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2023.03.08 Wed UP

高伝導率の配線をデバイス上に容易に描画できる技術の開発に成功
~従来よりも簡便かつ低コストで作製が可能、貼り付け型センサなどへの応用に期待~

研究の要旨とポイント

  • 室温、大気圧下でプラスチックフィルム上に多層カーボンナノチューブ(MWNT, ※1)を直接作製する手法を開発しました。
  • レーザー照射条件を変化させて作製することにより、抵抗値をシームレスに制御できることを明らかにしました。
  • 本研究をさらに発展させることで、配線材料、センサデバイス、エネルギー変換デバイスなど、さまざまな分野での応用が期待されます。
高伝導率の配線をデバイス上に容易に描画できる技術の開発に成功~従来よりも簡便かつ低コストで作製が可能、貼り付け型センサなどへの応用に期待~

東京理科大学先進工学部電子システム工学科の生野孝准教授、小松裕明氏(2022年度修士課程2年生)、杉田洋介氏(2022年度修士課程1年生)、松浪隆寛氏(2022年度学部4年生)の研究グループは、室温、大気圧下でプラスチックフィルム上に多層カーボンナノチューブ(MWNT)配線を作製する、従来よりも簡便な方法の開発に成功しました。また、作製時のレーザー照射条件を変化させることで、抵抗値や線幅が異なるMWNT配線を選択的に作製できることを明らかにしました。今後の研究のさらなる発展によって、新たなナノカーボン材料を迅速に提供することができ、軽量で柔軟なセンサ、エネルギーの変換・貯蔵デバイスなど、さまざまな次世代デバイスの実現につながることが期待されます。

カーボンナノチューブ(CNT)は、炭素原子が共有結合してできたナノ材料の1つです。炭素のみからできているため、非常に軽く、構造的に安定で強度も高いことが特長です。また、熱伝導性や電気伝導性にも優れており、次世代のナノカーボン材料として注目が集まっています。近年では、基板上にMWNTを転写したデバイスの研究が広く行われていますが、その製造には専用の設備が必要となること、手間となる転写工程を繰り返し行う必要があることなど、いくつも課題がありました。そこで本研究グループは、これらの課題を解決するために、さまざまな抵抗値をもつMWNT配線をプラスチック基板上に作製する手法の開発に取り組みました。

本研究では、ポリプロピレン(PP)基板上にMWNT薄膜をコーティングした後、レーザーを照射することで、MWNT配線を直接基板上で作製する手法を開発することに成功しました。作製した配線の抵抗は0.789~114kΩ/cmで、レーザー照射の条件を変更することにより制御できることも明らかにしました。また、配線の形成メカニズムを解明するために、実際の分析とシミュレーションを組み合わせた検討を行いました。その結果、レーザー照射によって高温になったMWNT層中にPPが拡散することによって、MWNT/PP複合体が形成され、それが集合してMWNT配線となることを明らかにしました。さらに、配線に使用されなかった余分なMWNTを回収して、新しい配線の製造に再利用できることも実証しました。

本研究成果は、2023年2月8日に国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

研究の背景

基板上にカーボンナノチューブ(CNT)を有するデバイスを作製する方法としては、主に「レーザー誘起順方向転写(LIFT)法」や「熱融合(TF)法」の2つの手法があります。LIFT法は、レーザーを照射した材料を対象基板に転写する方法であり、基板材料に依存しないことが特長です。しかしながら、配線抵抗を制御することが困難である、高価なパルスレーザーを必要とするなどの課題があります。TF法は、事前にCNTとポリマーを混合した材料をレーザーで局所的に加熱し、ポリマーを気化させることで配線を形成する方法です。この方法では、レーザー条件を変えることで、基板上の配線の抵抗を制御することができます。しかしながら、予め大量のCNTを調製する必要がある、高出力のレーザーを必要とするなどの課題がありました。

以上の背景から、本研究グループはより簡便に直接プラスチック基板上にMWNT配線を製造する方法の確立を目指し、研究を進めてきました。

研究結果の詳細

ホットプレート上に設置したPP基板を70℃に加熱し、室温、大気圧下でMWNT分散液を噴霧してPP基板表面をコーティングした後、レーザー照射を行いました。15分間超音波処理を行った後、窒素ガスを吹きつけて表面洗浄を行い、目的のMWNT配線を作製しました。本手法により作製したMWNT配線の抵抗は、レーザー条件に応じて0.789~114kΩ/cmの範囲で制御可能であること、線幅はレーザー走査速度ではなく、レーザー強度に依存することがわかりました。

また、本研究グループはMWNT配線形成のメカニズムについても検討しました。配線を電子顕微鏡で観察したところ、中心部に厚いMWNT/PP複合体が形成されていることがわかりました。MWNTにレーザーを照射することで発生した熱は各層に伝わりますが、MWNT層の方がPP層よりも熱を伝導しやすいので、MWNTとPPの界面が高温になります。そのため、PPからMWNT層への拡散が生じます。特に、レーザーの中心は高温となるため、基板から大量のPPがMWNT層に拡散します。一方、レーザーの端は低温となるため、少量のPPしかMWNT層に拡散しません。したがって、レーザーの中心では厚いMWNT/PP複合体が、レーザーの端では薄いMWNT/PP複合体が形成されることがわかりました。また、レーザー出力が増加するにつれて、MWNT/PP複合体の厚さが増加するため、抵抗が減少することが示唆されました。以上のメカニズムを明らかにしたことにより、レーザー条件の変化が異なる抵抗値を持つMWNT配線の形成に影響することを裏付けることができました。

さらに、MWNT配線の柔軟性を調べるため、繰り返し曲げたときの抵抗値の変化を確認しました。その結果、1000回の曲げサイクルの後でも抵抗値は変化せず、ほとんど一定であることがわかりました。一般的に、MWNTとポリマー複合材料は変形によって抵抗が変化することが知られています。これは、材料に力が加わることでMWNT間の距離が増加し、導電経路数が減少することが原因であると考えられています。一方で、今回の手法で作製したMWNT配線は、MWNT/PP複合体が高密度なため、繰り返し折り曲げても導電経路数に影響しないことが示唆されました。

最後に、PP基板上の未使用のMWNTのリサイクルについて検討しました。レーザーが照射されていない領域のMWNTを回収して、新たなMWNT水溶液を調製しました。回収したMWNT溶液を再び噴霧に使用して製造されたMWNT配線の抵抗はリサイクル後も変化しませんでした。この方法により、従来の熱溶融法よりもMWNTの使用量を削減でき、効率的に使用できることが実証されました。

本研究を主導した生野准教授は「本手法は室温・大気圧でカーボンナノチューブ配線やカーボンナノチューブデバイスをプラスチック上に形成することができます。従来に比べ、プロセスコストが大幅に低減できると考えられるので、大量普及が期待される貼り付け型センサの実現に貢献できます」と今後の研究の展開に期待を寄せています。

※本研究は、日本学術振興会の科研費(22K04880)、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(JPMXP1222NM0102)の助成を受けて実施されました。

用語

※1 多層カーボンナノチューブ:カーボンナノチューブに分類される物質の1つ。複数の単層カーボンナノチューブが重なってできている。

論文情報

雑誌名

Scientific Reports

論文タイトル

Direct formation of carbon nanotube wiring with controlled electrical resistance on plastic films

著者

Hiroaki Komatsu, Takahiro Matsunami, Yosuke Sugita and Takashi Ikuno

DOI

10.1038/s41598-023-29578-w

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