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ユーチスコパロールAとビオールアセオイドCの全合成を達成
~薬学応用に向けた生理活性の解明に大きく前進~
研究の要旨とポイント
- 2020年に単離されたユーチスコパロール類はビオールアセオイド類と共通の骨格を有しながらも、その薬理活性調査が行われていませんでした。
- 今回、非対称化を伴うビオールアセオイドAの改良型全合成をサブグラムスケールで達成することで、ユーチスコパロールAとビオールアセオイドCの全合成法を確立しました。
- ユーチスコパロール類およびビオールアセオイド類の薬学応用に向けた基礎となる重要な成果です。
研究の概要
東京理科大学理学部第一部応用化学科および東京理科大学研究推進機構 総合研究院 創薬研究開発センターの村田貴嗣助教、椎名勇教授らの研究グループは、2020年に単離され、効率的な合成法の開発が望まれていたユーチスコパロールAとビオールアセオイドCの全合成を達成しました。さらに、同グループが2018年に報告したビオールアセオイドAの全合成法をさらに改良し、抗菌活性や抗マラリア活性などをもつビオールアセオイドAおよびビオールアセオイドBをサブグラムスケールにて供給可能としました。これによりユーチスコパロールAへの変換を容易とし、その全合成を達成しました。本成果は、ビオールアセオイド類ならびにユーチスコパロール類のさらに詳細な薬理活性を調べる礎になる技術であり、将来的には新薬開発につながる可能性が期待されます。
2020年に単離されたユーチスコパロール類は、ビオールアセオイド類と共通の骨格を有しながらもその薬理活性調査が行われてきませんでした。ビオールアセオイド類はがん細胞に対する細胞傷害や抗菌活性、抗マラリア活性などを有することから、ユーチスコパロール類も有用な生物活性を有すると期待されます。
そこで今回、ユーチスコパロール類の薬理活性解明に取り組む基盤として、全合成法を確立しました。さらに、ユーチスコパロール類の合成に用いたビオールアセオイド類をサブグラムスケールで合成できたことから、ビオールアセオイド類の薬学応用に向けても大きく前進しました。
本研究成果は、2024年7月15日に国際学術誌「Asian Journal of Organic Chemistry」にオンライン掲載され、掲載号の表紙に選出されました。
研究の背景
ユーチスコパロール類は2020年に単離されたばかりの新規キノール型化合物です。ユーチスコパロールAは、2,3-アルキル化キノール部位とヒドロキシメチル基からなる、ビオールアセオイドA–Cと共通した構造骨格を持っています。ビオールアセオイド類は抗菌活性や抗マラリア活性などを有することから、共通の骨格を持つユーチスコパロール類も有用な生理活性をもつ可能性がありますが、詳細な生理活性はまだわかっていません。
本研究グループは2018年、ビオールアセオイドAおよびBの全合成に初めて成功しました。その後、他の研究グループもビオールアセオイド類の研究に取り組み、ビオールアセオイドAのより簡便な全合成法や、ビオールアセオイドCの全合成法、ユーチスコパロールAの全合成法などが発表されました。
こうした研究の進展を受け、今回、本研究グループは、ユーチスコパロールAとビオールアセオイドCの全合成を、新たに独立した研究成果として達成しました。
研究結果の詳細
まずユーチスコパロールAとビオールアセオイドCの逆合成解析(*1)を行い、合成経路を検討しました。その結果、いずれの化合物もビオールアセオイドAから合成できることが予測されました。そこで本研究グループは共通の中間体でもある天然物のビオールアセオイドAの改良型の全合成にも取り組むこととしました。ビオールアセオイドAはアルデヒドから増炭することで導けると考えました。さらにこれまで、2つの反応を連続的に行うことで得ていたエステルを1つの反応に集約し、1工程減らすことにも成功しました。
次に、ビオールアセオイドAとビオールアセオイドBのラセミ体(rac-2)の合成法の改良を行いました。Julia–Kocienski反応を用いることで、トランス異性体を選択的に合成することができ、アルキル化を経由する経路に比べて効率化できました。これらの改良により、ビオールアセオイドAの全合成は、以前の研究の10工程、収率11%から8工程、収率33%まで改善することができました。また、rac-2の全合成も改良し、8工程で35%の収率を達成しました。
最後に、ビオールアセオイドCとユーチスコパロールAの合成を行いました。ビオールアセオイドCの合成は、ビオールアセオイドAの二重結合を水素化することで効率よく得ることができました。一方、ビオールアセオイドAからユーチスコパロールAへの変換には、3つのヒドロキシ基のうち2つを選択的にメチル化する必要がありました(図)。試行錯誤の結果、炭酸カリウムとヨードメタンを用いた還流条件下で、ユーチスコパロールAが良好な収率で得られました。結果として、ビオールアセオイドCの全合成は9工程、収率30%、ユーチスコパロールAの全合成は9工程、収率28%で達成しました。

図. 対称形のジニトリルからのビオールアセオイドCとユーチスコパロールAの合成法。
以上のように、本研究では、非対称化を伴うビオールアセオイドAの改良型全合成をサブグラムスケールで達成することにより、ユーチスコパロールAのみならずビオールアセオイドCの全合成も達成できました。これらは、ビオールアセオイド類ならびにユーチスコパロール類の薬理活性を明らかにする上で基盤となる重要な成果です。
用語
*1 逆合成解析
目的物から材料となる化合物や触媒条件など、効率のよい合成経路を導き出す手法。
論文情報
雑誌名
Asian Journal of Organic Chemistry
論文タイトル
Total Synthesis of Eutyscoparol A and Violaceoid C
著者
Takatsugu Murata, Takuto Iwayama, Teppei Kuboki, Shotaro Taguchi, Shou Tsugawa, Takumi Yoshida, Hisazumi Tsutsui, Ayana Shimauchi, Yukiho Kosaka, Isamu Shiina
DOI
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