削痩※1等を引き起こします。しかし、ニホンライチョウの野生下での感染状況は不明な点が多く、特にアイメリア原虫からどのように身を守っているかは明らかになっていませんでした。

大阪公立大学大学院獣医学研究科の原口 麻子特別研究学生、松林 誠教授と東京理科大学 創域理工学部の倉持 幸司教授らの共同研究グループは、ニホンライチョウが好んで食べる7種の高山植物から23種の二次代謝産物※2を抽出。鶏に寄生するアイメリア原虫にこれらを作用させたところ、複数の二次代謝産物に原虫を殺す効果があることが分かりました。本成果は、ニホンライチョウの人工繁殖や野生復帰に向けた取り組みへ重要な知見を提供するほか、鶏等の家畜におけるアイメリア原虫対策への応用展開が期待されます。

-絶滅危機に瀕したニホンライチョウの保全へ-高山植物が寄生虫からライチョウを守っていた可能性

ニホンライチョウの雛と雌親

本研究成果は、2024年7月14日(日)に、国際学術誌「International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife」のオンライン速報版に掲載されました。

原口 麻子特別研究学生のコメント

日本アルプスに思いを馳せ、絶滅が危惧されるニホンライチョウの保全に少しでも貢献できればと思い、研究を行いました。

研究の背景

日本アルプスのみに生息するニホンライチョウの数は近年減少してきており、日本の絶滅危惧IBに指定されています。本研究グループはこれまでの保全活動の中で、野生下のニホンライチョウが高率に2種のアイメリア原虫に感染していることを報告し、うち1種は2018年に新種であることを発表しました。アイメリア原虫は世界的に広く分布する寄生虫で、主に鳥類や草食動物の消化管粘膜に寄生し、下痢や血便、削痩等を引き起こします。特に、鶏や牛等の家畜で大きな被害をもたらしており、ニホンライチョウが感染した場合でも、下痢や沈鬱※3、場合により死んでしまう可能性があることが分かりました。しかし、ニホンライチョウの日本アルプスでの生態含め、野生下での感染状況については不明な点が多く、特にアイメリア原虫からどのように逃れているのかは謎でした。

研究の内容

ニホンライチョウは、鳥類では珍しく植物を摂取して生きています。人工繁殖による野生復帰を目指すべく、餌となる日本アルプスに植生する高山植物を調べました。その結果、多くの特徴的な二次代謝産物を含有する事が分かりました。アイメリア原虫に感染する時期と、これらの植物を摂取する時期が同じであったため、これらの代謝産物の抗原虫作用の解析を行いました。

ニホンライチョウが好んで摂取する7種の高山植物から、23種の二次代謝産物を抽出し、鶏に寄生するアイメリア種を実験モデルとして、これらを作用させました。その結果、4種の植物由来、6種の抽出物において、原虫を殺す作用があることが分かりました。比較対象として、ニホンライチョウが摂取しない高山植物2種からも二次代謝産物を抽出しましたが、抗原虫作用は確認できませんでした。感染実験等により、実際にこれら二次代謝産物を摂取した際の抗原虫作用を確認する必要はありますが、氷河期より遺存するニホンライチョウは、これらの高山植物を摂取することで、アイメリア原虫による病害を抑えている可能性が初めて示されました。

-絶滅危機に瀕したニホンライチョウの保全へ-高山植物が寄生虫からライチョウを守っていた可能性

期待される効果・今後の展開

ニホンライチョウの保全に向けて、人工繁殖や野生復帰を目指した活動などさまざまな取り組みが実施されていますが、アイメリア原虫への感染対策をどのように講じるかが大きな課題となっていました。本研究により、高山植物の摂取が、アイメリア原虫への感染による発症を防ぐ可能性を見出すことができました。一方で、これらの二次代謝産物は完全に感染を抑止できない可能性があることも分かりました。つまり、原虫への感染量を減らすことで発症は抑止されますが、軽度な感染が残ることにより原虫への免疫が誘導され、後から原虫を野外で摂取しても防除できる、二重の対策を行っていると考えられます。

また、抗原虫作用が確認された高山植物由来の二次代謝産物を、鶏等の家畜に給餌することで、世界的に問題となっている家畜における原虫対策への応用展開が期待されます。

資金情報

本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費)基盤研究(B)(19H04319、23K26932)の支援を受けて行われました。

用語解説

※1 削痩…痩せて、体重が減少すること。

※2 二次代謝産物…基本的な生命活動とは別に自然界で生き抜くために機能していると考えられる化合物。

※3 沈鬱…元気がなくなり、活動的でなくなること。

掲載誌情報

発表雑誌

International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife

論文名

Anticoccidial activity of the secondary metabolites in alpine plants frequently ingested by wild Japanese rock ptarmigans

著者

Asako Haraguchi, Jyunki Nagasawa, Kouji Kuramochi, Sayaka Tsuchida, Atsushi Kobayashi, Toshimitsu Hatabu, Kazumi Sasai, Hiromi Ikadai, Kazunari Ushida, Makoto Matsubayashi

掲載URL

https://doi.org/10.1016/j.ijppaw.2024.100967

東京理科大学について

東京理科大学
詳しくはこちら

当サイトでは、利用者動向の調査及び運用改善に役立てるためにCookieを使用しています。当ウェブサイト利用者は、Cookieの使用に許可を与えたものとみなします。詳細は、「プライバシーポリシー」をご確認ください。