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2023.02.15 Wed UP

優れた電池特性を有するマグネシウム正極材料の開発に成功
~高エネルギー密度のマグネシウム二次電池の実現に向け大きく前進~

研究の要旨とポイント

  • スピネル型構造(※1)を有するマグネシウム酸化物(Mg1.33V1.67-xMnxO4)の合成および結晶構造、電子状態の解明に成功しました。
  • Mg1.33V1.57Mn0.1O4(x = 0.1)を正極材料として使用すると、256mAh/gという大きな放電容量が得られることを実証しました。
  • 本研究をさらに発展させることで、マグネシウム二次電池など、リチウムイオン二次電池に代替する次世代の蓄電デバイスの開発につながることが期待されます。

優れた電池特性を有するマグネシウム正極材料の開発に成功~高エネルギー密度のマグネシウム二次電池の実現に向け大きく前進~

東京理科大学理工学部先端化学科の井手本康教授らの研究グループは、高い放電容量を有し、蓄電池の正極材料として使用可能なマグネシウム酸化物(Mg1.33V1.67-xMnxO4, x = 0.1 ~ 0.4)の合成および結晶構造、電子状態の解明に成功しました。特にMg1.33V1.57Mn0.1O4(x = 0.1)を正極に組み込んだマグネシウム二次電池を作製し、充放電サイクルを繰り返し行うと256mAh/gという最も大きな放電容量を示すことを明らかにしました。今後の研究のさらなる発展によって、既存のリチウムイオン二次電池の電池特性を超える優れたマグネシウム二次電池の実現につながることが期待されます。

マグネシウム二次電池は原材料資源が豊富で、高エネルギー密度の実現が期待されるため、リチウムイオン二次電池に代替する次世代の蓄電池として注目を集めてきました。より大きな容量の実現を目的として、さまざまな異なる金属元素を含む酸化物系材料を対象とした研究が広く行われてきました。本研究グループは、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)の3種類の金属元素を含む複合酸化物に焦点を当て、金属の組成比と電池特性との相関性を解明すべく、研究を進めてきました。

本研究では、固相反応法(※2)により新たに4種類のマグネシウム酸化物(Mg1.33V1.67-xMnxO4, x = 0.1 ~ 0.4)の合成を行いました。各種分析の結果、いずれの酸化物も立方晶で空間群Fd¯3mを有するスピネル型構造を形成していることが示唆されました。また、放電容量は充放電のサイクル数、Mn組成比、作動温度によって変化することが明らかとなりました。特に、Mg1.33V1.57Mn0.1O4(x = 0.1)においては、充放電サイクルを繰り返し行うと、13サイクル目で256mAh/gという大きな放電容量を示すことを実験により明らかにしました。これは、VO6八面体の歪みが16dサイト(※3)を占有するMnイオンによって緩和され、x = 0.1の酸化物で最も小さくなるため、ホスト構造が安定していることが要因であると考えられています。

本研究成果は、2022年12月8日に国際学術誌「Journal of Electroanalytical Chemistry」にオンライン掲載されました。

研究の背景

近年、脱炭素社会の実現に向けて、蓄電池へのニーズがますます高まっています。現在の蓄電池の主流であるリチウムイオン二次電池は、スマートフォン、ノートパソコンなどの小型製品から電気自動車(EV)などの大型製品に至るまで、さまざまな場面で使用されています。一方で、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度には限界がきており、より高い電池特性を有する蓄電池の開発が喫緊の課題となっています。

マグネシウム二次電池は安全で扱いやすく資源量も豊富なため、低コスト化が期待できると同時に、体積当たりの放電容量も大きく、リチウムイオン二次電池を超える蓄電池として実用化への期待が高まっています。

本研究グループは、過去にMg(Mg0.5V1.5-xNix)O4など、マグネシウムと他の複数の金属元素を含む複合酸化物の結晶構造や電子構造、電池特性について明らかにしてきました。本研究では、高性能が期待される正極材料の開発を目指して、マグネシウム(Mg)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)の3種類の金属元素を含む複合酸化物に着目し、金属の組成比を系統的に変化させたときの結晶構造と物性との相関性を明らかにしました。

研究結果の詳細

原料であるMgO、V2O3、MnO2の混合比を調整した後、固相反応法により組成の異なる4種類のMg1.33V1.67-xMnxO4(x = 0.1~0.4)の合成を行いました。合成した酸化物について、粉末X線回折により相の同定、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)により金属組成の同定、透過電子顕微鏡(TEM)により粒子の形態観察を行いました。さらに、放射光X線回折で得られたパターンに基づく結晶構造と電子密度の解析と、X線吸収分光法(XAFS, XANES, EXAFS)により金属元素の価数分析や結晶構造のひずみ解析も行いました。各種分析の結果、いずれの酸化物においても、立方晶で空間群Fd¯3mを有するスピネル型の結晶構造であることがわかりました。一方で、x = 0.4の酸化物のみ、第二相であるペロブスカイト構造に対応する回折ピークが見られました。

次に、合成したマグネシウム酸化物に導電剤や接着剤を加えて正極とした後、金属マグネシウムや電解質と組み合わせることにより、マグネシウム二次電池を作製しました。作製したマグネシウム二次電池の電池特性を評価するため、充放電サイクルの測定を行いました。その結果、いずれの酸化物においても充放電サイクルを繰り返すことが可能であり、Vを適量のMnで置換することにより、放電容量とサイクル特性が向上することがわかりました。条件下において、x = 0.1の酸化物では、初期状態の73mAh/gに対して、13サイクル後に256mAh/g、x = 0.2の酸化物では、初期状態の77mAh/gに対して、10サイクル後に215mAh/gの大きな放電容量が得られることがわかりました。特に、テトラグライム(G4)電解質を使用すると、極端に低い配位能により負極の金属の溶解が抑制されるため、電池性能の向上に寄与することが示唆されました。

初期状態と1サイクル目の充放電後の電極のEXAFSスペクトルなどの結果から、結晶構造中のVO6八面体の歪みがMg2+の脱離と挿入を繰り返すことで大きくなることがわかりました。しかしながら、これらの歪みは16dサイトを占有するMnイオンによって部分的に緩和されるため、x = 0.1の酸化物においては結晶のひずみが最小となり、ホスト構造が安定化するため、高い放電容量に至ったと考えられます。

本研究を主導した井手本教授は「現在実用化されているリチウムイオン二次電池は定置用蓄電デバイスや電気自動車など、大容量の電池としての用途が今後期待されていますが、エネルギー密度には限界があります。今回開発したマグネシウム二次電池はリチウムイオン二次電池の性能を凌駕するポテンシャルを持っており、次世代の高エネルギー密度の二次電池としての役割が期待されます」とコメントしています。

※本研究は、科学技術振興機構 先端的低炭素化技術開発-次世代蓄電池(JST ALCA-SPRING, Grant No. JPMJAC1301)の助成を受けて実施されました。

用語

※1 スピネル型構造: AB2O4の組成式で与えられる化合物に見られる結晶構造。正スピネル型と逆スピネル型の2種類がある。例えば、正スピネル型では、四面体の空隙をA2+イオンが占有し、八面体の空隙をB3+イオンが占有する。

※2 固相反応法: 原材料である多結晶体を融解させることなく、固相から直接単結晶を成長させる方法。

※3 16dサイト: 結晶構造中のイオンの位置を表す。今回の場合は、16個のMnイオンが八面体位置を占有していることを示している。

論文情報

雑誌名

Journal of Electroanalytical Chemistry

論文タイトル

Electrochemical properties and crystal and electronic structure changes during charge/discharge of spinel type cathode-materials Mg1.33V1.67-xMnxO4 for magnesium secondary batteries

著者

Yasushi Idemoto1,2,3, Mina Takamatsu1, Chiaki Ishibashi1,2, Naoya Ishida1, Toshihiko Mandai3, Naoto Kitamura1,2

所属

1Department of Pure and Applied Chemistry, Faculty of Science and Technology, Tokyo University of Science, Japan.
2Research Group for Advanced Energy Conversion, Research Institute for Science and Technology, Tokyo University of Science, Japan.
3Center for Advanced Battery Collaboration, Center for Green Research on Energy and Environmental Materials, National Institute for Materials Science, Japan.

DOI

10.1016/j.jelechem.2022.117064

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